Simple words 2
Simple words 2
朝、アムロが目覚めるとテーブルの上に一枚のメモが置いてあった。
“今日は用事があるので早めに家を出ます”
キャスからのそのメモにアムロが溜め息を吐く。
「何だ?昨日は何も言ってなかったよな」
あのままソファで寝てしまったアムロは、髪をクシャリとかき混ぜ、あくびをしながらシャワールームへと向かう。
そしてふと、唇に指を当てる。
「久しぶりにシャアの夢を見たな…」
そんな事を考えつつも、生々しいその感触の残る唇にまさかと思う。
「…まさかな…」
そしてもう一度、キャスのメモに視線を向ける。
「…そんな訳…無いよな。アイツはまだ子供だし…シャアじゃない…俺は…アイツの保護者だ」
そう自分に言い聞かせるように首を振り、服を脱ぎ捨てシャワールームに入る。
コックを捻って熱いお湯を浴びながら、夢で見たシャアの顔を思い出す。
あの綺麗な顔とスカイブルーの瞳が優しく自分を見つめてくれた。そしてキスをして、頬を撫でてくれる温もりに涙が出た。
「シャア…」
その名を呟き、胸を締め付ける想いに唇を噛みしめる。
そして、まだ心の整理がついていない自分に少し呆れる。
「もう六年も経つのに…貴方を忘れられないなんて…」
お湯と共に、瞳から熱いものが流れ落ちる。
「シャア…シャア…貴方に逢いたい…っ…」
後から後から色々な感情が溢れ出してきて止まらない。それを抑えるように握り締めた拳を強く壁に叩きつけた。
「くっ…」
その拳に痛みを感じて鼻で笑う。
「痛い…ふふ…こんなに…苦しいのに、俺は生きてる。貴方がいなくても…生きてる…」
その場に崩れ落ちて両手で顔を覆う。
そんなアムロの脳裏に、キャスの笑顔が浮かび上がる。
“ニュータイプ”である自分では無く、一人の人間としての自分に無償の愛と信頼を寄せくれるキャス。
いつでも自分に寄り添って、好きだと言ってくれる。あの無邪気な笑顔にどれだけ救われただろう…。
「…あの子がいなかったら…生きていられなかったな…。あの子がいたから…生きてこられた…」
キャスの存在が、自分にとってどれだけ大きなものかを実感する。
『きっと、俺があの子の中にシャアを見てしまっていた事に気付いていただろうに…』
アムロは顔を上げると、両手で目を擦り涙を拭う。
「今日は…店を休んじゃおうかな」
シャワーを止めてタオルを取ると、足早にシャワールームを後にした。
その頃、アムロと顔を合わせるのが気まずくて、早めに家を出て学校に着いたキャスだったが、一睡も出来なかった身体は怠く、泣いて腫れた目元のままクラスメイトに会うのも嫌で、結局朝から医務室に篭っていた。
濡れたタオルで目元を覆い、ベッドに横になる。
「はぁ…情けないな…」
目を閉じて少し冷静になり、自身の醜態に呆れながらも、アムロへの溢れる想いに胸が熱くなる。
『アムロ…』
そうして暫く目を閉じているうちに、どうやら眠りに落ちてしまったようだ。
ゆっくりと意識が沈んでいき、身体から力が抜けていく。
しかし、少しすると真っ暗だった目の前が少しずつ明るくなってきて、誰かの話し声が聞こえる。
朦朧としながらも、キャスは今、自分が夢を見ているのだと自覚する。
コポリ、コポリと音がして、揺らめく目の前に気泡が浮かんで水面へと登っていくのが見える。
『水の中?僕は今、水の中にいるのか?』
ゆらゆらとした浮遊感と揺らめく景色に、そんな事を思う。
水の中でも息苦しくないのは、酸素マスクをつけられているからだろう。
シューシューと言う呼吸音も聞こえる。
キャスは何処か他人事のように、夢の中の自分の状況を確かめる。
「…か…ナナ……」
『誰か、男の人の話し声が聞こえる』
何処かで聞いた事のあるその声に、キャスは必死に耳を傾ける。
そしてもう一人、女性の声もする。
「大佐…で…から…」
二人は自分を見下ろしながら何かを話している。
それを必死に聞こうと耳を澄まし、薄っすらと目を開くと、男の顔が自分に近付いてきた。
水面越しに見えたその男の顔は何処か見覚えがあり、金の髪と青い瞳、そして眉間の間に傷痕が見えた。
『シャア・…アズナブル…』
それは、以前にアムロとシャアの関係を調べた時に見た、シャアの顔だった。
自分のオリジナルであるこの男が、何やらこちらに向かって話し掛けてくる。
「まさか私のクローンが作られているとはな」
溜め息混じりのその声に、女性が答える。
「大佐、大佐の存在はネオ・ジオンに、いえ、スペースノイドにとって掛け替えのないものです。そんな貴方の遺伝子を残すのは当然です」
「私が誰とも子を成さないと言ったからか…?私はネオ・ジオンを血で繋げる気はない」
『ザビ家の二の舞にはしない…』
「…大佐の意思を尊重すべきとも思いましたが、やはり貴方は我々の希望なのです」
