As you wish / ACT2-3
Act2~え、マジでそういう関係だったりする?~
なんかいろいろ納得できない正臣は、それでも帝人を連れて夜の街を歩く。
さっきまでの会話は、一応聞かなかったことにした。だってお前、幼馴染がいきなり他人をペット呼ばわりするんだぜ、怖すぎないか?
まあでも昔から、普段はおとなしくておどおどしているくせに、振りきれると危ない奴ではあった。正臣は過去を振り返ってそんなことを思い出した。・・・そうだよこいつ、小学校の時も体罰教師にボールペンぶっさして土下座で謝らせたことがあったよ・・・!そしてそれ以来、陰でのあだ名は帝人様だった。
ヤバイ、親友が覚醒のコツを覚えてしまっている気がする。
正臣はちらっと隣を盗み見た。きらきらした笑顔で、あちこちきょろきょろと見回しているその幼い笑顔は、記憶の中のものと変わらない。
「・・・ま、いいか」
ふうと息をついて、正臣はようやく力を抜く。
どんなにキレた帝人が怖かろうと、その怒りを直接正臣が向けられたことはない。帝人というのはそういうやつなのだ。一度信じた相手への信頼は、多少のことでは覆らない。その反面、裏切ったり大事な人を傷つけたりした人間への態度は怖いけど。
そして正臣は、この親友を裏切ることなど絶対にないと誓える。だからまあ、いいや。
「あ、狩沢さんたちー、こんばんはー」
「おー、紀田君じゃーん」
「こんばんわっす」
知り合いを見つけてよっていくと、正臣の後を恐る恐る帝人も付いてきた。最初は人見知りをするのだが、慣れるに従って容赦がなくなるのが帝人だ。だからほんとうは、帝人にツッコミを入れられるのは親友の証のようで結構嬉しい、なんて秘密だけど。
「こいつ、俺の幼馴染で、親友の竜ヶ峰帝人。こんど池袋に引っ越してきたんっすよー」
紹介すると、帝人はあわてたように自己紹介をして頭を下げる。門田たち4人もつつがなく自己紹介を返した。
「紀田君、顔広いんだね」
「そりゃーもう、池袋は俺の庭だかんな。お前もしっかりこのコンクリートジャングルを生き抜けよマイフレンド!」
「英語苦手なくせになんで横文字使うの?」
「え、それ今質問するところかよ!」
相変わらず帝人のツッコミの切れ味は半端ないぜ!と思っていると、不意に轟音が響いた。
「あ」
全員がはっとして視線を向けた先で、自動販売機が空を舞っている。え?と帝人は思わず空を凝視した。あれはどう見ても自動販売機だ。しかし、自動販売機とは普通、空を飛ぶものではない。
「き、紀田君、あれ!」
「おー、運が良いな帝人。あれが噂の平和島静雄、池袋の喧嘩人形だぜ」
「すっ・・・ごーい!ほんとに自販機が飛んでるー!」
「おい、だから目を輝かすなっつーの」
ほんとにお前、あれにだけは近づくなよ?と念を押す正臣の声をはいはいと聞き流して、帝人は食い入るように空を見ている。もう一回飛ばないかな!とその目が訴えているのを見ると、親友としてため息をつきたくなってきた。
と、その時。
「平和島静雄っていったら、まーたイザイザと追いかけっこしてるのかねー」
文庫本の挿絵を飛ばし見しながら、何気なく狩沢が言う。その言葉にはっとしたように振り向いて、帝人が首をひねった。
「いざいざ・・・?」
「そー、折原臨也。すっごい犬猿なんだって」
「ああ、まあ。あの二人は昔からだし。視界に入れば喧嘩喧嘩、みたいな」
話が折原臨也に戻ってしまった。うわあちょっと狩沢さん、門田さん、空気読んで!今俺の親友にそれ以上臨也さんのことを吹きこまないでくれええええ!と、正臣が心の中で絶叫した時、帝人はぼそりとつぶやいた。
「ふぅん・・・。やっぱ、叱っておかなきゃ・・・」
なんか言った。
