はじまりのあの日15 バレンタインとリップサイン1
「ぅゎぁ」
ため息。変わるのね、お化粧って。僅かに眉の形が整えられ、形良くなっている。いつもより、大きく見える、目。うすいアイラインで、目元がくっきりしたおかげ、整ったまつげは上を向く。ツヤを増した唇、ぷるぷると輝いて見える。そのどれもが上品なのは、ルカ姉の手腕。IA姉はじめ、姉達の趣味の良さ
「な、なんか自分じゃないみたい。へ、変じゃ―」
「「「「「「「「「ないっ」」」」」」」」」
変じゃないと、即座に返してくれる姉達
「大丈夫~、可愛くなってる、リンちゃんっ」
「うふふ、自信を持って下さいな、リンちゃん」
「そうそ~う、ルカ姉がしてくれたメイクなんだから~」
後ろからはめぐ姉に肩を抱かれ、前からはルカ姉、わたしの肩に両手を置く。それを撮影しながらミク姉
「さぁ、もう一段階、かわいさ上げちゃおうっ。マニキュア塗っちゃえっ。おねが~い、ルカね~さ~ん」
「任せて下さい、あら、良い色ですわぁ。リンちゃん、お手々を出して下さいな」
公演の時も施されるマニキュア。ただ、いつもの黄色では無く、撮影に合わせたキツイ色合いでも無く
「あ、ほ~んと。IAちゃん、良い色持ってるね~」
「りんりんにもお似合いあい。IAさま、はいせんす」
めぐ姉、カル姉に褒められて、嬉しい笑顔のIA姉
「はいっ、後は乾燥させるだけですわ」
薄桃色、控えめにパールが入ったマニキュア
「じゃあ、乾かしてる間に、ちょっとだけ髪の毛いじろうぜ~。Miki、アイロン持ってね」
「あ、あるある、リリね~さん、取ってくるね~」
「アイロン~」
首をかしげるわたし。ハウスの個室へ駆けゆくMikiちゃん。リリ姉が
「ストレートパーマ、かけるアレだよリン。たまにかけるだろっ、撮影とかでさ」
教えてくれる。姉達が進めてゆく、わたし改造計画。サラサラヘアーのMikiちゃんがアイロンを持っている理由『梅雨時、髪が捲くんだ~』っと言っていた
「じゃあじゃあ、リンちゃん。おリボンもね、さっきしてた可愛い大っきなのじゃなくてね、ちょっと大人なリボンが良いと思う。そうだ、大切に使ってるの、あったよね」
「あ、がくさんに買って貰ったリボンだよね、グミ姉。綺麗な金色の刺繍が付いてる~」
以前、買って貰ったリボン。彼に与えてもらったもの、大切を極めて使っている
「おりぼん、りぼんぼん。りんりんに、お似合いの刺繍りぼん」
常日頃から、わたしはリボンを結んでいる。ユニフォームからの繋がりで。ウサミミなどと呼ばれる、大きめに結ぶリボン。今思うと、殊更に子供っぽさを強調した結び方。リボン結び改造企画。笑顔のめぐ姉発案。楽しげミク姉、カル姉、リボンを結ぶ仕草でノリノリ
「おリボンね、何時もと違う結び方してあげる。マンションに戻った時に、持ってきて」
「あのリボン、結構前のヤツなのに、今も超綺麗だよな~」
そう、綺麗なのは『ここ一番』の時にしか結んでいないから。年に数回、結ぶだけ。それくらい大切に使うリボン
「は~い、ね~さん、アイロン持ってきたよ~。ね、ね、今リボンの話ししてたでしょ、リンちゃんの。ちょっと聞かせて、なんの話し~」
「おう、Mikiたん。ボクが戻って来たばっかりの時によぅ。温泉パーティー行くって話があったんぜ。ただ、リンたんが怪我しちまってよ~。かむいと留守番ってことになってよっ」
途中からテト姉ブラックに変身、非常に楽しそうに
「ぅんふぅ、そういやぁ、あん時もかむいのヤツ『事案』だったぜ『俺のせい』とか理由つけてよう。ずううううっとリンたん『だっこ』してるんだぜ『今日はリンの召使い』とかホザイテよぉ。あいつ、最強レヴェルのへ―」
