甘やかしたがり
前回無理やり泊まりに来た時、やっぱり無理やりおいていったジャージを出してきてあげると、ちょっと機嫌は回復したようだった。濡れた服を洗濯機に突っ込んで戻れば、勝手知ったるなんとやらで、1組しかない布団を我が物顔で敷いている。
「帝人君」
手招きをする顔が真剣で、あまりに真剣だからもう一度笑った。そうしたら再び憮然とした顔になる臨也さんが面白くて、仕方がないから勢いをつけて抱きついてやった。
わ、という声と一緒に、布団に倒れ込む。笑い続ける僕を、逃がさないとでも言うように抱きしめて、布団をかぶった臨也さんが、耳元で大きなため息をついた。
「ねえ、何で?」
まださっきのを引きずっているのか、こういう子供っぽいところは結構好きかも知れないなと思った。
「臨也さん、僕には正直じゃないですか」
「・・・そうかな」
「そうですよ」
「君が、甘やかすからじゃないの」
「なんで甘やかすと思います?」
「分かるわけないでしょ、なんで?」
さっきからなんでばっかりだなあと思って、布団をかぶせられたせいで薄暗い視界の中、臨也さんと目を合わせた。
この、懇願するような目が。
気に入っていると言ったら、彼はどんな反応をするのか、少しだけ見たいと思った。
「甘やかしてほしそうにするからですよ」
目を見開く23歳児の顔を抱き込んで、その額にキスをしてやる。
いつも人のデコを「広くてキスしやすいよねー」なんて言う仕返しに、と思っていたのだけれど、あっけにとられた顔をした後臨也さんはいつも通りの曖昧な笑顔を無理やり作って、君ってホントに予想外だよね、とか言う。
そのまま、唇に重ねるだけのキスを落とされた。
「・・・なんですか」
「キスしてほしそうだったから」
「僕がですか?」
息苦しい布団の中で、小さな二人だけの世界。僕の言葉に、臨也さんはくしゃりと笑った。
「ううん、俺が、したかったから」
最初からそう言えば良いのに、と思っていると、もう一度唇が降ってきた。
雨はまだやまない。
当分やまなくてもいいかな、と、思ったけど臨也さんが調子に乗りそうだったから、言わないことにした。