鳥籠の番(つがい) 6
鳥籠の番 6
ラー・カイラムの艦橋では、ブライトとカミーユ、ジュドー、そしてケーラが先ほどの戦闘のデータを検証していた。
「アムロさんのあのモビルアーマー、ニュータイプ専用機です」
「だろうな」
ブライトは各機のカメラで撮影されたα・アジールの映像を見つめる。
「アムロ・レイ…流石ですね。動きが全く見えなかった…気付いた時には被弾していました」
ケーラが唇を噛み締め、悔しそうに顔を顰める。
あの時、カミーユのリ・ガズィと二機同時に攻撃を仕掛けた。
しかし、α・アジールは二機の攻撃を軽く受け流し、確実にケーラのリ・ガズィにビームを命中させたのだ。
「今回、アムロに何機やられた?」
「六機です」
ブライトの問いに、データ検証をしていたオペレータが答える。
「パイロットは?」
「え?あ…全員無傷です」
「そうか…」
腕と脚、メインカメラ、確実に戦闘不能となる場所を攻撃するが、コックピットや機体の誘爆を誘う場所には当たっていない。
「カミーユ、どう思う?」
「アムロさんはパイロットを殺さないように、けれど確実に機体が戦闘不能に陥るように攻撃していたと思います」
「だろうな。モビルスーツの構造を熟知しているアイツだ、どこをどう狙うかなど簡単だろう…」
「ええ」
「アストナージが嘆いてたよ、関節部分とか制御系のパーツとか修理に手間と時間が掛かるところばっかりやられてるって。修理の効かない機体もあるらしいよ」
ジュドーの言葉に、カミーユが溜め息混じりに呟く。
「ああ、正にMSを再起不能にしてくれた」
そんな三人の会話に、ケーラが疑問の声を上げる。
「しかし!そんな事があの乱戦の最中に可能なのか?」
「アムロさんなら可能だ。事実、アムロさんはファンネルを出していなかった。ファンネルを出すまでもないくらい余裕があったんだ」
カミーユの言葉にケーラが息を飲む。
「そんな…凄いパイロットに、私たちが敵うのかい?」
「……」
「そういえば、アムロさんって強化処置で記憶を失っているんでしょう?その記憶が戻ればこっちに付いてくれるんじゃないの?」
ジュドーの素朴な疑問に、カミーユがシャアの言葉を思い出す。
“アムロを殺す気か!”
『アムロさんを…殺す?』
口元に手を当て、カミーユがあの言葉の意味を考える。
『フォウもロザミアも記憶操作を受けていた。何故、強化人間には記憶操作をするんだ?何か意味があるのか?扱い易くする為?いや、フォウは確かに記憶と引き換えに命令に従っていた。しかし、だからこそ、その理不尽さに憤り、最後は命令に逆らった』
「どうした?カミーユ」
思考に耽るカミーユにブライトが声を掛ける。
「いえ…、クワトロ大尉…シャアが、妙な事を言っていたんです」
「妙な事?」
「ええ、俺がアムロさんに記憶を思い出してもらおうと声を掛けた時、こう言ったんです。“アムロを殺す気か”と」
ブライトは少し思案した後、厳しい表情を顔に浮かべる。
「…分かった。その件は俺の方で調べておく」
「あ…はい」
何か思い当たる節があるのか、ブライトの顔が苦悩に歪んだ。
艦橋を出て、カミーユとジュドーはモビルスーツデッキへと向かった。
そして、被弾したリ・ガズィを見つめ、カミーユが溜め息を吐く。
「機体の性能差がありすぎる…。これじゃシャアに…ネオ・ジオンに勝てない」
「そうだよね…」
ジュドーも頷く。
「俺、月に行ってくる」
「カミーユ?」
「例のMSを受領しに行く」
「例のって…昔、アムロさんが基礎設計したνガンダム?でも、まだ完成してないんでしょう?」
「殆ど出来てる。あとは外装と調整だけだ」
アムロが連邦に拘束される前、シャアに対抗する為に設計したMS。
ブライトが預かっていた図面をカミーユが見つけ、どうにか予算を融通して貰うようブライトから上層部に掛け合ってもらい、開発に漕ぎ着けた。
まだロールアウトして日にちが経っておらず、完成はしていないが、形にはなっている。
後は外装とサイコミュの調整だけだ。
「クワトロ大尉とアムロさんと対等に戦う為にはνガンダムじゃないとダメだ」
「カミーユ…」
「それからZガンダムもアナハイムから受領出来るはずだ。ジュドーはそれに乗れ、リ・ガズィじゃお前の力を十分活かしきれない」
二人は月のフォンブラウン市にあるアナハイムエレクトロニクス社に赴き、まだ完全には完成していないνガンダムとZガンダムをやや強引に受領した。
◇◇◇
数日後、ラー・カイラムは、戦闘に巻き込まれたシャトルの乗客であり、連邦の高官であるアデナウアー・パラヤを送り届ける為、コロニー“ロンデニオン”に入港した。
