二次創作小説やBL小説が読める!投稿できる!二次小説投稿コミュニティ!

オリジナル小説 https://novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
二次創作小説投稿サイト「2.novelist.jp」

LIMELIGHT ――白光に眩む3

INDEX|8ページ/9ページ|

次のページ前のページ
 

 特異点の攻略にどれだけの日数を要するのか、はっきりとはしないが、それまでに気持ちの整理をつけておかなければならない。
(また、ポッドに押し込められても、取り乱さないように……)
 項垂れて拳を握りしめる。
(俺に許された時間は……、あと少しだ……)
 もう逃れることはできない。
 士郎の自由であった日々は終わりを待つだけだった。



 どの特異点でも楽な戦いなどなかっただろうが、七つ目の特異点も、やはり苦戦を強いられているようだ。そのサポートのため、カルデアの所員たちは、食堂に赴いて食事をとる時間すらない。
「出前でーす」
 サンドウィッチやバーガー、おにぎりなど、片手間にでも食べられる食事を作って士郎はスタッフの詰める管制室へ食事を運んでいる。
「やあ、士郎くん、いつもありがとう。助かるよ」
 レイシフトが行われている間は工房に詰めることなく、管制室に張り付いているダ・ヴィンチが、にっこりと笑みを浮かべる。
「俺にはこのくらいしかできることがないからな……。それに、俺は助けてもらった身だ。一宿一飯の恩って言葉くらいは知ってるだろ? 天才なんだから」
 軽口を叩いても、ダ・ヴィンチは笑みを崩しはしない。
「もちろんだよ。いやー、それにしても、君の作る食事も美味しいねえ。エミヤに引けを取らない」
「そんなわけがあるか。アイツの作るものは一級品だ。お世辞言っても、何も出ないぞ。スープのおかわりくらいだ」
 食事ののったトレイを手近な机に並べ、淡々と士郎は答える。
「フフ、謙遜しなくても……、ん? スープのおかわり? よし、いただこうかな!」
「えらく謙虚だな。ってゆーか、やっぱり世辞かよ」
「いやいや、お世辞じゃなく、本気さ!」
 ひょい、と眉を上げた士郎はダ・ヴィンチの軽口をいなして、先ほど入って来た管制室の扉へと向かう。
「士郎くん、次は、ロマンのところへ行くのかい?」
「ああ」
「悪いんだけど、少しは休めよ、と伝えてくれるかい? きっと寝ていないだろうからね」
「りょーかい」
 片手を上げて応え、士郎は管制室を出た。

