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炬善(ごぜん)
炬善(ごぜん)
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CoC:バートンライト奇譚 『盆踊り』後編

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「ま。それは十中八九、村人や私たちのことでしょうね。こんな大掛かりな邪教の儀を試みる以上、そうした胡散臭い術も習得済みなのでしょう」
「なんということだ……」

 あくまでこれらは、仮説にすぎないが、恐らく全てが的を射ているのだろう。
 今更ながらのように、バリツは自らが巻き込まれた怪異の不可解さに頭を悩ませる。

「まあ、何はともあれ」
 アシュラフはメモを挟み込むように本を閉じると、バリツに押し付ける。
「私達がこの英文を読めなかったのは、ある意味幸いかもしれませんね」
「その心は? アシュラフ君」
「わからないのですか。もしこの場で解読できていたら。私達も、あの村長や村人と同類になっていたかもしれないんですから」
「……確かにな」

「ひとまずさ」
 タンが持ちかける。
「村長が何をしたがっているのかはわかったとこだし、斉藤の様子を見に行かない?」
「その通りだな。それから私は――」
 バリツは、アシュラフに押し付けられた怪しげな本を軽く叩く。
「この本を持っていくことにするよ。退散の呪文、とやらも書かれているというのなら、何かの役にたつかもしれない」

 一瞬、これでもかというほど顔をしかめたアシュラフと、眼があった。
 だが、彼女はプイとそっぽを向くと、書斎を後にしていく。
 邪教の代物はいけ好かないが、有用性は否めない。というところであろうか。

 玄関のたい子は相変わらずであったが、命の別状や後遺症には至らないとバリツは判断した。
 一同は足早に櫓へと向かう。

「貴志君が無事であればいいが……」 
 櫓は10メートルの高さこそあるが、そこへの視界は木々や家に阻まれていて、状況の確認には広場の入り口まで近づく必要があった。

 櫓のある広場へ出かかると、林と好子が一同を出迎えた。

「お二人とも」バリツは確認を急ぐ。
「貴志君は無事か?」

「ええ、それが……」
 
 櫓を見やる。
 なんたる有言実行か。
 斉藤は櫓の半分の高さまで到達していた。
 これまで掘削してきた穴に両足をひっかけ、体の体重を櫓に押し付けながら、機用に次の取っ手を刻む作業を継続している。

 しかも注視すると、掘削された箇所は規則正しい並びで違和感なく櫓に刻まれ、穴自体もやたらと美しい長方形であった。
 まるで、今後櫓を使用する際に、景観を損なうことなく、縄梯子なしでも頂上に到達できるようにと気遣うかのようである。
 
「一人だけ鉄腕なんとかの人が紛れ込んでいるようですね。少し感心しましたよ」
「あそこまで凝る必要はないのだが――」

 一打ち。
 太鼓の音に一瞬間、異変が生じた。

 一同は怯んだ。
 臓腑に響いていた太鼓の音は、異形の踊りとはいえど、成る程心躍るものであることは否めなかった。だが、先ほどの一打ちは今までとは一線を画していた。
 ――まるで、唐突な大震災の始まりが如き、五体全てを突き上げるかのような衝撃。
 
「あ~~~~!!」

 たまらず手を離した、斉藤の悲鳴。
 ドシン! 喧騒の中でも明確に届く、腰を打ち付ける音。
「あ~、あれは痛そうやな……」
 そのまま、ちょうど量産工場でくみ上げられていく品物のように、ひょいと体が浮き上がったかと思うと、斉藤はそのまま踊りに加わってしまった。

「うう、なんていうことだ……!」
 バリツは唸る。
「しかしこんな時ではないが、彼の踊り、なんであんなに楽しそうなのだ」
「所長よりもあいつのほうが上手いで」
「なんだと。いや、とにかく! 彼を助けにいかねばなるまい!」

「あなた達二人も踊りに加わったら仲良く銃弾をプレゼントしてあげます」
 彼らは、背後から少女の低い声と、ジャカン!という金属音を鼓膜に感知した。

「なんて子だ……」
「いいから、いくしかないで!」

 二人は、斉藤の下へ駆ける。
 バリツは仮定した。

 どうやら踊りに取り込まれるか否かは、何らかの個人差があるのかもしれない。
 だが先ほどの斉藤のように、踊りを上回るような勢いに任せれば、踊りの魔力を振り払えるのではないだろうか。
 タンもそれを直感で確信しているようだ。

 踊りの輪に隣接した時、蒸すような風めいた感触が全身を捕まえようとする感覚を覚える。これが魔力であろう。
「このバリツ、同じ失敗はくりかえさん!」

 片や、腰を。片や、上体を。
 タンとバリツは、二人がかりで思いっきり、斉藤を引き上げた。
 もはや投げ出すも同然であった。

 三人は共々に地面に倒れこむ。
 そしてそのまま、土ぼこりを払う間もなく、急いで踊りの輪から退避した。

「助かったぜ」
 荒く息を付きながら、斉藤が語る。
「だめだアレ、難しすぎる。踊っちまうよ」
「でも惜しかったやん」
「よくわからんが、壁に張り付いている間は問題なかったんだ。しかしあの衝撃を受けて地面に落ちた途端、体が全く言うことを利かなくなってしまった」
「貴志君、ここは切り替えておこう」
「ああ。ところで、そちらの収穫は?」

 バリツは端的に、村長の家にて掴んだ情報を解説する。
 斉藤のみならず、側にいた好子と林にも、言って聞かせる。

 村長の踊りの目的を聞いて、斉藤は腕を組み、深く唸りこむ。
「とても正気の沙汰とは思えない話だ」

 林と好子の反応も、言葉自体は似ていた。
「信じられませんね」「そうねえ。そんな大それたことになっていたなんて」
 だが、二人――特に林――はどうやら斉藤とは異なり、まだ今ひとつ半信半疑の様子であった。
 協力的な好子も、あまりに日常から離れたスケールの話に困惑を隠せないでいた。

「私もそう思う。だが、少なくともあの踊りを放置したままにしておくわけにはいかないのは確かだ」
「そうだな」
 斉藤は力強く答える。
「作業中に、何度か大声で村長に呼びかけてみたんだ。だが、全く反応がなかった。あいつ、すでに正気を失ってるんじゃないか?」

「間違いないでしょうね。見ればわかるものですが、試みたことは悪くないでしょう」
 アシュラフが受け答え、ため息をつく。
「面倒くさいですから、もう全員撃ってしまいましょうか」
「うーーーそれは待ちたまえ、アシュラフ君……」

「ちょっと待てよ」
 その時、斉藤がひらめいた。
「あの櫓を乗り物で激突して破壊すれば、儀式自体なりたたなくなるんじゃないか?」

 斉藤の提案を受けて、一同は一瞬静まり返る。

「マジでか」
 開口一番、タンが呟く。
 斉藤はノッてきた様子で、手をパンと叩く。
「というわけだ!よし、車を探そう!」

「ちょ、ちょっと待てよ、斉藤君」
 バリツが嗜める。
「ここで車を調達するということは、誰かの車を犠牲にするということだが――」

 バリツと目が合ったのは、好子だった。

「ええ、そりゃ」彼女は躊躇いがちに話す。
「ありますよ。私の家にいけば農作業用の重機はいくつか」

「貸してください!!!!」
 斉藤がおもむろに叫び、頭を下げる。
 好子は両腕を組み、あからさまに顔をしかめる。
「ちゃんと無傷の状態で返してもらえるなら、まあ」
「それは無理だと思う!!!!」
「じゃあ厳しいわねえ……」
「そこを何とか!!!!」

「好子殿!」