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はじまりのあの日22 違和感の正体と告白

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『幸せ』なのは大好きな彼がくれたから

『背伸びした』のは彼との『差』を埋めたいから

『違和感』を感じたのは『好き』の類い(たぐい)が違うから―

とうとう、自分の気持ちの正体に気がついてしまった。京の都で感じた『照れくささ』の正体。中華の街で抱いた『幸福感』の正体

いつからだろう、彼への想いは

いつから変わったのだろう彼への『好意』は

知ってしまった。兄としての好きではない、メンバーとしての好きでもない。だから嬉しかった、秘密の贈り物。想ってしてくれたからこそ、嬉しかった『お小言』変わった『好意』の対象、彼がしてくれたから、嬉しかったのだ。とうとう気付いた



わたしは、この人の事が。どこまでもやさしい、紫の彼が『わたしの王子様』が『愛おしくてたまらない』のだ、と



「ん、がく兄、リンも。何固まってんの」
「さっきリンちゃん、大きな声あげたけど、ど~したの~お」

片割れの不思議そうな声。ミク姉のノンキな声。わたしと彼、二人の視線が外れる。その時だった。聞き慣れたイントロが響く。スクリーンに目をやると、曲はオリジナルのものではなかった。ミク姉とカイ兄のデュエット曲。わたしが10歳の時、彼とカバーした、中世ヨーロッパ社交界を舞台にした楽曲。そのPV(プロモーションビデオ)実はあの日の一月前、リメイクして取り直した。女性プロデューサーの手によって。わたしと彼、完成したモノを観たのは、初めてではない

「あ、このPV取り直したんだ。うっわ、すげえ画が綺麗になってんじゃん」
「本当だ~。わ~本家より力入ってるっぽい。ちょっと嫉妬しちゃうな~」

同じく画面に向き直るレンの感想。本家のミク姉始め、メンバーでは、初見の人が多かった。撮り直したことを知るメンバーはいたけれど。あの時、わたしは初めてそれを観た気持ちだった。今までは気付いていない感情に支配されてたから。彼に本当に、このPVのように。愛しいと想って貰いたい『愛して欲しい』そんな想いが溢れ出る

「うっわ、本当だ、気合い入ってるね。さすがこのリビング、三日間占領しただけのことあるよ」
「演出とロケーションもハンパじゃないわ~」

微笑み会う、カイ兄、めー姉。彼は無言だった。メンバー、しばし無言で魅入る。わたし、加速中の鼓動。考えが纏まらないまま、心が中に浮いたまま、動画が中盤にさしかる。その時、言葉を発したのはIA姉だった

「ぅふ~、神威のに~さんとリンちゃん。デュエット本当に増えたね~。ゎたし、ふたりのデュエット、大好き~。萌え萌え、らぶらぶ、きゅんきゅんきゅ~ん」

黒砂糖を用いたというチョコビスケットスティック。11月11日を勝手にそのお菓子の日にしてしまった物の黒糖版。手に萌えあがるIA姉

「しかしなんつ~かさ~。ウチこのリメイクPVは初めて見たけど~。コ~レおにぃとリンの雰囲気ヤバクね~。撮り方あぶねぇ、どんな演出よ」
「うちも思っちゃうな~リリね~さん。なんっか、危険なにおいするよね~。禁断の恋、ってカンジで~」

先生達が買ってきた、知る人ぞ知る店の、老舗謹製というおまんじゅうを食べながらリリ姉ジト目。至高のエクレアを食べながらMikiちゃん、小悪魔笑顔で。心の何か『禁断の恋』という言葉に反応する。わたしと彼『禁じられたモノ』なのか、と

「あ~、うん。PVの撮り方も含まれてはいるから、一概にはいえないけど。てか、初めて観たけどさ。アタシこのPVの演出、女プロ(女性プロデューサ)の作為というか、悪意を感じるんだけど。かなり設定も変わってるわよね」