なんかこいつ怖いこと言った。
「お、おい帝人、あのな」
なんとか話題をそらそうとした正臣を無視して、帝人は冴え冴えとした目を自販機が飛んでいた方向に向けながら、ぼそりと一言つぶやいた。
「おいで、臨也」
それは確かにつながりと言える。
自分は彼に呼ばれると、来いと言われると、それがどこからであろうと伝わるのだ。どういう原理なのかはよくわからない。たぶん、血を貰っているときに自分の唾液も同じように彼の体内に入り込んでいるんじゃないか、そのせいなんじゃないかと思う。
行かなきゃ、と思う。
それはゾクゾクするほど楽しくて嬉しくて、思わず声も心も弾むほどの思いの強さで。いや、そもそも彼と自分が契約を交わした時点で、自分は彼の命令に逆らえない。もっとも、逆らう気も裏切る気もないのだけれど。
「ざぁんねん、シズちゃん、時間切れだ」
何度目かの攻防のあと突然そんなことを言った臨也に、ああ!?とキレ気味の反応をする静雄へ、臨也は懐から何かを取り出して投げつけた。
思わず標識でたたき落とすと、それは缶だったようで、とたんに煙がもくもくと出てきて辺りを包む。
「待てこら、臨也ぁああああああああ!」
その隙にかけだした臨也の後ろ姿に、力一杯の叫びが降り注いだ。けれども結局、人ごみにまぎれて無関係の人間たちの中に入り込めば、あの男はこれ以上の追跡を諦めるのだ。そういう男だ、根本的に甘い。
「呼んでくれた!」
臨也は弾んだ声で、心底楽しそうにそんなことを言う。
「呼んでくれた呼んでくれた呼んでくれたねぇ!やっと、ようやく、ついに7か月ぶりの逢瀬だよねえ!嬉しいなあ、嬉しいなあ嬉しいなあ!」
全速力ですり抜ける人ごみは、いつものようにざわめきと臨也の愛する人間で満ちている。ああけれど、どんな人間も彼への愛には叶いっこないのだ。そう、あの竜ヶ峰帝人という、ただ一人の特別を除いては、臨也の心をここまで浮上させられない。
方向は分かる。思っている以上に近くにいる。
7ヶ月間、冷凍の血液だけで過ごしてきた自分の努力も、報われなきゃ嘘だ。だってこんなに大好きなんだから、帝人君も同じように思ってくれなくちゃ!
いつの間にか、静雄のどなり声は、人ごみのかなたへと消えていた。
「・・・あの、帝人さん」
「うんー?」
「今なんかとっても物騒なことをおっしゃったように聞こえたんですが俺の気のせいでしょうか」
「なんで敬語」
「お前が怖いからだボケ!」
「やだなあ紀田君のことを叱るわけじゃないのに」
ケラケラと笑う帝人に、微妙な視線を向けているのは正臣だけではなかった。いつの間にか狩沢も遊馬崎も門田も顔をひきつらせて距離をとっている。何この子ヤバイ。そんな風に思ったかどうかは知らないが、いや、ほんと何今の言葉。
「っていうかあの人、ほんとにいつも喧嘩してるの?」
「え?ああ、まあ、池袋に来て平和島静雄に会ったら毎回・・・?」
「怪我とかしてないよね?僕、あの顔は気に入ってるんだけどなあ」
「ゆゆゆゆゆまっち!ゆまっち!これは伝説のBLフラグ!?どういうことイザイザったらいつのまにこんな恋人を!」
「おおおお落ち着くっす狩沢さん!こんなおいしい展開があるわけが・・・帝人くんってどっちっすか!やっぱり当然受けっすか!?」
「お前らは黙れ・・・!」
嵐の様な混乱が渦巻いたその場を綺麗に無視して、帝人は何かに気づいたように振り返った。さっきまで自販機が飛び交っていた方向から、人影が駆けてくる。
なんかいろいろ納得できない正臣は、それでも帝人を連れて夜の街を歩く。
さっきまでの会話は、一応聞かなかったことにした。だってお前、幼馴染がいきなり他人をペット呼ばわりするんだぜ、怖すぎないか?