「テトお姉様、リンちゃんは足を痛めていました。移動するときだけでした『だっこ』されたのは。あの行為は神威さんの、純粋な優しさです、わ」
ルカ姉、テト姉の方を向いたので、表情を読み取れない。が、押し黙るテト姉
「『俺のせい』って、どういう事~。神威のアニキ、なんかしちゃったの。なんでリンちゃん、怪我しちゃたの~ぉ」
不思議そうな顔をするMikiちゃん
「ああ、おにぃとPV撮ったときにさ、初めて高めのヒールはいたらし~んだ、リン。んのせ~でさ、ダンスでコケちまったんだと」
「右足首の靱帯損傷、全治一週間。お膝も擦り剥いちゃってね、ザザーっと。うう、口に出したら痛そ~う」
思い出話を引き継ぐのはリリ姉。ミク姉が、怪我を想像して縮み上がる
「ウチらは温泉で重音さんもてなしてさ、おにぃとリンが留守番ってことになったんだわ。出がけにしょぼくれてたリンが、帰ってきたら、ごっ機嫌でさ」
続けるリリ姉。姉達にまで、この話が浸透しているのは、わたしがあの日、過剰に繰り返し語ったため。でも、思い出を語るならば、自分の気持ちも込めなくては。語り出す、わたし自身
「がっくんとね、はじめて二人だけで遠出したの。そんなに遠くって程じゃないケド、昔のわたしには『遠出』だったな~。みんなでたまに行くよね、大型モール。あのモールに行ったんだっ」
「あ、ちょい遠出する時のモールだね。プチ贅沢するときの」
彼との思い出は、どれもが幸せに満ちている。Mikiちゃん、リリ姉にアイロンを渡す。リリ姉、わたしのセットを開始
「あのお店でね、買ってくれたのリボン。わたし、脚、怪我してたからね、車椅子まで押してくれて。おっきな絆創膏、膝にしてたから、ちょっと恥ずかしかったけど」
姉達の笑顔が優しくなる。わたし、思い出話が楽しくなる
「『頑張って仕事した勲章』って言ってくれて『その勲章へのご褒美』って」
「MikiちゃんMikiちゃん、リンちゃんが『オシャレ』する時、たま~に結ぶ綺麗なリボンがあるよねっ。あのリボンの事なの~」
ミク姉、撮影を続けながら。メモリーは『ギガ』級のSDチップ内蔵スマホ。あの日、居合わせたメンバー達によって、解説されるリボンの話し。思い出話に花を咲かす
「あ、あのリボン、そんな逸話があったんだぁ。うっわ~素敵ぃっ。だって、そんな優しくしてくれたんでしょ~、神威のアニキっ。抱っこして運んでくれるとかっ」
「ぉ話し聞くだけで萌え萌え~。ぅわ~、小っちゃいリンちゃん、車いすに乗せて、押すに~さん。何だかおとぎ話聞いてるみたぃ~」
Mikiちゃん、自分を抱く格好で、IA姉、両頬を挟んで。萌え上がる二人と会話しながら、わたしにかけられるストレートパーマ。カチューシャをルカ姉に返し、リリ姉、優しい手つきで施してくれる
「IAちゃ~ん、うちは『執事様』って思っちゃったよ~。神威のアニキがね、リンちゃんに傅いて(かしずいて)ね『お嬢さま』って~。ねぇねぇリンちゃん、他に神威のアニキとお話しない。うちが知らないお話し」
「ゎたしも聞きた~ぃな~、何かないかなぁ~リンちゃ~ん」
「んん~」
Mikiちゃん、IA姉が勢いづく。はじまりの日、歌合わせは秘密だ。京の都で、結構語られてしまった思い出もある。少し考えて、なんだ、本日にふさわしい出来事があったじゃないか
「あのね、がっくんのチョコ嫌い、治してあげたお話し」
「え、アニキ、チョコ嫌いだったの、うそ~」
作品名:はじまりのあの日15 バレンタインとリップサイン1 作家名:代打の代打