「連邦の高官がなんでまた、わざわざ地球からロンデニオンに?」
ラー・カイラムを降りるアデナウアー・パラヤをカミーユがデッキのキャットウォークから見下ろす。
「5thルナ落とされて、ビビって逃げてきたんじゃないの?」
「そうかもしれないけど…」
「まぁ良いじゃん。俺たちにも休暇が貰えたし。カミーユはこれからハサウェイとクエス連れてドライブに行くんでしょ」
「まぁな。って言うかお前も来いよ。俺一人に子守りさせる気か?」
「えー、面倒臭い」
「そんな事言うなよ」
「しょうがないなぁ」
そう言いながら、私服に着替えた二人はハサウェイとクエスを連れてロンデニオンへと降り立った。
そして同じ頃、シャアとアムロもまた、連邦の高官達と秘密裏に交渉をする為、ロンデニオンを訪れていた。
「大佐、連邦の高官が揃ったようです」
「そうか」
ロンデニオンでも屈指のホテルの一室で、シャアはナナイの報告を受けると、手に持っていたティーカップをテーブルに置く。
「ホルスト、準備は整っているか?」
「勿論です」
「では、ホルストとナナイは先に行っていてくれ、私も直ぐに行く」
「はい」
ホルストとナナイが部屋を出て行くと、シャアは徐ろに立ち上がり、隣に立つアムロの手を引く。
「アムロ…」
「大佐?」
「こちらに…」
シャアはアムロを引き寄せて、自身の座るソファの隣に座らせる。
「アムロ…少し良いか?」
そう言うと、シャアは隣に座るアムロの胸に自身の額をつけて目を閉じる。
シャアから伝わる決意と覚悟、そして…迷いと焦燥。それを、アムロはシャアの頭を抱き締める事で受け止める。
「シャア…俺も一緒に背負いますから…」
それは、“今”のアムロにとっての本心。
シャアの追い求める理想には勿論、賛同している。
しかし、その方法がどれほど非人道的かも理解していた。
ネオ・ジオンの、シャアの突き進む道が、かなりの強硬手段であり、それが優しく、純粋な彼の心をどんなに蝕んでいるかも分かっているが、“今の”自分はマスターであるシャアの決めた道を“共に歩む”事しか出来ない。
それが、“今の”アムロにシャアが求めている事だから。
シャアの真っ赤な総帥服と、自身が身に纏うネオ・ジオンの黒い軍服を見つめ、アムロは少し悲しげに顔を歪める。
『ネオ・ジオンと言う鳥籠の中で、俺たちは互いに縋り合いながら、破滅の道を歩んでいくのか…』
ラー・カイラムの艦橋では、ブライトとカミーユ、ジュドー、そしてケーラが先ほどの戦闘のデータを検証していた。
「アムロさんのあのモビルアーマー、ニュータイプ専用機です」
「だろうな」
ブライトは各機のカメラで撮影されたα・アジールの映像を見つめる。
「アムロ・レイ…流石ですね。動きが全く見えなかった…気付いた時には被弾していました」
ケーラが唇を噛み締め、悔しそうに顔を顰める。
あの時、カミーユのリ・ガズィと二機同時に攻撃を仕掛けた。
しかし、α・アジールは二機の攻撃を軽く受け流し、確実にケーラのリ・ガズィにビームを命中させたのだ。
「今回、アムロに何機やられた?」
「六機です」
ブライトの問いに、データ検証をしていたオペレータが答える。
「パイロットは?」
「え?あ…全員無傷です」
「そうか…」
腕と脚、メインカメラ、確実に戦闘不能となる場所を攻撃するが、コックピットや機体の誘爆を誘う場所には当たっていない。
「カミーユ、どう思う?」
「アムロさんはパイロットを殺さないように、けれど確実に機体が戦闘不能に陥るように攻撃していたと思います」
「だろうな。モビルスーツの構造を熟知しているアイツだ、どこをどう狙うかなど簡単だろう…」
「ええ」
「アストナージが嘆いてたよ、関節部分とか制御系のパーツとか修理に手間と時間が掛かるところばっかりやられてるって。修理の効かない機体もあるらしいよ」
ジュドーの言葉に、カミーユが溜め息混じりに呟く。
「ああ、正にMSを再起不能にしてくれた」
そんな三人の会話に、ケーラが疑問の声を上げる。
「しかし!そんな事があの乱戦の最中に可能なのか?」
「アムロさんなら可能だ。事実、アムロさんはファンネルを出していなかった。ファンネルを出すまでもないくらい余裕があったんだ」
カミーユの言葉にケーラが息を飲む。
「そんな…凄いパイロットに、私たちが敵うのかい?」
「……」
「そういえば、アムロさんって強化処置で記憶を失っているんでしょう?その記憶が戻ればこっちに付いてくれるんじゃないの?」
ジュドーの素朴な疑問に、カミーユがシャアの言葉を思い出す。
“アムロを殺す気か!”
