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Simple words 1

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Simple words


「愛してる」
それはとてもシンプルな言葉。
けれど、その言葉の中には語り尽くせぬ想いが詰まっている。
自分にとって、その言葉を口にするのはとても勇気がいる事だった。



UC0079年12月31日、あの日ジオンの要塞『ア・バオア・クー』が陥落し、後に一年戦争と呼ばれたジオン公国と地球連邦との戦争は終結した。
あの戦争で、アムロは大切な人たちを失った。
まず『両親』、死んだわけではない。
元々あまり縁は無かったが、戦時中に再会して完全にその繋がりが途切れたのだ。
父、テム・レイは酸素欠乏症でおかしくなってからも、自身の研究に没頭しアムロをその瞳に映す事は無く、母は軍人になった我が子を受け入れる事が出来ず、その手を離した。
そして『ララァ』、初めてアムロを理解し、受け入れた少女。
魂の半身とも言えるその少女の命を、アムロはその手で奪ってしまった。
己の取り返しのつかない過ちに、精神は崩壊寸前だった。正気を保てたのはおそらく、シャアの存在があったからだろう。
シャアに怒りをぶつけ、戦う事で正気を保っていたのだ。
心の何処かでシャアを求めながらも、“敵”だと、ララァを戦争に巻き込み、ニュータイプを戦いの道具にしたと怒りをぶつけた。
結局勝敗はつかなかったが、戦後もアムロの頭からシャアの存在が離れる事は無かった。
当時はシャア・アズナブルに対するその感情が何なのか、アムロには分からなかったのだ。
ただ、サイド6でMS越しでは無い、生身のシャアに会った時、畏怖の中にもう一つ別の感情が心に芽生えた事は確かだった。

そして数年後、シャアに再会した燃えるような夕陽の中で、アムロは唐突にその感情を理解した。
『自分はこの男を求めている』と、
純粋で優しく、そしてどこか脆いところのあるこの男の事を…自分は求めているのだと…。
共に同じ陣営で戦い、過去の蟠りから反発しつつも、この男に惹かれていく心を抑えられなかった。
そう、それは“恋”とか“愛”とかそんな感情だった。
そしてシャアも同じように自分を求めている事に気が付いた。
初めはララァと同じニュータイプである自分を求めているのだと…ララァの代わりだと思っていた。
しかし、そうでは無いと、“自分”だから求めていると言われた時、シャアを求め合わずにはいられなかった。
ダカールでのあの夜、互いの想いを確かめる様に抱き合った。
身体を重ね、その想いを確かめ合った。
しかし、シャアは自身の理想を追い求め、姿を消した。
分かっていた事だった。彼が何を求め、成し遂げようとしていたのか、重ねた肌から全て伝わってきたから。
そして、その方法が自分にはとても受け入れられない事である事も…。

UC0093年3月12日、再びアムロとシャアは戦った。
暴走するシャアを止められるのは、自分しかいないと理解った上で、アムロは全力で戦った。

…そして…アムロは、また大切な人を…愛する人を失った。

地球へと落下するアクシズを押し返し、奇跡的に落下を食い止めたものの、νガンダムとサザビーの脱出ポッドは引力に引かれて地球に落ちた。
かろうじて二人とも生きてはいたが、重傷を負ったシャアは、それから数日後、地球の片隅でその人生に幕を閉じた。

シャアの最期を看取り、アムロは今までの人生であんなに涙を流した事は無かったと思う程に泣いた。
身を引き裂かれるような心の痛みに、気が狂いそうな程に…。


それからアムロは、誰かを求めるのをやめようと思った。
そうすればもう失う事は無いから。
あの喪失感にはもう耐えられなかったから。


ーその筈だった…



「アムロ、朝だよ起きて!」
自分を起こす小さな手、そして朝陽に輝く金色の髪と空の様な青い瞳にアムロは目を細める。
「キャス、今日は休みだろう?もう少し寝かせてくれよ」
「ダメだよ!今日はセイラさんが来るんでしょう?」
「ああ…、そうだった…。分かったよ起きる…」
「もうすぐパンが焼けるから、急いで顔を洗って来てね」
「了解、すぐ行く」
「急いでよ!」
そう言って笑いながら部屋を出て行く後ろ姿を見つめ、アムロの顔に自然と笑みが浮かぶ。

アクシズショックから半年が経った頃、地球のセイラの屋敷に身を寄せていたアムロの元にどうやって調べたのか、ネオ・ジオンのナナイ・ミゲル大尉が単身訪れた。
その傍らに、小さな子供を伴って…。
子供は金髪碧眼、その面差しはアムロとセイラの知る男に瓜二つだった。
特にその男の幼い頃を知っているセイラは、あまりの事に暫く声を発する事が出来なかった程だ。
「アムロ・レイ、そしてアルテイシア様、無理を承知でお願い致します。この子を、シャア・アズナブルのクローンであるこの子を預かっては頂けないでしょうか?」
ナナイの言葉にアムロはセイラと二人、目を見開く。
しかしその事情を聞き、この依頼を引き受ける事にした。
総帥を失い、戦争に敗れたものの、ネオ・ジオンは各コロニーの支援を受けて存続していた。
そして、ネオ・ジオンのある一派がシャアの身代わりとなる存在をトップとし、また反乱を起こそうと動き出していた。
そのトップとなる人物は、おそらくシャアのパターンを刷り込んだ強化人間だが、その一派が、密かに培養をしていたシャアのクローン体の存在に気付き、処分に動き出したと言うのだ。
ナナイは唯一成功したクローン体を守る為、上層部にも内密にそのクローン体を連れ出し、地球のアムロの元に預けに来た。
アムロはあの事件でMIAの認定を受け、死亡した事になっており、連邦から完全に離れていた。むしろ、生きている事を知られないように逃げていた。
そして、当然ながらネオ・ジオンにも関係していない。
そんなアムロは、クローンを預けるのにうってつけの存在だった。
それに、ナナイはシャアとアムロの関係についても理解していた。
だからこそ、アムロならば決してこの子供を蔑ろにする事は無いと、守ってくれるだろうと思ったのだ。

その子供はまだ十歳くらいで、自身がクローンである事は理解していたが、培養ポットから目覚めたばかりのその心は真っさらなままだった。
そんな子供を見捨てる事など、アムロには到底出来なかった。
ネオ・ジオンのどの派閥の手に渡っても、この子供の未来に幸せなど見込めないからだ。
おそらく傀儡とされるか、処分されてしまうだろう。
当然、連邦の手に渡ってもまた、間違いなく処分されてしまう。
そんな事はさせられなかった。クローンとはいえ、あの人の遺伝子を受け継いだ子供なのだから。

「分かった。引き受ける」
アムロの返事に、ナナイは安堵の表情を浮かべ、セイラは複雑な表情を浮かべた。
それはそうだろう。
この子供は、大罪を犯した兄のクローンなのだから。
それにセイラもまた、アムロがシャアにどう言う感情を持っていたのかを知っていた。
だからこそ、アムロがこの子供を見捨てられない気持ちは理解出来た。
けれどそれがこの先、アムロにとっても子供にとっても悲しい結末にならないだろうかとの懸念もあった。
作品名:Simple words 1 作家名:koyuho