「“希望”…か…、昔アムロに人身御供の家系だと言われた事があるよ」
『アムロ?』
アムロの名にキャスが反応する。
コポリと気泡が激しく上がり、シャアがキャスへと視線を戻す。
「アムロの名に反応したか?」
「そんなはずは…大佐の記憶はまだ移植していませんので」
「ほほう…」
シャアは意味深な表情を浮かべ、キャスを見つめる。
「お前もアムロに惹かれているのか?アレは…美しい。あの穢れのない魂の輝きは何ものにも代え難い…」
「大佐?」
「ナナイ、もしも私に何かあった時は…コレをアムロの元へ連れて行け」
「は?」
「どこかの派閥が私の影武者となる強化人間を準備していると聞いた。私にもしもの事があれば、おそらく“それ”が何か事を起こすだろう。その時コレは邪魔となる」
「大佐!もしもの時など!」
「連邦に戦争を仕掛けるのだ、何が起こるか分からん。実際に戦力的には到底連邦には及ばないのだ。その為の短期決戦だ。かなり無茶をせねばならんだろう」
「何があっても大佐をお守りします!」
縋るナナイを優しく宥め、シャアが微笑む。
「ナナイ、私は総帥であり…パイロットでもありたいのだよ」
「アムロ・レイですか?アムロ・レイと戦う為にパイロットであり続けようと?」
ナナイの言葉に、シャアが口角を上げる。
「アムロと決着をつける事は、スペースノイドの独立と共に私の悲願なのだよ」
そう言いながら、キャスを見つめるシャアの瞳は、アムロに対する想いで溢れていた。
『ああ…シャア・アズナブルもアムロを愛している…』
キャスはシャアから伝わる想いを受け止め、それを自身の中に取り込んでいく。
『僕は僕であり、この人でもある…僕たちは、アムロを愛している…』
キャスは目を閉じて自身とシャアの想いを抱き締める。
『アムロ…アムロ…今、貴方に逢いたい…』
シャアとナナイの声が遠のき、キャスはゆっくりと意識が浮上していくのを感じる。
そして、胸に抱えたこの想いをアムロに伝えたいと思う。
瞳を開き、目の上に置いたタオルを退かすとゆっくりとベッドから起き上がる。
「あら?もういいの?」
医師がベッドのカーテンから出てくるキャスを見つけて声をかける。
「すみません、今日はこのまま早退します」
「そうね、その方が良いわ。親御さんに連絡して迎えに来てもらう?」
「いえ、自分で帰れますので」
朝、アムロが目覚めるとテーブルの上に一枚のメモが置いてあった。
“今日は用事があるので早めに家を出ます”
キャスからのそのメモにアムロが溜め息を吐く。
「何だ?昨日は何も言ってなかったよな」
あのままソファで寝てしまったアムロは、髪をクシャリとかき混ぜ、あくびをしながらシャワールームへと向かう。
そしてふと、唇に指を当てる。
「久しぶりにシャアの夢を見たな…」
そんな事を考えつつも、生々しいその感触の残る唇にまさかと思う。
「…まさかな…」
そしてもう一度、キャスのメモに視線を向ける。
「…そんな訳…無いよな。アイツはまだ子供だし…シャアじゃない…俺は…アイツの保護者だ」
そう自分に言い聞かせるように首を振り、服を脱ぎ捨てシャワールームに入る。
コックを捻って熱いお湯を浴びながら、夢で見たシャアの顔を思い出す。
あの綺麗な顔とスカイブルーの瞳が優しく自分を見つめてくれた。そしてキスをして、頬を撫でてくれる温もりに涙が出た。
「シャア…」
その名を呟き、胸を締め付ける想いに唇を噛みしめる。
そして、まだ心の整理がついていない自分に少し呆れる。
「もう六年も経つのに…貴方を忘れられないなんて…」
お湯と共に、瞳から熱いものが流れ落ちる。
「シャア…シャア…貴方に逢いたい…っ…」
後から後から色々な感情が溢れ出してきて止まらない。それを抑えるように握り締めた拳を強く壁に叩きつけた。
「くっ…」
その拳に痛みを感じて鼻で笑う。
「痛い…ふふ…こんなに…苦しいのに、俺は生きてる。貴方がいなくても…生きてる…」
その場に崩れ落ちて両手で顔を覆う。
そんなアムロの脳裏に、キャスの笑顔が浮かび上がる。
“ニュータイプ”である自分では無く、一人の人間としての自分に無償の愛と信頼を寄せくれるキャス。
いつでも自分に寄り添って、好きだと言ってくれる。あの無邪気な笑顔にどれだけ救われただろう…。
「…あの子がいなかったら…生きていられなかったな…。あの子がいたから…生きてこられた…」
キャスの存在が、自分にとってどれだけ大きなものかを実感する。
『きっと、俺があの子の中にシャアを見てしまっていた事に気付いていただろうに…』
アムロは顔を上げると、両手で目を擦り涙を拭う。
「今日は…店を休んじゃおうかな」
シャワーを止めてタオルを取ると、足早にシャワールームを後にした。