『アムロさんを…殺す?』
口元に手を当て、カミーユがあの言葉の意味を考える。
『フォウもロザミアも記憶操作を受けていた。何故、強化人間には記憶操作をするんだ?何か意味があるのか?扱い易くする為?いや、フォウは確かに記憶と引き換えに命令に従っていた。しかし、だからこそ、その理不尽さに憤り、最後は命令に逆らった』
「どうした?カミーユ」
思考に耽るカミーユにブライトが声を掛ける。
「いえ…、クワトロ大尉…シャアが、妙な事を言っていたんです」
「妙な事?」
「ええ、俺がアムロさんに記憶を思い出してもらおうと声を掛けた時、こう言ったんです。“アムロを殺す気か”と」
ブライトは少し思案した後、厳しい表情を顔に浮かべる。
「…分かった。その件は俺の方で調べておく」
「あ…はい」
何か思い当たる節があるのか、ブライトの顔が苦悩に歪んだ。
艦橋を出て、カミーユとジュドーはモビルスーツデッキへと向かった。
そして、被弾したリ・ガズィを見つめ、カミーユが溜め息を吐く。
「機体の性能差がありすぎる…。これじゃシャアに…ネオ・ジオンに勝てない」
「そうだよね…」
ジュドーも頷く。
「俺、月に行ってくる」
「カミーユ?」
「例のMSを受領しに行く」
「例のって…昔、アムロさんが基礎設計したνガンダム?でも、まだ完成してないんでしょう?」
「殆ど出来てる。あとは外装と調整だけだ」
アムロが連邦に拘束される前、シャアに対抗する為に設計したMS。
ブライトが預かっていた図面をカミーユが見つけ、どうにか予算を融通して貰うようブライトから上層部に掛け合ってもらい、開発に漕ぎ着けた。
まだロールアウトして日にちが経っておらず、完成はしていないが、形にはなっている。
後は外装とサイコミュの調整だけだ。
「クワトロ大尉とアムロさんと対等に戦う為にはνガンダムじゃないとダメだ」
「カミーユ…」
「それからZガンダムもアナハイムから受領出来るはずだ。ジュドーはそれに乗れ、リ・ガズィじゃお前の力を十分活かしきれない」
二人は月のフォンブラウン市にあるアナハイムエレクトロニクス社に赴き、まだ完全には完成していないνガンダムとZガンダムをやや強引に受領した。
◇◇◇
数日後、ラー・カイラムは、戦闘に巻き込まれたシャトルの乗客であり、連邦の高官であるアデナウアー・パラヤを送り届ける為、コロニー“ロンデニオン”に入港した。
「連邦の高官がなんでまた、わざわざ地球からロンデニオンに?」
ラー・カイラムを降りるアデナウアー・パラヤをカミーユがデッキのキャットウォークから見下ろす。
「5thルナ落とされて、ビビって逃げてきたんじゃないの?」
「そうかもしれないけど…」
「まぁ良いじゃん。俺たちにも休暇が貰えたし。カミーユはこれからハサウェイとクエス連れてドライブに行くんでしょ」
「まぁな。って言うかお前も来いよ。俺一人に子守りさせる気か?」
「えー、面倒臭い」
「そんな事言うなよ」
「しょうがないなぁ」
そう言いながら、私服に着替えた二人はハサウェイとクエスを連れてロンデニオンへと降り立った。
そして同じ頃、シャアとアムロもまた、連邦の高官達と秘密裏に交渉をする為、ロンデニオンを訪れていた。
「大佐、連邦の高官が揃ったようです」
「そうか」
ロンデニオンでも屈指のホテルの一室で、シャアはナナイの報告を受けると、手に持っていたティーカップをテーブルに置く。
「ホルスト、準備は整っているか?」
「勿論です」
「では、ホルストとナナイは先に行っていてくれ、私も直ぐに行く」
「はい」
ホルストとナナイが部屋を出て行くと、シャアは徐ろに立ち上がり、隣に立つアムロの手を引く。
「アムロ…」
「大佐?」
「こちらに…」
シャアはアムロを引き寄せて、自身の座るソファの隣に座らせる。
「アムロ…少し良いか?」
そう言うと、シャアは隣に座るアムロの胸に自身の額をつけて目を閉じる。
シャアから伝わる決意と覚悟、そして…迷いと焦燥。それを、アムロはシャアの頭を抱き締める事で受け止める。
「シャア…俺も一緒に背負いますから…」
それは、“今”のアムロにとっての本心。
シャアの追い求める理想には勿論、賛同している。
しかし、その方法がどれほど非人道的かも理解していた。
ネオ・ジオンの、シャアの突き進む道が、かなりの強硬手段であり、それが優しく、純粋な彼の心をどんなに蝕んでいるかも分かっているが、“今の”自分はマスターであるシャアの決めた道を“共に歩む”事しか出来ない。
それが、“今の”アムロにシャアが求めている事だから。
シャアの真っ赤な総帥服と、自身が身に纏うネオ・ジオンの黒い軍服を見つめ、アムロは少し悲しげに顔を歪める。
『ネオ・ジオンと言う鳥籠の中で、俺たちは互いに縋り合いながら、破滅の道を歩んでいくのか…』
作品名:鳥籠の番(つがい) 6 作家名:koyuho