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炬善(ごぜん)
炬善(ごぜん)
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CoC:バートンライト奇譚 『盆踊り』後編

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 しかし、よく聞くと、うとうとと「真なる信仰に目覚めるのです……」「神はいるのです……」などと呟いている。

 空砲を放ったのか、気づけば、硝煙の残り香が玄関に漂っている。
 バリツとタンは、かつてなくかつてない流し目で、アシュラフを見つめる。
「……何をした、アシュラフ君」
「真なる信仰に目覚めさせただけのことです」

 無言。
 アシュラフは視線を逸らしながら付け加える。
「じっさいのところ、ちょっとした暗示みたいなものです。まあしばらく経てば元に戻るでしょう。残念ながら」
「残念なのかね」
「さあ行きますよ」

 アシュラフはそのまま玄関に上がりこむ。
 と、靴を脱ぎ忘れたのに数歩で気づいたのか、くるりと引き返すと、靴を脱ぎ放し、そのままてくてくと、右に続く廊下の奥へと駆けていってしまう。

「……これでいいのだろうか」
「まあしゃあないんやない?」
 バリツとタンも、彼女の後に続いた。

 古びた居宅独特の生活感と、香りを抜けた廊下の最奥に、書斎は位置していた。
 壁のスイッチを探ると、簡素な一つのランプが天上で灯る。

 そこは、偉大なる往年作家の仕事部屋を思わせた。
 それも、晩年に心を病み、自ら命を絶ってしまった類である作家の。
 部屋には窓はなく、壁一面に本棚が設けられていた。内容は、古典や、何かの学術書、洋書と思しき背表紙が主だった。

 天上に近い本は丁寧に並んでいたが、蜘蛛の巣が張り巡らされていた。
 大人の目線に位置するよりも低い本は、横向きに、乱雑に詰まれ、床にも本が散乱し、足の踏み場もない状態であった。
 あるいは、それらを足の踏み場にしてしまっていたのかもしれない。

 部屋の隅に、文房具やメモが無造作に散らばった木製のテーブルがあり、使用の痕跡が伺えた。
 テーブルには、ひとつの大きな引き出しがあり、大きな南京錠によって施錠されているのがわかった。

「これは年代物だぞ」
 バリツは、そのテーブルへと近づいた。
 彼の仕事部屋でも、オランダから取り寄せたテーブルを用いていた。
「そんなことより、問題のものを探すべきです」
「ぬ、そうだな。この鍵のかかった机が怪しいところだが――」

 やむなく足の踏み場としていた、本のバランスにズレが生じたのは、その瞬間だった。
「ぬぉお!!?」

 盆踊りの影響が抜けきっていないのか、受身を取るつもりが大げさなほどに腕をふりまわしてしまい、バランスをとるつもりがかえって跳ねてしまう。

 結果、彼の上半身がテーブルへと覆いかぶさり、ムエタイめいた要領で、机にエルボーが炸裂。

 机が真ん中から真っ二つに崩れ、バリツが倒れこんだ。轟音。
 追い討ちをかけるように、机の上にあった本や文房具が、彼に雪崩れ込む。
「あちゃ~何やってんねん所長」
 タンが助ける中、バリツはやっとの思いで、雪崩れ込んだ品々から這い出る。

「なんということだ……受身のつもりが、机にマーシャルアーツを……」
「つーか、これやばくない? ほとんど無理やり人んち入った末に器物損壊やで」
「うー、非日常の事態にあるとはいえ耳が痛い話だ……うん?」

 バリツの下敷きになっていたのは、一冊の本だった。
 ほぼ全てが、どうやら何かの皮で装丁された、タイトルのない本。
 表紙を囲うようにして、漆黒のなめし皮に金属の装飾がついたベルトが施され、ひとり手には開かないようになっている。
 シンプルだが、明らかに現代に似つかわしい品物とは異なっていた。 

 軽蔑の眼差しを送っていたアシュラフも、その未知なるアイテムに気づくと、近づき覗き込む。

 本に一枚の紙が挟まれていることにバリツは気づいた。
 本の留め具を外し、恐る恐るそのページを捲る。
 両サイドから、タンとアシェラフがしげしげと覗き込む。 

 三人は声をそろえた。 
「読めない」
「読めねえ」
「読めません」

 どうやら書かれている内容が英語であることまでは理解できたが、内容までは全く理解ができなかった。

「あのさあ」
 タンが呆れたように述べる。
「所長、おまえさんオーストラリア出身やろ?」
「面目ないタン君。私は育ちは完全に日本なんだ。日常会話なら多少はいけるが、海外の論文も辞書と翻訳サイトに頼りっぱなしでな……あと遺跡とかも通訳――」

「もうええわ! それからアシュラフちゃん、君も明らかに外国じ」んやないけ。
 言いかけたところで、少女の眼力にタンは口を噤まざるを得なかった。

「アラビア語ならワンチャンいけたのですがね」
 ふと、アシュラフが本に挟まれていた紙をパッとひったくる。
 折りたたまれていたそれは、広げるとA4サイズ大はあり、細かな文字が並んでいる。今度は日本語だ。
 今度はアシュラフの両サイドから、バリツとタンが覗き込んだ(タンの顎には、片手にてひっそり小ぶりの拳銃が突きつけられる)。
 
「呪文。ヨグソ・トースの召喚、退散……?」
 バリツが読み上げる。タイトルのようだ。
 その下には、細かな文字。
(……いあ、いあ? ……ふたぐん? なんだこれは?)
 何かをひらがなに置き換えた語群がぎっしりと並んでいたが、そこを口に出して読むことは避けることにした。
 とてつもなく嫌な予感がしたから。

 他にも「洗脳の呪文」「生贄の召喚」などという中文字の下に、細かなひらがなの文字と、怪しげな魔法陣めいた紋章が描かれている。

 アシュラフが彼を見やった。
「これを読み上げたあなた」バリツを指差す。「改めまして邪教徒確定です」
「読んだのはタイトルだけだし、君も眼は通しただろう! いいがかりだー!」
「待ってや。角っこに何か書かれてるで――」

 それまでの丁寧な文字とは別に、走り書きのように記された文言を三人は確認する。


 ヨグ=ソトース様を呼び寄せる
 ・塔は野外になければならず 雨天であってはいけない
 ・塔の高さは少なくとも10mなくてはならない(←我が村の櫓! ふさわしい)
 ・術者はヨグ=ソトースに生贄を捧げねばならない(←村の外より招きよせる)


「これは……」バリツは顎に手を当てる。「まさに、あの広場で行われている盆踊りでは?」
「あのさあそもそも、夜糞とソースだかなんだかわからんけど……何やそれ?」
「タン君、君なあ……」
 同じ言葉の響きを連想してしまっていたのは実は内緒なバリツであったが、そんな場合ではない。
「わからぬ。だが、おそらく村長が呼び寄せようとしている……神、とやらのようだぞ」

「実も蓋もない話やけどさ、そんなんいるわけないやん。って今俺すっごくいいたくなるんやけど」
「ここまできてそれを述べますか、邪教徒オブ邪教徒」
「おまえさんやっぱ当たりキツイなあ! あーでもアレやなあ……」
 タンは頭をかきむしる。
「そんな話でもないと、俺らがここにいきなり来たのも、村長さんらがおかしくなっちまってるのも説明つかないかあ~」

「そういうことになるだろうな。でなければ、私があの踊りに引き込まれた説明もつかぬ」
「あのダサい踊りな」
「うるさいな! それから……洗脳やら生贄とやらの項目が気がかりだ」