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LIMELIGHT ――白光に眩む3

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 人理の修復は、このカルデアの、人類の悲願だ。失われた人類の未来を取り戻すために闘ってきた立香たちの成果でもある。
(それを、俺は、どうして……)
 心から喜べない。
 人理の修復がなったなら、士郎はカルデアを出て行かなければならない。
 魔術協会との連絡がつけば、おそらく再び封印指定という扱いになるだろう。
 ここでの僅かな日々に、おそらく郷愁に似たものを抱えながら、戻れない時間に歯を喰いしばりながら……、封印指定を受け入れる。
 それが、士郎に課せられた運命だ。
(過去を変えた、俺の……)
 真っ白で、外の世界の見えないガラスに両手をついて、項垂れる。
 がくがくと脚が震える。ガラスに爪を立てて、どうにか震えを抑え込もうとする。
「っ…………」
 少し顔を上げれば、ガラスに映る情けない顔。
「喜んでやらなきゃな、藤丸たちが未来を取り戻すことを…………」
 ふ、と表情を緩めてみる。立香たちを迎える顔を作っておかなければならない。
 だというのに、ガラスに映った者は、まるで、泣いているようだった。



***

「衛宮士郎」
 呼べば、びくり、と身体を跳ねさせ、士郎が顔を上げた。
「ぁ……」
「な……っ」
 一瞬だった。
 錯覚だった。
 幻だった?
 だが、今はもう途方に暮れた表情があるだけだ。
「…………」
 ほんの刹那、こちらを見たその面は、泣き顔に見えた。
「衛宮士郎? 何が、」
「あ……、お……、おかえり」
 爽やかに笑った士郎に、エミヤはそれ以上の言葉を呑むしかない。
(何が……?)
 わからない。
 士郎に何が起こっているのかがエミヤには想像すらできない。
 だから訊きたいと思う。
 どうしたのか、いや、どういう心境の変化か。
 訊きたいことは山ほどある。だが、何をどう言えばいいか、エミヤは言葉すら見つけられない。
「どうした?」
 まごついていれば逆に訊ねられ、士郎に小首を傾げられる始末だ。
「いや……」
「なぁんだよ。あ、もしかして……」
 両手を広げて、士郎は、にこり、と笑う。
「な……ん、だ……」
「あれ? 違うか?」
 こちらへ差し伸べられた両腕の意味をようやく解してエミヤは踏み出す。
「いや、違わない……」
 その手に誘われ、エミヤは士郎に受け止められるように身体を預けた。士郎の肩に顎をのせ、瞼を下ろす。そっと背に回った手が冷たい。
(また……、震えていたのか……?)
 訊きたいことは、声にはならなかった。
「疲れたか? 七つ目の特異点もキツかったよな……」
「ああ、だが……、懐かしい姿と、会った……」
 震えるほど冷えきっているのならば温めるだけだ、と士郎の背に腕を回した。
「懐かしい?」
「ああ……」
 ウルクの女神と密林の女神、とでも言えばいいのか……。
 彼女たちはエミヤにとって、もちろん士郎にとっても、その姿形だけでいうと、馴染みのある者だった。
「いずれ……、召喚されるのだろうな……」
 そのうちの一人というか一柱、ジャガーマンはすでにカルデアに来ているらしい。
「また大食漢が増えた……」
「え? ホントか?」
「ああ……」
「…………また、忙しくなるな」
 寂しげに聞こえる呟きに、エミヤは回した腕に力を籠める。
「エミヤ?」
「あと、少しだ……」
 びくり、と士郎の身体が震えた。
「衛宮士郎?」
 回した腕を緩め、少し身体を離せば、エミヤの背に回されていた士郎の手が滑り落ちた。
「どうし――」
「そうだな! あと少しだ。頑張れよ!」
 ポン、とエミヤの腕を叩き、士郎は背を向ける。エミヤの腕から士郎は出ていってしまった。
「衛宮士郎、どこに、」
「大食漢が増えたんだろ? 飯の支度しないと、追っつかなくなるんじゃないか?」
 この腕の中からどこへ行くのかと、そう訊いたのだが、士郎はこれから向かう場所を答える。
「あ、ああ、そう、だな……」
 そうではない、とは言えず、曖昧に頷く。
 前の違和感が気にはなったが、士郎の表情になんら翳りはない。
「なん……だったのか……?」
 独り言ちて、エミヤは士郎の後に続いた。


LIMELIGHT――白光に眩む 3  了(2018/11/27)