はじまりのあの日17 中華の街へ
「まずね~、前日にね~。商店街に入って貰って、見学~。主催者様と打ち合わせ。衣装合わせも、その時にするよ~」
「んで、中央駅に移動してゲリラCMな。公(おおやけ)の許可は取ってあるぜ~ぇ、ハデ目にカマシテ来いよ。っはははははぁ」
「稚児行列してぇ、商店街でライブ~。お菓子やちまきの直販は、歌い手さんの握手付きでってぇ」
仕事が取れたことへの祝杯。お酒でご機嫌のプロデューサー三人。前日商店街を見学するのは、魅力を知るためだ。店々の良い点を、人々の魅力を、肌で感じなければ言葉になるはずがない
「お店に来て貰えなければ、意味ないものねぇ。重役だわ~」
「少しはアピールになれば良いね。オレ達メンバーでさ」
「客寄せの大役、しっかり勤めようじゃない」
座卓の上、料理を運ぶ、めー姉、カイ兄。あの日は、神威家に入り浸り。紫の彼を筆頭に、歌い手達の手によって、運ばれてくる料理様。賑やかになる円卓。を、観たプロデューサー
「ってゆうか、これみんな、カイちゃんとがくちゃん作ったの~。プロ級ね、うっわ~ゼ~タク~」
「おめえら、派手な食生活送りやがって。天狗になってねえだろうな」
驚きと喜びが混じる女プロさん。怪訝さと怒気を含む声の神威プロ
「「「「「「「「「「え」」」」」」」」」」
「「「え」」」
その贅沢という言葉に、驚くメンバー。同様に驚く、プロ三人。ただし、驚きの種類が違う。当然であった
「贅沢ったって、主らよ。俺たちが、普段食べてるものじゃない。材料費なんか殆どかかってない」
もちろん、季節で手に入る物、入らない物はあるけれど。常日頃食卓にあがり、食べているものだから
「だって、タケノコご飯だよ、高級品だよ」
の、女プロさんの声に
「いや、今朝、裏庭で採った物なんだけど」
応えるはめー姉。そう、季節になれば、全員総出で、タケノコを掘る。竹林があるこの丘で。そのタケノコを、近所の(と言っても一㎞先)農家様の物品と物々交換出来るほど実ってくれる。柔らかくて美味しいと、評判のタケノコが
「こ~いう自然の恵みで生きて行けるように、この土地を選んでくれたんじゃないんですか」
カイ兄の問い返しに
「う、ん。ま~あねぇ」
目が浮いている、わたし達のプロデューサー
「お~い先輩(ぱいせん)適当に人目につかねぇ、僻地選んだつってたじゃねぇか、あ~ん」
「ああ、それ言わないでよ~」
適当だったらしい。まあ、結果オーライだから良かったけれど。でももし、ここが痩せた土地だったら、わたし達の食糧事情は苦しい事になっていたかもしれない
「え~何それ~。テキトウなのかよ~、ひっでぇ。おれら、自分で野菜だって育ててるのに」
「後で入った身分っすけど、僻地扱いはひでえっす。痩せた土地だったら、飢えてたかも」
不満が溢れる、片割れと勇馬兄
「ホント良かった~。お野菜が育ってくれる土地で~。がくさんとがんばったカイがあるよねぇ」
ミク姉は安堵の言葉。紫様と姉の提案で、始められた家庭菜園。野菜が美味しく育つ土地で良かった。実はいま、椎茸も育てている
「今日、ごはんに使ってるお野菜、家庭菜園で作ったものですよ~」「農家さんと物々交換したものも入ってま~す。ぉ味噌もみん~なで作りましたぁ」
「神威さんとミクさんの指導で、育てているんです。メンバー全員で協力していますよ」
めぐ姉、IA姉、キヨテル先生の言葉に驚くプロデューサー三人
「え~、味噌造ってるの~」
「マジか。こんだけの野菜、作ってんのかよ。ならこの、ツマミに最高なイワナは」
『味噌造り』に驚く初代プロ、神威プロの問いに
「アルさんがさっき釣ってきた物で~す」
「お魚釣り、上手ですなんです~ぅ」
返すMikiちゃん。ピコ君も上機嫌で言う
「近くの川は水質が良い故、美味い川魚が釣れるでゴザル」
「カル達のお家、お味噌発酵に最適テキ」
プロデューサー曰くの僻地、わたし達には『最両宝の山』以外の何でもない
「本日の晩ご飯は、裏庭で採れたタケノコご飯。茶碗蒸し、お煮染めにも入ってますよ。使った卵やちくわは、そのタケノコで物々交換して頂いた品です」
銘々の前に、各々協力しておかずを並べながら、会話は続く
「汁物は家庭菜園で採れた、野菜たっぷりの味噌汁。俺とミク、だけじゃあない、みんなで耕した畑の収穫物。うれしいじゃない。油揚げや豆腐も、交換で頂いちゃった品物。竹の子寿司は、Mikiが握ってくれたじゃない」
カイ兄、紫の彼が説明をしてくれる。調理担当、三つ星シェフのお二方
「メインディッシュは、イワナの塩焼き。ツクシと三つ葉のおひたしは、家の前で収穫したの。自然に育ってくれるから。タケノコご飯、おみおつけはカイ兄。お煮染めと茶碗蒸しはがっくん。イワナの塩焼きとおひたしはわたしが作った~」
その二人の『専属アシスタント』と勝手に思っているわたし、得意になって説明に加わる。このイワナは良く洗って、塩で焼くだけ。魚はまだ捌けないが、丸焼きはワタもほろ苦くて美味しい。問題なし
「え、リンちゃんも料理したの」
女プロさんの驚きの声。そんなに驚かれると、ちょっと傷つくの。以外なのかもしれないけれど
「女プロさま、りんりんお料理上手。驚く、めっ」
「おにぃの直伝だぜ、食べて旨さに驚けよ~」
抗議をしてくれる、カル姉、リリ姉。神威の姉がしてくれる『妹扱い』わたし、それが凄く好き
「お米はさすがに栽培出来ないから、殿の故郷、越後のお米。これだけは贅沢品かな」
土鍋二つ、勢いよく湯気が立ち上る、タケノコご飯。放たれる、美味しい香り。飲まない組の分を盛りながらカイ兄
「いや、カイト。この米、オヤジの古い知り合いが、格安で流してくれるヤツ。米粒の大きさ揃ってないから、市場に出せないんだと。味や品質は問題ないじゃない、もったいない」
変な贅沢をするより、よっぽど美味しくて『楽しい』ごはん。わたし達は本当に恵まれている
「わり~わりィ。天狗になってるとか思ってよ。おめ~ら、自給自足のサバイバー。もしくは、料理人でも食ってけるわ。寿司まで握れんのかMiki」
神威組のプロデューサーはそんなことを言う。ただし、表情は嬉しそうなモノ
「ダメだよ~。みんなもう、れっきとした歌い手なんだから~」
わたし達のプロデューサーの言葉。わたし達が、世間様に認められた事を、最も喜ぶ三人。わたし達には、普段通りの、質素倹約ご飯。でも、大自然の恵みに満ちあふれた『贅沢な食卓』だという、三人の言葉は肯定。あの日の晩餐もまた、格別の空気があった。歌い込み、ダンスの練習、商店街の下調べ。日常生活や通学をしているうち、あっという間に当日の朝
作品名:はじまりのあの日17 中華の街へ 作家名:代打の代打