「出前だぞー」
 管制室でほとんど空になっていたカートを押して医務室に入ったが、ロマニ・アーキマンは不在のようだ。姿が見えない。
 どこに行ったのか、と隣の処置室を覗いてみたがそこにもいない。
「ドクター?」
 少し大きな声を上げてみると、
「はいはーい」
 間の抜けた、くぐもった声が返ってくる。
「どこだ?」
 声を辿り、室内を見渡す。
「ここ、ここだよー」
「ここって……」
 声はすれど、姿が見えない。
「どこだよ……」
 明確な場所を言え、と呆れて訊けば、
「ここだってば」
 ガゴン、と部屋の真ん中あたりの天井板がずれて、ひょこ、と逆さまに頭が現れた。
「あ、あれ? 士郎くん? どこだい?」
 フリフリと結わえた髪が揺れている。士郎の立つ方ではなく、逆の方をロマニ・アーキマンは探しているようだ。
「ドクター……、百八十度、首回してみてくれ」
「へ? 百八十度? ぐ、ぐぎぎっ! そ、そんな、回らな――」
「いや、人間、そんなに首は回らないと思うぞ、ドクター……」
「あ、そっか」
 体勢を変えたのか、やっとこちらに緊張感のない顔が向く。
「…………何してんだ、あんた……」
 目を据わらせる士郎に、ロマニ・アーキマンは、へらり、と笑った。
「ちょっと端末の調子が悪くてさ。配線の確認を……、あ、悪いんだけど、そこの椅子、こっちに動かしてくれるかな?」
 部屋の隅でおかしな方を向いたコロ付きの椅子を、士郎はロマニ・アーキマンのいる真下へ引いてくる。
「ここでいいか?」
「うん、ありがとう」
 いったん顔を引っ込めたロマニ・アーキマンは、天井裏で向きを変え、足から下りてくる。フラフラと足をぶらつかせて、爪先が椅子に辿り着き、じわじわと下りてきた。
 その間、あー、だの、うー、だの、よいしょ、だの、うるさいくらいに独り言をこぼしている。
「はあ。やっと下りられた」
「……あんた、どうやって上ったんだ? 脚立もなしに」
 室内には脚立も踏み台も見当たらない。今の下り方を見て、士郎はロマニ・アーキマンの身体能力を見繕う。こいつはたぶん、運動できない、と決めつけた。
「えーっと、椅子に乗って、背もたれに足をかけて、こう、懸垂みたいな感じで、」
 ロマニ・アーキマンは身振りを交えて説明する。その時に椅子を蹴ってしまい、壁際へ移動してしまったのだそうだ。
「へえ……、運動できなさそうだけど、懸垂とか、できるんだな」
「ば、馬鹿にしないでくれ。ボクだって、懸垂くらい、一回はできるんだぞう!」
「一回……」
 士郎の憐れみを帯びた視線に、ロマニ・アーキマンは少し頬を紅潮させる。
「う……、い、一回できれば、上がれるから、そ、それでいいんだよ!」
 むう、と子供みたいに不貞腐れるロマニ・アーキマンに、
「はいはい」
 士郎は肩を竦め、サンドウィッチののった皿を差し出した。
「ほい、昼食だ。少しは休め、って天才からの伝言」
「あ、ありがとう。でも、ダ・ヴィンチちゃんも、わかってるくせに、難しいことを言うなあ……」
 ロマニ・アーキマンはニコニコと笑いながら、サンドウィッチを美味そうに頬張る。
「あんたはそれ食べて少し休憩してろ。配線は俺が見てやるから」
「え? わかるの?」
「どれをどうするか言ってくれれば。あと配線図があれば、だいたい」
「うっそ……。意外なスキル持ってるんだね、士郎くん」
 ロマニ・アーキマンは目を丸くして感嘆の声を上げる。
「さっさと指示をくれ、ドクター」
 ぽかん、としたロマニ・アーキマンにかまわず、士郎が催促すれば、
「あ、配線図は上に、あと、えーっと……」
 机の上をガサガサと漁り、ロマニ・アーキマンは士郎に説明をはじめた。
「それじゃ、ちょっとその椅子、借りるぞ」
 先ほどロマニ・アーキマンが下りる時に使った椅子に乗り上がり、天井板を外した穴に手をかけ、
「よっ」
 ひと息に士郎は天井裏へと上がっていった。
「ほえー……」
 ロマニ・アーキマンが感心して声を上げる。
「ボク、そんな簡単に上がれなかったんだけど……」
 自分は背もたれに足をかけて、どうにかこうにか上がれた感じだったのに、士郎は座面に立って手を伸ばし、届いた天井に、そのまま腕力だけで上がってしまった。
「鍛えてるんだねー……」
 サンドウィッチを齧りながらロマニ・アーキマンは呟く。
「そっか。そりゃあ、英霊になる人だからね」
 一人納得し、椅子に座った。
「あ、ドクター」
 ひょこ、と頭を逆さまに出した士郎に、
「なに?」
 ロマニ・アーキマンは首を傾げる。
「今のうちに、ちゃんと休憩、取っとけよ」
 命じられて、はい、と素直に答えるしかなかった。



***

 七つ目の特異点を修復して、カルデアに帰還した立香たちは、すぐに終局特異点へと向かう算段だという。
(まだ、戻っていない……)
 もう少し、あと少し、と士郎は次第に行き場をなくしていく現状に震えた。
 白い窓の外にほっとしながら、そんな自分を責める。
(俺は、何を願っているんだ……)