ワイングラスを傾け、機嫌のよろしい、めー姉。中の液体は真っ赤なもの

「だよね~、め~ちゃん。だってこれ、舞台は中世で、兄妹のお話だったはずなのにさ。完全に『現代社交界』じゃないか。良家の御曹司と、迷い入った娘の、許されざるってとこかな。この、殿・リンバージョン。あ、この場面、リンの服装と髪型、わざと子供っぽくしてるね」

カイ兄も甘いお酒を含む。会話を終え、そのカイ兄に、次のおつまみを取ってと命じるめー姉。具体的になってくる物言い。なにが言いたいか、じわり、じわりと伝わってくる。きっと、言って欲しくないことを考えられている。思って欲しくない事を想われている。10歳だったあの日、プロデューサーが言った一言。想ったであろうアレを思われている

「アレだろ、かむい。お前アレだろう、アレなんだろう。途中で抱きしめてたじゃね~か、なんつ~ことしでかしてんだ。前作もかんなりヤバかったのによう」
「がくサンには申し訳ないすけど、ヤバ目に見えっす。ただ、リンも楽しんでるふ~には見えっけど、なんでこうなった感が。やっぱ女プロの趣味っすかね」

ひたすら楽しげにテト姉『アレ』という言葉の連呼。その連発に、わたし『何か』のボルテージが上がっていく。申し訳なさげに勇馬兄。ただ、後半はカラカイが含まれた声。ここにいるみんなが思っている。かけがえのないメンバーさえ思っている『思って欲しくない』事を。そう思えてくる。隣の彼を観る。押し黙って、目を見開いている

「そ、それじゃあんまりだよ。二人に失礼だよ~。リンちゃんもぽ兄ちゃんもこの撮影、すっごく頑張ってたんだよ。お似合いだよ~リンちゃ~ん」
「あにさま、りんりん、おにあいあ~いっ。みんな変なこと言う、めっ」

真剣に擁護してくれた、めぐ姉、カル姉。その声も、安定剤にはならず

「私も、メイコさんの仰るとおり、プロデューサー女性の悪意を感じますね。めぐさんに同意いたします。神威さんとリンさんのお気持ちを踏みにじる。これは、お話し合いが必要です、ね」
「わ~先生、大丈夫ですよう。ぼくも、良いと思うよリンちゃん。お似合いだよっ。プロデューサーさんの演出が問題で、危なく見えるだけで。あ―」

いままで優雅にカプチーノを入れていた、キヨテル先生は半眼に。慌てて事を収めようとするピコ君、あまりフォローになってない

「でもさ~。なんか、おれ、リンのほ~が積極的に見えるんだよね~『二人きりになりませんか』とか言うんじゃね~の」

最近、わたしより先に、少しマセてきた片割れ。にやつき、フルーツケーキを食べる弟が気に障る

「あ、それで二人になったら豹変『わたしが叫んだら大変ですよ~』っとか。でもその裏には、リンちゃんの切ない事情があ~ぁ」

オニオンチップをつまみ、目を輝かせ、朗らかに言う。以前からこのテの話し好きな、ミク姉の言葉が癇に障る

「リンちゃんが神威さんを。ですか。ふふ、そして、愛の力で、壁を乗り越えてゆくのですね。本当になりませんかしらぁ」

『大人』である、姉。リキュールを含み艶っぽいルカ姉の物言いが、癪に障る。三人とも思ってたってことか

「ニホン文学にアリ申した。ゲンジ~。とか申シたか」

アル兄の言葉に、悪意はなかったのに。思ってしまったら止まらない。負の感情が際限ない。そうか、みんな思ってるってことか、わたしたちの歌を聞いた人たち、みんなが思ってたってことか

思ってるってことか

「しっかし、すっごいハンザ―」
「禁じられたあ―」
「こぉん~のろりこ―」
「違うよ~、に~―」
「そんな偏見では―」