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Simple words 2

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「そう?大丈夫?」
「はい、寝不足なだけですので…すみません。ありがとうございました」
そう言って医務室を出ると、逸る気持ちを抑えきれず、早歩きからドンドンとスピードが上がり、気付けば走り出していた。

『アムロ!アムロ』

全力疾走で自宅まで帰り、この時間はカフェの方に居るであろうアムロに会う為、一階のカフェの扉に手をかける。
しかし、扉には鍵が掛かっており、臨時休業の札が掛けてあった。
「え?どういう事だ?」
キャスは慌てて自宅の入り口へと回り込み、家の中へと入っていく。
「アムロ!」
アムロに呼び掛けるが返事が帰ってこない。
リビングのソファには昨晩アムロに掛けたブランケットがそのまま残っており、シャワールームも使った気配がある。
「アムロ!?どこ?」
全ての部屋のドアを開けるが、アムロが何処にもいない。
「アムロ!?」
アムロの気配のない室内に、キャスは呆然と立ち尽くす。
「どこに…」
キャスは必死に息を整えると、深呼吸をして目を閉じ、アムロの気配を探る。
「アムロ…どこ…」
すると、アムロが上着を羽織って出かける姿が透視える。
「アムロ…」
そしてふと、キャスはある場所の事を思い出す。
「あ、あそこだ!アムロはあそこに居る!」
そう叫ぶと、急いで部屋を飛び出して行った。


街から少し離れた場所、丘を登った大きな木の下にアムロはいた。
赤茶色の癖毛を風に揺らしながら、木の根元にある墓標を見つめる。
「久しぶり…」
墓標には名前は彫られていない。
その下に遺灰も埋められていない。
シャアの遺灰は、悪用される事を防ぐ為、風葬にした。
本当はスペースノイドである彼の故郷、宇宙に散骨したかったが、地球でひっそりと暮らすアムロに出来る筈もなく、それならばと、彼が汚染から救おうとした地球に解き放つ事にした。
ネオ・ジオンの総帥としてスペースノイドの独立の為にその生涯を捧げたのだ、華々しい葬儀と墓標があっても良い人のはずだが、彼はそれを望まなかった。
最期に彼が望んだのはアムロの側にいる事だった。
死の間際、アムロの腕の中でその丸い頬を濡らす涙を指で拭いながら、何も要らないからアムロと共に在りたいと言った。
それは一年戦争でアムロに出逢ってから、シャアがずっと望んで来た事だった。
何度も差し出した手は、アムロには届かず、
たった一度、同じ陣営で戦ったあの時にだけ一瞬繋がった。
アムロとの逢瀬は本当にあの一度きり、ダカールでの夜だけ、しかし二人は間違いなく魂まで繋がった。
その後、共に宇宙に上がる事は叶わず、二人は再び離れ、敵対する関係となった。