まあでも昔から、普段はおとなしくておどおどしているくせに、振りきれると危ない奴ではあった。正臣は過去を振り返ってそんなことを思い出した。・・・そうだよこいつ、小学校の時も体罰教師にボールペンぶっさして土下座で謝らせたことがあったよ・・・!そしてそれ以来、陰でのあだ名は帝人様だった。
ヤバイ、親友が覚醒のコツを覚えてしまっている気がする。
正臣はちらっと隣を盗み見た。きらきらした笑顔で、あちこちきょろきょろと見回しているその幼い笑顔は、記憶の中のものと変わらない。
「・・・ま、いいか」
ふうと息をついて、正臣はようやく力を抜く。
どんなにキレた帝人が怖かろうと、その怒りを直接正臣が向けられたことはない。帝人というのはそういうやつなのだ。一度信じた相手への信頼は、多少のことでは覆らない。その反面、裏切ったり大事な人を傷つけたりした人間への態度は怖いけど。
そして正臣は、この親友を裏切ることなど絶対にないと誓える。だからまあ、いいや。
「あ、狩沢さんたちー、こんばんはー」
「おー、紀田君じゃーん」
「こんばんわっす」
知り合いを見つけてよっていくと、正臣の後を恐る恐る帝人も付いてきた。最初は人見知りをするのだが、慣れるに従って容赦がなくなるのが帝人だ。だからほんとうは、帝人にツッコミを入れられるのは親友の証のようで結構嬉しい、なんて秘密だけど。
「こいつ、俺の幼馴染で、親友の竜ヶ峰帝人。こんど池袋に引っ越してきたんっすよー」
紹介すると、帝人はあわてたように自己紹介をして頭を下げる。門田たち4人もつつがなく自己紹介を返した。
「紀田君、顔広いんだね」
「そりゃーもう、池袋は俺の庭だかんな。お前もしっかりこのコンクリートジャングルを生き抜けよマイフレンド!」
「英語苦手なくせになんで横文字使うの?」
「え、それ今質問するところかよ!」
相変わらず帝人のツッコミの切れ味は半端ないぜ!と思っていると、不意に轟音が響いた。
「あ」
全員がはっとして視線を向けた先で、自動販売機が空を舞っている。え?と帝人は思わず空を凝視した。あれはどう見ても自動販売機だ。しかし、自動販売機とは普通、空を飛ぶものではない。
「き、紀田君、あれ!」
「おー、運が良いな帝人。あれが噂の平和島静雄、池袋の喧嘩人形だぜ」
「すっ・・・ごーい!ほんとに自販機が飛んでるー!」
「おい、だから目を輝かすなっつーの」
ほんとにお前、あれにだけは近づくなよ?と念を押す正臣の声をはいはいと聞き流して、帝人は食い入るように空を見ている。もう一回飛ばないかな!とその目が訴えているのを見ると、親友としてため息をつきたくなってきた。
と、その時。
「平和島静雄っていったら、まーたイザイザと追いかけっこしてるのかねー」
文庫本の挿絵を飛ばし見しながら、何気なく狩沢が言う。その言葉にはっとしたように振り向いて、帝人が首をひねった。
「いざいざ・・・?」
「そー、折原臨也。すっごい犬猿なんだって」
「ああ、まあ。あの二人は昔からだし。視界に入れば喧嘩喧嘩、みたいな」
話が折原臨也に戻ってしまった。うわあちょっと狩沢さん、門田さん、空気読んで!今俺の親友にそれ以上臨也さんのことを吹きこまないでくれええええ!と、正臣が心の中で絶叫した時、帝人はぼそりとつぶやいた。
「ふぅん・・・。やっぱ、叱っておかなきゃ・・・」
なんか言った。
なんかこいつ怖いこと言った。
「お、おい帝人、あのな」
