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梅嶺 四

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「蘇哥哥、、。」
「、、、、、。」
飛流が梅長蘇の顔を見ながら、声をかけるが、長蘇は聞こえないフリをしていた。
長蘇は、以前より声が出なくなった。
あれだけ通る声を持っていたのだが、、、。

「、、哥哥〜、、。」
「、、もう少しだけだ。、、飛流、付き合え。」
飛流に囁く。
声は小さくなったが、それでもまだ、声に力はあった。
梅嶺の砦の、梅長蘇の療養部屋。
幾らか開けた窓から、日が差し込み、冷たいが穏やかな風が入ってくる。
どの位窓辺に立っていれば、長蘇の気が済むのか、側で支える飛流は、とうに飽き飽きしていた。
飛流には一体何が面白いのか分からない。
だが、梅長蘇は嬉しそうに、眩しげに隙間から外を見て、何かを思い巡らせている。

こんな事をやり出して、幾日かたつ。
初めは飛流も何が見えるのかと、長蘇と一緒に覗いていたのだが、何の変哲もない初冬の風景が広がるばかりで、何かが動く訳でもなく、大渝軍の動きが見える訳でもなく、、、、。
金陵の蘇宅や廊州の江左盟の本部でも、こうして外を見ている事が良くあった。
外からそんな、長蘇の姿を見ているのは好きだったが、いざ、こうして長蘇と同じものを見ているのは、飛流には苦痛でしかない。何せ隣にいては、長蘇がよく見えないのだ。
飛流が痺れを切らしているのに、長蘇は知らぬふりで、手持ち無沙汰な飛流は、長蘇を支えながら長蘇の髪で遊び始めていた。
ここ暫く、長蘇は髪も結わずに、背中に流したままだ。
長蘇の肩に掛かる髪の一筋で、輪を作ったり、筆の様にして、字を書く真似をしてみたり、、、、暇を潰していた。
少し強い風が入ってくると、長蘇の髪は翻り、飛流の顔にかかったり、、、飛流もまた、夢中になっていただけに、思わぬ攻撃に長蘇の髪を払うことも出来ず、邪魔な髪に顔をしかめている。
「ふふふ、、。」
長蘇は、そんな様子を微笑ましく見た。

