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はじまりのあの日22 違和感の正体と告白

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飲み会、何次会まで行うか。そんな街頭アンケートの結果が報じられている。修学旅行にしろ、今のアンケートにせよ、誰が得をする報道なのか。でも、チラリと考え始める。わたし達は、大体が三次会まで行っちゃうな。なんて考える。三次会か。あの日も三次会まで行った。その後、四次会まであった。四次会は、祝福のため。ただ、わたしが起こした『大事件』によって、四次会は途中退場、自業自得。でも『大事件』がなかったら、今、わたしは『此所』に居なかっただろう。あの日の三次会。記憶図書館の最重要資料の一角に、今も大切においてある。ちょっと開いてみようかな―

「「「「「「「「「「飲み直しだ~」」」」」」」」」」

またたく間に、お酒も料理もすすんで、現在は三次会。明日はみんなで洗い物大会だ。もちろん、カイ兄と彼には、休んでもらうこと前提で。現在、午後11時。テーブルの上には、スナック菓子。リリ姉とキヨテル先生が吟味したスイーツ。カイ兄と、彼が作った、漬け物や味玉子。温め直した、焼き鳥や焼きビーフン。リュウト君、ユキちゃん、いろはちゃん、オリバー君は、すでに夢の中。以前起こしてしまった事があったので、二階の開きの間。お風呂も済ませ、わたしは彼の隣に座る。けれど、座ったは良いが、メイカイ様の結婚式、その夜、夢を観てから、積極的な行動が出来ない。さっきの『違和感』を覚えてから、より一層『彼』を意識してしまう。目を合わせるとか、手を取るとか『膝に乗る』とか『したい』のに『できない』それでも隣にいる、わたし。彼と離れたくはないから。りんごジュースのコップを、両手のひらで挟み、まわす。三次会開始以降、みんなは歌の感想だのPVの観賞だの、それぞれの反省だのを。わいわいと言い合ってた。ようするに内輪会の真っ最中、その喧噪も上滑り。いつもだったら、楽しいこと間違いない、内輪会。それさえ蚊帳の外で、考えていた。自分勝手に。夢を観たあの日、めー姉、カイ兄結婚式の夜、彼の夢を観た。彼と歌う、夢を観た。翌日、わたしは思った『がっくんと歌って生きたい』と。そう、一生涯一緒に居たいと思った。するとそれは、どうなるか。めー姉、カイ兄のように『成る』の。それはつまり、ではこの好きは、彼への『好き』は。動揺し出す、わたしの心。そのわたし、意識を引っ張ったのは

「リンもレンも、眠いんじゃない」

他ならぬ、紫様の声。めー姉にかかりっきりのカイ兄に代わり、紫の彼が言う。常にみんなを気にかける、やさしい彼。わたしも、少し離れて座るレンも大丈夫と返す。片割れはルカ姉、ミク姉に挟まれて三人でミク姉へのプレゼント確認。総ての品に、歓喜するミク姉。ちなみに彼は、ギガ級フラッシュメモリ数種類、わたしはメモリーカード。カブッタ感じが嬉しかった。無理はするなよと、撫でてくれる、大きな手。この行為とミク姉の歓声が、心を落ち着かせてくれた。ぐい飲みを呷(あお)る彼