なんとか話題をそらそうとした正臣を無視して、帝人は冴え冴えとした目を自販機が飛んでいた方向に向けながら、ぼそりと一言つぶやいた。
「おいで、臨也」
それは確かにつながりと言える。
自分は彼に呼ばれると、来いと言われると、それがどこからであろうと伝わるのだ。どういう原理なのかはよくわからない。たぶん、血を貰っているときに自分の唾液も同じように彼の体内に入り込んでいるんじゃないか、そのせいなんじゃないかと思う。
行かなきゃ、と思う。
それはゾクゾクするほど楽しくて嬉しくて、思わず声も心も弾むほどの思いの強さで。いや、そもそも彼と自分が契約を交わした時点で、自分は彼の命令に逆らえない。もっとも、逆らう気も裏切る気もないのだけれど。
「ざぁんねん、シズちゃん、時間切れだ」
何度目かの攻防のあと突然そんなことを言った臨也に、ああ!?とキレ気味の反応をする静雄へ、臨也は懐から何かを取り出して投げつけた。
思わず標識でたたき落とすと、それは缶だったようで、とたんに煙がもくもくと出てきて辺りを包む。
「待てこら、臨也ぁああああああああ!」
その隙にかけだした臨也の後ろ姿に、力一杯の叫びが降り注いだ。けれども結局、人ごみにまぎれて無関係の人間たちの中に入り込めば、あの男はこれ以上の追跡を諦めるのだ。そういう男だ、根本的に甘い。
「呼んでくれた!」
臨也は弾んだ声で、心底楽しそうにそんなことを言う。
「呼んでくれた呼んでくれた呼んでくれたねぇ!やっと、ようやく、ついに7か月ぶりの逢瀬だよねえ!嬉しいなあ、嬉しいなあ嬉しいなあ!」
全速力ですり抜ける人ごみは、いつものようにざわめきと臨也の愛する人間で満ちている。ああけれど、どんな人間も彼への愛には叶いっこないのだ。そう、あの竜ヶ峰帝人という、ただ一人の特別を除いては、臨也の心をここまで浮上させられない。
方向は分かる。思っている以上に近くにいる。
7ヶ月間、冷凍の血液だけで過ごしてきた自分の努力も、報われなきゃ嘘だ。だってこんなに大好きなんだから、帝人君も同じように思ってくれなくちゃ!
いつの間にか、静雄のどなり声は、人ごみのかなたへと消えていた。
「・・・あの、帝人さん」
「うんー?」
「今なんかとっても物騒なことをおっしゃったように聞こえたんですが俺の気のせいでしょうか」
「なんで敬語」
「お前が怖いからだボケ!」
「やだなあ紀田君のことを叱るわけじゃないのに」
ケラケラと笑う帝人に、微妙な視線を向けているのは正臣だけではなかった。いつの間にか狩沢も遊馬崎も門田も顔をひきつらせて距離をとっている。何この子ヤバイ。そんな風に思ったかどうかは知らないが、いや、ほんと何今の言葉。
「っていうかあの人、ほんとにいつも喧嘩してるの?」
「え?ああ、まあ、池袋に来て平和島静雄に会ったら毎回・・・?」
「怪我とかしてないよね?僕、あの顔は気に入ってるんだけどなあ」
「ゆゆゆゆゆまっち!ゆまっち!これは伝説のBLフラグ!?どういうことイザイザったらいつのまにこんな恋人を!」
「おおおお落ち着くっす狩沢さん!こんなおいしい展開があるわけが・・・帝人くんってどっちっすか!やっぱり当然受けっすか!?」
「お前らは黙れ・・・!」
嵐の様な混乱が渦巻いたその場を綺麗に無視して、帝人は何かに気づいたように振り返った。さっきまで自販機が飛び交っていた方向から、人影が駆けてくる。
作品名:As you wish / ACT2-3 作家名:夏野