アムロはシャアのその最期の願いを叶える為、シャアの髪を一房だけ切り取り、胸に下げるネームタグと一緒に小さなロケットに詰めていつも持ち歩いている。
それが、あの男のたった一つの願いだったから。
胸元のネームタグとロケットを握り、墓標を見つめる。
「もう直ぐさ、俺…誕生日なんだ。三十五だぜ?信じられないよな。とうとう貴方の歳を追い越してしまうんだ。なんか変だろう?俺より五つも年上だった貴方の歳を追い越しちゃうなんて…」
クスクス笑いながら、墓標に話しかける。
「貴方…本当に死んじゃったんだよな…」
そう語るアムロの瞳からハラハラと涙が零れおちる。
「困ったな、さっきから涙腺が緩くて…止まらないよ」
そんなアムロの脳裏に、荒い息を吐きながら走ってくるキャスの姿が浮かぶ。
「キャス?」
まだ姿が見える訳ではない、しかし、その存在を強く感じる。
「どうして?学校に行ったはずじゃ…」
アムロが振り返り、キャスの気配を探ろうとしたその時、木の陰からキャスが飛び込んで来た。
「アムロ!」
「キャス!?」
キャスはアムロの元まで駆け寄ると、そのままアムロを強く抱き締める。
「アムロ!アムロ!」
「キャ…キャス?」
驚くアムロの顔を見つめながら、必死にアムロの名を呼ぶ。
「アムロ!アムロ!」
「どうしたんだ?なんでここに?」
「アムロがシャアに逢いに行ってると思ったから…!」
キャスにはこの場所は教えていなかった。
ただ、一度だけ背後にキャスの気配を感じた事があったから、自分の後をつけて来たのだとは思ったが、これがシャアの墓標だという事を教えてはいない。
「何で…」
「アムロ!僕、アムロが好きだ!シャアと同じくらい、アムロが好きだ!」
「キャス!?」
突然の告白とシャアの名にアムロが驚く。
「え…キャス…何で…え?」
「アムロ、僕はシャアと同じ様に、恋愛感情としてアムロが好きだ!昨日キスしたのだって興味半分なんかじゃなくて本気なんだ!」
昨夜のキスがやはり夢などではなく、キャスが相手だったのだと知ってアムロが動揺する。
「え?昨日のって…アレ…」
「アムロ!好きだ!好きなんだ!」
「キャス…」
キャスのあまりにも真っ直ぐな思いに戸惑いながらも、それをとても嬉しく感じる。
しかし、子供の頃から面倒を見てきたキャスを、いきなり恋愛の対象として見ることなど流石に出来ない。
「キャス…えっと…その…」
どう答えたら良いか分からず言葉に詰まるアムロを、キャスが真剣な瞳で見つめる。
『ああ、この子に下手な誤魔化しは通じない…』
アムロは息を整えると、真っ直ぐにキャスの青い瞳を見つめ返す。
「キャス、お前の気持ちは凄く嬉しい…」
「アムロ!」
「…でも…ごめん。お前をそういう対象としては見ていない。それに…」
アムロは視線をシャアの墓標に移すと、それを優しく見つめる。
「俺は…まだシャアを愛してる…忘れられない。だから、お前の気持ちには応えられない」
「アムロ…」
落胆するキャスに申し訳無いと思いつつも、嘘偽りの無い自身の想いを素直に伝える。
「でも、お前の事は大事だ。家族だと思ってる。お前だけが俺の生きる希望なんだ。お前がいないと俺は生きていけない…」
「アムロ!」
アムロの嘘偽りの無い、誠実な答えにキャスは息を飲む。
『僕のこんな想いを、アムロは真剣に真っ直ぐに受け止めて応えてくれる…』
今は、それで十分だと思った。
キャスはアムロを見つめ、コクリと頷く。
「うん、分かった…」
「キャス…ごめんな…」
「ううん。僕こそ、いきなりごめん。でも、僕の気持ちをどうしてもアムロに伝えたかったんだ」
「キャス…」
「でも…僕は諦めた訳じゃないから」
「え?」
キャスはアムロの肩を両手で掴み、真っ直ぐとアムロを見つめる。
「いつか、絶対にシャアよりも僕を好きにさせてみせる!」
「キャス!?」
「だから覚悟しておいて!もっともっと良い男になって、カフェのお客がアムロにちょっかい出せないくらいに、アムロを僕に振り向かせてみせる!」
その自信満々な態度に、アムロはシャアの面影を見る。
「あ、今、シャアに似てるとか思ったでしょう?」
「え?あ、いや…」
「僕の中にシャアを見ていても構わない。いつか絶対にシャアを超えてみせるから!」
「キャス…」
キャスの真っ直ぐな想いに、アムロの胸が熱くなり、気付くと琥珀色の瞳から涙がハラリと零れ落ちてくる。
「アムロ!?」
「あ…ごめん…。もう…今日は俺、涙腺緩みっぱなしで止まらないんだから…」
作品名:Simple words 2 作家名:koyuho