「!」
飛流の遊ぶ手が止まった。そして、長蘇の横顔を見る。
「、、蘇哥哥、、怒られるよ。」
「ん?、、来たか、、、。楽しみは、今日はここ迄だな。」
心配気な飛流だが、長蘇は、さしたることも無いように笑っていた。
いくらかすると、部屋の扉が開く。
「!!、、、また風に当たっているのか?。」
顔をしかめた藺晨が、部屋に入るなり言う。
「飛流、蘇哥哥はどの位、そこに立ってたのだ?。」
「んー、、、、。」
ちらっと、飛流は長蘇の顔を見て答える。
「、、、、、いましがた。」
「誰に仕込まれたんだ、飛流。
言われた通りに、そのまま言ったのが丸分かりだぞ。」
藺晨が言いながら、更に苦虫を噛み潰したような顔になる。
長蘇が下を向いて笑っていた。
「おい、病人。何度言えば分かる?。わざわざ冷たい風に当たるな。また熱が出るだろう。熱を出したいのか?、ん?。」
藺晨は薬を持って来たのだ。右手に持った盆の上に、煎じた薬が入った器がのっている。
「自分で床に入るか、、それとも私に抱き上げられて床に運ばれるか。長蘇なんぞ、片手で軽々運べるぞ、、どうする、、今ならば選ばせてやる。」
「はい、、、主治医殿、、、。」
分かった分かったとでも言う様に、しおらしい顔をして、飛流に支えてもらい、自分の足でゆっくりと寝台に向かう。
───幾らか風に当たった位だ、大丈夫かと思っていたが、、、
これが案外、、、、、身体が少し強ばったようだ、、、。───
思った様に足が動かない。
藺晨がいかにも不機嫌そうで、じっと長蘇の動きを見ていた。
少しでも具合の悪さを見せようものなら、くってかかられる。
───ま、あまり良い患者ではないのだ、仕方あるまいな。───
一歩一歩、ゆっくりと歩んで行く。
「みろ、言わぬことでは無い、寒くて身体が強ばったのではなか!。」
藺晨は、薬の盆を側の机に起き、急いで長蘇に駆け寄り、飛流と共に支えた。
飛流なら、ふらつかぬ様に支えるのだが、藺晨は長蘇の身体ごと支えるので、歩みが格段に楽になる。
藺晨が抱き上げた方が、はるかに早く寝台に行けるのだろうが、やってしまったら、長蘇の自尊心が傷付くだろう。
担ぎ上げるのも、更に痩せた長蘇が、壊れそうで出来なかった。
支えられて運ばれて、ようやく寝台に辿り着き、横にしてもらう。
「何のつもりだ。寝ていなければ、回復せぬぞ。」
「今日は調子が良かったのでな。梅嶺の気に当たりたくなったのだ。」
「戻りかけの調子が良い時ほど、休まねばならぬ。ここでは特に。何を焦るのだ。万事上手くいっているではないか。」
ふふ、、と長蘇が笑みをこぼす。
「飲め。良く休める。」
藺晨が持って来た薬を、長蘇に差し出す。
「、、、これは物凄く苦いヤツだろう?。口直しは無いのか?。」
「うるさい奴だな。子供じゃあるまいし、一息で飲んでしまえ。」
「、、、、。」
物憂げに長蘇は、薬の器を手に取り、眺めて溜め息を漏らす。
長蘇は視線を器から、藺晨に移す。その目は、「酷い奴だな」とでも言っているようだ。
「あああ!!、分かったよ!!。」
そう言うと、藺晨は飛流に指示を出した。
「飛流、私の部屋の棚に、黒い壺が有るだろう。あの中の物を三つ持って来い。」
「うん。」
「いいか飛流、つまみ食いはいかぬぞ。つまみ食いしたか、私は分かるのだからな。」
「、、、う、、。」
もっとも藺晨は、壺の中身の干した果物の数を、数えている訳では無い。
そう言っておかねば、飛流は壺の中身を、ぺろりと食べてしまうからだ。
飛流は、以前、藺晨が冰続丹の数を、数えていたのを知っている。
きっと飛流は、黒い壺の中身も、藺晨は数えていると思うだろう。
飛流は部屋を出て行く。
薄着だが、今日はいつもよりも暖かい。

飛流が部屋を去ると、途端に、藺晨の眉間に更に皺が寄り、、。
「、、一体、何を心配する?。何を焦る?。、、、また、お前の勘か?。」
「、、、。」
長蘇は答えずに、下を向いて笑っている。だが、意を決した様に話し始めた。
「不安で、外を見ているのではない。調子が思わしくないなりに、時として、動ける事があるのだ。、、、分かるだろう?。
そんな日は、じっとしては居られなくなるのだ。梅嶺の風は、若い頃を甦らせる、、、、。」
藺晨を見つめ返して、言葉を綴る長蘇の眼は、何の曇りもない。
「始めは、正直、また、ここに来るのが辛かった。
だが、思った程ではなかったのだ。ここの記憶は、辛いだけでは無い。
、、、ふふ、、、笑うか?。
昔の体では無いのに、、、この細い掌に、まだあの頃の感覚が残っていて、心のどこかが疼くのだ。
、、、行けと、、、駆けろと、、、。
だからせめて、梅嶺の空気に触れていたい、、そう思ったのだ。
焦燥というのとも違うのだ。言葉では表しにくいのだが、、。」
確かにそうだった。
金陵を出発すると間もなく、心身の均衡を崩して、長蘇は寝込む程、体調が悪くなったのだ。
梅嶺に向かう粱軍の行軍には、馬車も用意しており、騎馬から馬車に移るように、藺晨は勿論、蒙摯にも言われていたが、具合が悪くなる迄、頑として馬車には乗らなかった。
ただ単に、軍帥としてこう在らねばと、張り切り過ぎたのだろうと思っていた。しかしそうではなく、ここに向かうのが辛かったのだ。
作品名:梅嶺 四 作家名:古槍ノ標