その頃、アムロと顔を合わせるのが気まずくて、早めに家を出て学校に着いたキャスだったが、一睡も出来なかった身体は怠く、泣いて腫れた目元のままクラスメイトに会うのも嫌で、結局朝から医務室に篭っていた。
濡れたタオルで目元を覆い、ベッドに横になる。
「はぁ…情けないな…」
目を閉じて少し冷静になり、自身の醜態に呆れながらも、アムロへの溢れる想いに胸が熱くなる。
『アムロ…』
そうして暫く目を閉じているうちに、どうやら眠りに落ちてしまったようだ。
ゆっくりと意識が沈んでいき、身体から力が抜けていく。
しかし、少しすると真っ暗だった目の前が少しずつ明るくなってきて、誰かの話し声が聞こえる。
朦朧としながらも、キャスは今、自分が夢を見ているのだと自覚する。
コポリ、コポリと音がして、揺らめく目の前に気泡が浮かんで水面へと登っていくのが見える。
『水の中?僕は今、水の中にいるのか?』
ゆらゆらとした浮遊感と揺らめく景色に、そんな事を思う。
水の中でも息苦しくないのは、酸素マスクをつけられているからだろう。
シューシューと言う呼吸音も聞こえる。
キャスは何処か他人事のように、夢の中の自分の状況を確かめる。
「…か…ナナ……」
『誰か、男の人の話し声が聞こえる』
何処かで聞いた事のあるその声に、キャスは必死に耳を傾ける。
そしてもう一人、女性の声もする。
「大佐…で…から…」
二人は自分を見下ろしながら何かを話している。
それを必死に聞こうと耳を澄まし、薄っすらと目を開くと、男の顔が自分に近付いてきた。
水面越しに見えたその男の顔は何処か見覚えがあり、金の髪と青い瞳、そして眉間の間に傷痕が見えた。
『シャア・…アズナブル…』
それは、以前にアムロとシャアの関係を調べた時に見た、シャアの顔だった。
自分のオリジナルであるこの男が、何やらこちらに向かって話し掛けてくる。
「まさか私のクローンが作られているとはな」
溜め息混じりのその声に、女性が答える。
「大佐、大佐の存在はネオ・ジオンに、いえ、スペースノイドにとって掛け替えのないものです。そんな貴方の遺伝子を残すのは当然です」
「私が誰とも子を成さないと言ったからか…?私はネオ・ジオンを血で繋げる気はない」
『ザビ家の二の舞にはしない…』
「…大佐の意思を尊重すべきとも思いましたが、やはり貴方は我々の希望なのです」
「“希望”…か…、昔アムロに人身御供の家系だと言われた事があるよ」
『アムロ?』
アムロの名にキャスが反応する。
コポリと気泡が激しく上がり、シャアがキャスへと視線を戻す。
「アムロの名に反応したか?」
「そんなはずは…大佐の記憶はまだ移植していませんので」
「ほほう…」
シャアは意味深な表情を浮かべ、キャスを見つめる。
「お前もアムロに惹かれているのか?アレは…美しい。あの穢れのない魂の輝きは何ものにも代え難い…」
「大佐?」
「ナナイ、もしも私に何かあった時は…コレをアムロの元へ連れて行け」
「は?」
「どこかの派閥が私の影武者となる強化人間を準備していると聞いた。私にもしもの事があれば、おそらく“それ”が何か事を起こすだろう。その時コレは邪魔となる」
「大佐!もしもの時など!」
「連邦に戦争を仕掛けるのだ、何が起こるか分からん。実際に戦力的には到底連邦には及ばないのだ。その為の短期決戦だ。かなり無茶をせねばならんだろう」
「何があっても大佐をお守りします!」
縋るナナイを優しく宥め、シャアが微笑む。
「ナナイ、私は総帥であり…パイロットでもありたいのだよ」
「アムロ・レイですか?アムロ・レイと戦う為にパイロットであり続けようと?」
ナナイの言葉に、シャアが口角を上げる。
「アムロと決着をつける事は、スペースノイドの独立と共に私の悲願なのだよ」
そう言いながら、キャスを見つめるシャアの瞳は、アムロに対する想いで溢れていた。
『ああ…シャア・アズナブルもアムロを愛している…』
キャスはシャアから伝わる想いを受け止め、それを自身の中に取り込んでいく。
『僕は僕であり、この人でもある…僕たちは、アムロを愛している…』
キャスは目を閉じて自身とシャアの想いを抱き締める。
『アムロ…アムロ…今、貴方に逢いたい…』
シャアとナナイの声が遠のき、キャスはゆっくりと意識が浮上していくのを感じる。
そして、胸に抱えたこの想いをアムロに伝えたいと思う。
瞳を開き、目の上に置いたタオルを退かすとゆっくりとベッドから起き上がる。
「あら?もういいの?」
医師がベッドのカーテンから出てくるキャスを見つけて声をかける。
「すみません、今日はこのまま早退します」
「そうね、その方が良いわ。親御さんに連絡して迎えに来てもらう?」
「いえ、自分で帰れますので」
作品名:Simple words 2 作家名:koyuho