はじまりのあの日12 古都と公演とガールズトーク
「じゃあ、お話しするね。新しいメンバー来ると、その日にするよね。歌披露。歓迎会はベッコ(別)になったけどさ。歌だけは、皆の前で歌うよね。がっくんが来た日は、歓迎会も一緒だった。めぐ姉達の時と同じように。でね、その時歌ったんだ、一緒に」
「え、その日に合わせたの。リンちゃんとぽ兄ちゃん。出会ったばっかりだったんだよね」
驚くめぐ姉。そう、声を重ねるには、普通しっかりと打ち合わせをする。何度も歌い込む。それでも、声がうまく重ならない時もあるというのに。あの日のわたしと彼。奇跡のように重なった声。紡ぎ出された歌。その旋律の美しさは、姉と兄と弟もお墨付き
「うん。わたしがね、一番初めに歌ったの。最初に聞いてほしくて。そしたら、がっくん『君に会えて良かった。俺の歌、変わるかもしれない』って。歌ってくれてね。その日、歌を合わせたのはわたしだけ。みんな、歌披露はしたけど。合わせたのは、わたしだけだった」
天井を見る。カル姉から、視線を外して
「ん~なコトがあったんだ、おにぃとリン」
わたしを見たまま、仰向けになるリリ姉
「途中からは、我慢できなくて。わたしも一緒に歌い始めた。すっごく楽しくて。もう一曲、初めから一緒に歌った。めー姉もカイ兄も、すっごく褒めてくれた『こんなにも重なるんだ』って。レンは『負けない』って言ってたけどね最後は褒めてくれた」
あの日を思い出す。長身の彼、八歳だったチビ。椅子にのって、彼は、少しかがんでくれて。声を重ねたあの日
「あの日、言ってくれたな~。レンと一緒に、がっくんの膝にのってて、眠くなったの。そしたら、二人とも部屋まで運んでくれて。最初にわたしを寝かせてくれて『おやすみリン良い夢を』って。がっくんはレンを王子って言ったけど、がっくんのほ~が、よっぽど王子様って感じ」
天使組、キヨテル先生だけに見せる、優しい笑顔。あの時は、わたしにも見せてくれた。慈愛の笑顔のリリ姉。でも、その双眸を、すぐに小悪魔天国よろしく変えて
「あ~あ、おにぃもツミなヤツだな~。無意識天然ツミツクリ。リンをど~するつもりやら」
「ちょ、リリちゃん」
慌てて言葉を遮るめぐ姉。あの日の私は意味が分かっていなかった
「だいじょうぶ。あにさまは護ってくれる。りんりんを、かる達を」
また、わたしの両頬を、優しく包んでくれるカル姉。そこで、ケタタマシク、鳴り響くチャイム。何事かと、急ぎ開けに向かう。何かあると嫌なので、四人全員で。そこにいたのは
「あんたたち~二次会始めるわよ~」
「は~い、め~ちゃん、騒ぎすぎないで~」
お風呂上がり、浴衣姿。ご機嫌のめー姉と、おもりのカイ兄だった。四人、顔を見合わせ、吹き出す。ふいに、めー姉の顔が優しくなる
「あ~ら、リン。なんだかもう神威の姉が、実のお姉ちゃんみたいね~」
「え、や、めー姉そんな―」
「ふふふ。そんな日が来るかもしれないわね~」
「はは、そうなったらオレは、泣いちゃうかもね」
お酒のニオイを纏うめー姉、意味深に言う。わたしの頬を撫でてくる
「へへへ、ごめ~ん、メー姉。ウチもう、リンはマジの妹って思ってんだ~。取っちまって、ご・め・ん~」
リリ姉腕が、わたしの肩に回される。神威の姉達も笑う。兄は少し、寂しげに。とことん子供の私には思い至らなかった。何を言っているのかを
「さ、アタシの部屋に集合。二次会するわよ~」
早々とお酒モードに切り替わるめー姉。半ば強制的。でも、嫌なら顔だけ出して、すぐに帰ればいい。それが、めー姉の方針。でも、なんだかんだ結局は、最後までみんな二次会を楽しんでしまう。紫の彼風に言うなら『ステキな女王様』の魅力の一つ
「メイコ姉様~おつまみとお酒。ソフトドリンクも買ってきましたわ~」
「飲めない組にお菓子もな。天使様は起こすなよ。寝かせといてあげようじゃない」
バッグを手にルカ姉。酒瓶と、おつまみの袋を手に、やってくる紫の彼。コンビニに行っていたことが、袋の印でわかる。二人が私服だという点からも。白を基調にしたドレスタイプの私服、ファーのマフラー、ピンクのボレロ。ハイヒールのルカ姉。白のマフラー。黒、スヴェードのライダースジャケット。ライトグレーのパンツ、黒い革靴の彼。一次会のお酒の酔いのせいか、少し、足下がおぼつかないルカ姉。紫の彼に寄りかかり、腕を組んでいる。傍目には、大人の超美形カップル。非の打ち所がない
「がっく~ん。これから二次会するんだよね~」
さっきの話『ルカ姉似の恋人』思い出して。それが、すごく気になって。一目散に彼のもとへ飛び込む
「おっと、元気なのが来た」
「買い出しありがと~。ルカ姉も。早く初めよ~」
そこはわたしの場所だと言わんばかりに腕をとる。始まりのあの日、聞いた台詞が嬉しかった
「リ~ン、スリッパも履いてないじゃない」
「あ」
彼に言われ、とたんに恥ずかしくなる
「俺も風呂入ちゃうからさ。先に、メイコの部屋行ってて。めぐ達も、リンをお願いしようじゃない。カイトこれたのむ」
「あ、うん」
袋を兄に手渡す彼
「さ、リン」
「ん、がっくん」
と差し出される手。素直に従う。抱き上げてくれる。横抱き、姫だっこ
「はは、何時かよりは大きくなったな。ほい。足、ちゃんと洗っておいで」
部屋の入り口に降ろしてくれる
「ありがと~がっくん」
「ん、なんだリリ、めぐ、カルまで。気になる眼差しじゃない」
生暖かく、わたしたちを見ていた姉三人
「っくくく、な~んでも、おにぃ」
「ははは、リンちゃんも自覚ないんだ~」
「うふふ、天然カルが認める天然コンビ」
吹き出すリリ姉。皮切りに、気付けば、周りに居た全員含み笑い
「っふふふ、はは。ホント、神威君は過保護ね~」
「うふふ、レンくん、リンちゃん、天使様。でも、神威さんは特に―」
「リンに過保護だよねっ、殿は~、ははは」
「そうか。そんなことないじゃない」
「自覚ないのね、神威君らしいわ~はははっ」
何度も、彼の背中を叩くめー姉。交わされる、大人組四人の会話
「お~い二次会すんだろ~。って何、何か有ったの」
「おつっす~。てか、ホントどしたんすか、皆さん」
「含み笑いが連鎖しているでゴザル」
別の部屋から出てきた、レン、勇馬兄。アル兄も含み笑い大会に、疑問符を浮かべてたっけ。あの後の二次会で、結局わたしは膝の上。彼にせがんで膝の上。周りのみんなに言われたな。天然無自覚ペアと。本当に気付いていなかったのか、気付かないフリだったのか。さてどうなのだろう。時報の音で、意識が今へと戻ってくる。わたしは『フリ』だったのかもしれない。けれどもう、どちらでもいい。今のわたしにとっては―
作品名:はじまりのあの日12 古都と公演とガールズトーク 作家名:代打の代打