「そういえば、リン、肉ジャガ。出汁の取り方、よく覚えたじゃない。勇馬が喜んでた。ジャガイモの皮も包丁でムケルようになったし、どんどん、料理上手になるじゃない」

撫で回してくれる彼。この行為が、わたしの『何か』を呼び覚ます。もっと褒めてくれ、と。もっと撫でてくれ、と

「えへ。だって、がっくんに教えて貰ったから」

褒められたのが嬉しくて、多少、おとなしめに見上げてみる

「俺が教えたから」
「うん。だってがっくん、すっごく褒めてくれるでしょ。わたし嬉しくて。がっくんが来る前はね、わたし、料理覚えようなんて思わなかった」

いつものように撫で続けてくれる紫様。そう、貴男からの行為だからなのだ、この幸福感は。貴男の手が撫でてくれるから嬉しいんだ。貴男と作る料理だから、殊更に楽しいの

「そっか。以外じゃない。昔から興味あったのかと思ってた。次の日くらいから、俺の隣でお手伝い、してくれたじゃない」

そう、貴男の隣だから。隣に居たかったから

「うん、がっくんと一緒にお料理したいな~って。カイ兄のお料理は、作ってくれるのが楽しみだったけどね、がっくんとは作ってみたいな、お料理してみたいなって」
「過保護カイトが、手伝わせないのかと思ってた。ああでもそっか。レンが言ってたな、前、信じられないって。それでか」

焼酎を一口含む彼。嬉しさに拍車が掛かるわたし

「うん。わたし、もっとがっくんとお料理したい。たくさん覚えたい。それでね、作ってあげたくて。いつか結婚した時に」

結婚。その言葉を言ったそこまでは夢見心地だった。きっと褒められて浮き足立ったから。めぐ姉の言葉、彼の手のひら。感じた『違和感』と感じる『幸福感』に心のタガが外れたのだろう。あの日、めー姉が言った『一生支えたい人。生涯、支えて欲しい人。救け合いたい人の事。ゆっくりと』と。結婚式当日、カイ兄も言った『リンの思うままに』と。姉達からは『神威の妹』とさえ言われるわたし。数年前まで、嬉しくて仕方なかった。けれど中華の町、彼に『妹』と呼ばれたとき、何故か多少、落胆した。それは何故か

「向上心があって良いじゃない。ははっ、リンのダンナさんに成るヤツは幸せ者だ」

何故だか寂しそうな顔をする彼。疑問に思って

「がっくん、なんか寂しそうだよ、どして」
「ん、そうかな。だとしたらアレじゃない。妹を送り出すアニキってカンジ。リンが他所様に嫁いじゃう。まったく、リンの旦那になるヤツに嫉妬しちゃいそう。こんなイイコを嫁に貰うヤツ、羨ましいじゃない」

『リンのダンナ』その言葉に、心が『憤慨』しつつ訴えかける。何を言ってるのか、と。わたしは一生、一緒に居るのだ、と。わたしの旦那様になる人は、わたしが嫁ぐ先は

「何言ってるの。わたし、がっくんのことが大好きなんだよ。わたしと結婚してくれるのはがっくん。がっくんと一生支え合って、救けあって、生きていきたい。歌って生きたいだから―」

言って、背筋が凍り付く。わたしは今、何を口走ったのだ、と。トンデモナイことを言ったのではないかと。焦る気持ちのなか、どんどん、心音が溢れる『彼が好き』だという想い、あふれ出したら止まらない

「―リン、それ、えっと冗談―かな。それとも、オレを茶化してる。メンバーの事好きじゃない、リン。多分その意味で一緒に―」
「―っ違うっ」

困った顔で、告げる彼。その『冗談』の言葉に、動揺していた心、冷静な部分が反応する。冗談じゃあない。わたしは貴男のことが好きなのだ。愛しているのだ、と。逆に『茶化すんじゃない』と。けれど、言ったは良いが、わたしの動揺は止まらない

「―」

彼を見る、驚いた顔。見つめあう。綺麗な瞳に浮かぶ、あきらかな動揺の色。互いに言葉は出てこない。頭だけが、やたらと冷静に答えを導き出す。なんで、彼に教えて貰ったものは、必死に覚えたのか。何故、彼の前では、自分を良く見せようとしていたのか。化粧をしたあの日、なぜ『彼』の反応があれほどまでに嬉しかったか。中華の街で、彼に掛けてもらった言葉、あの『幸福感』が何だったか。めぐ姉の言葉で生じた『違和感』の『正体』に、わたしは気付いてしまった

『覚えた』のは褒めてほしいから

『良く見せた』のは好いてほしいから