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LIMELIGHT ――白光に眩む4

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LIMELIGHT――白光に眩む 4


□■□12th Bright□■□

 けたたましい警報に、スタッフたちは泡を食う。
 ダ・ヴィンチも例に漏れず、驚きをその面に浮かべている。
「まずい……。ソロモンにカルデアの座標を捉えられた!」
 ダ・ヴィンチの声に騒然となる管制室。
 失策だ、とダ・ヴィンチは臍を噛んだが、ぼやぼやしているわけにはいかない。
「みんな、私の工房へ! ここにいては危険だ」
 管制室のスタッフたちは、青くなりながらも動かない。
「藤丸くんを放っては行けません」
「管制室の放棄は、レイシフトの放棄です。彼を帰還させることができなくなります」
「マシュの想いを無駄にはできません」
「だけど……、」
 ここは離れられない、と口々にこぼすスタッフたちだが、その頬も唇も震えている。明らかにやせ我慢だとわかる。けれども、誰一人席を立つ者はいなかった。
「仕方がないね……。では、何がなんでも、ここを死守するぞ! 館内にアナウンスを! 至急、カルデア所員、全員管制室に集合だ」
 ダ・ヴィンチの号令にスタッフたちは大きく頷いた。

 突然の警報に驚いたものの、食堂の片づけをしていた士郎は、いまだテーブルを拭いていた。緊急招集のアナウンスを聞き、ようやく何かがあったのだ、と廊下へ顔を出す。
 小走りでカルデアの所員たちが管制室の方へと向かっている。
「何してるんだ、早く行くぞ」
 通りがかった所員が士郎に気づき、促してくる。
「え? でも、まだ、俺、ここ片づけて――」
「それどころじゃないよ」
「のんびりするな」
 また別の所員に肩を叩かれ、腕を引かれ、つられて駆けるものの、士郎の疑問は拭えない。
「何が起こったんだ?」
「敵にカルデアの座標を捉えられたらしいんだ。全所員、管制室に避難だって」
「避難?」
「ほら、君も急いで!」
 それは、絶体絶命ではないのか、と廊下を駆けながら受けた説明に目を剥く。
 敵に居場所を突き止められたということは、集中砲火も免れない。
 この施設はもつのだろうかと、冷たい汗が士郎の背を伝った。



***

 士郎たちはカルデアの管制室に到着した最後の一団だったようだ。あの時、所員に声をかけられなければ、いまだに士郎は食堂の清掃をしていたかもしれない。
「みんな、安心したまえ。この天才に不可能はないからね。魔神柱ごとき、防いで見せるさ!」
 カルデア全所員を迎えたダ・ヴィンチは、胸を張って宣言する。
 どうにか魔神柱に攻め込まれる前に、カルデアの全所員が管制室に避難を完了し、立香の戦いのサポートとともに、この管制室をダ・ヴィンチが守る算段のようだ。
 先ほどの大口はどこへ行ったのか、と士郎がつっこみたくなるくらい、扉の前で待ち構えるように立つダ・ヴィンチに、いつもの飄々とした感じは窺えない。
「バリケードでも作るのか?」
 士郎の問いかけに振り向いたダ・ヴィンチは、
「そんなもの、悪魔と変わらない化け物には通用しないさ」
 こめかみを伝った冷や汗を隠しはしないが、それでも笑みを崩さない。
「そっか」
 短く答え、士郎は頷く。
「俺にできることは?」
「ありがたいけれど、魔術の使えない君には荷が勝ちすぎる。おとなしく下がっていてくれたまえ」
「…………」
「気を悪くしないでくれよ? 厭味でもなんでもないんだ。君に何かあれば、エミヤに顔向けができないからね」
「なんで、エミヤが……」
「頼まれているんだよ、君のことを。無茶をさせないでくれ、とね」
「そんなこと……」
「君は、守られていればいいんだよ」
 ダ・ヴィンチは、聖母のような笑みを崩さず、管制室の扉に向き直った。
「そこから来るってわかってるのか?」
「そうだよ」
「なんでだ? 罠でも張ったか?」
「ここに、穴があるからさ」
「穴?」
 にこり、とダ・ヴィンチは士郎を振り返る。
「私は万能だけれど、及ばないこともあるってわけさ」
 ようするに、ダ・ヴィンチの防御は完璧ではない、ということだ。
「……強がってる場合じゃないと思うけど?」
「もー。うるさいなー。君は黙って後ろに下がっていたまえ」
 ダ・ヴィンチが士郎に向けて手を払うが、士郎は引き下がらない。
「化け物には、魔術ってことなんだな?」
「そうだよ」
 だから、下がっていろとダ・ヴィンチは言う。
「そうか……。なら、どこまで通用するかはわからないけど……」
「士郎くん?」
 管制室の扉の前へと士郎は進み出た。
「何をする気だ? 君にできることはないよ」
 士郎はじっと扉を見つめたままだ。
「士郎くん、下がりなさい!」
 穏やかな笑みを引っ込め、強い口調で窘めたダ・ヴィンチには答えず、士郎は深呼吸をして気を静める。
「強化の魔術で、バリケードの代わりにする」
 静かな返答に、ダ・ヴィンチは目を剥いた。
「何を言っているんだ! 君に魔術は使えないだろッ!」
「まだ、試していない」
「試すも試さないも! 君の魔術回路はいまだ完治には程遠いんだぞ!」
 ダ・ヴィンチの忠告も右から左で、士郎は扉に手を触れ、瞼を下ろした。
「やめるんだ!」
 士郎の右肩を掴んで、ダ・ヴィンチが強く言うのもかまわず、自身の内側へと意識を飛ばす。
 強化の魔術は士郎がずっと続けてきた、養父に教わった魔術。不器用で三流の魔術師であったエミヤシロウが鍛錬をし続けた魔術だ。魔術回路が万全ではなくても、成功する可能性が一番高い。
「士郎くん!」
 すでにダ・ヴィンチの声も聞こえない。内へ内へと意識は流れ、やがて“炉心”へと辿り着いていく。
(“ここ”だ)
 自身の根源。
 力の源。
 この力を魔術回路へ乗せ、運び出す。
(簡単な作業だ。こんなこと、やり尽くしただろ?)
 自分自身に言い聞かせる。
 だが、オンボロの回路なだけに、ゆっくりと運ばなければ脱線してしまう。
(焦るな……)
 決して逸るな、と己に釘を刺す。
 やがて、自身のなけなしの魔力を魔術回路に乗せる目途が立ち、僅かに瞼を上げる。
 半眼のまま、“撃鉄”を上げた。
「同調(トレース)、開始(オン)」
「士郎くん! やめるんだ!」
 ダ・ヴィンチの声は届かない。士郎の意識は扉の強化へのみ注がれている。
「基本骨子……、解明。構成材質、解明。基本骨子……、変更。構成材質……、補強」
 士郎の腕に淡い緑光の筋が走る。
「士郎くん……」
 ダ・ヴィンチは何も言えず、呆然と見ていた。
 こんなことは、させるべきではない。
 わかっているというのに、何を置いても士郎を止めなければならないというのに、ダ・ヴィンチは二の足を踏んでいる。
 それはきっと、期待しているからだ。なんとかしてくれるかもしれないと、ただの人間である士郎にサーヴァントであるダ・ヴィンチが縋りたいからだ。
 ダ・ヴィンチとて元は人である。天才だ、万能だ、と言ってはみても、人としての弱さを忘れたわけではない。
 士郎の魔術回路は断絶が激しくボロボロだった。ロマニ・アーキマンとともにダ・ヴィンチは魔術の使用は難しいと判断を下した。だというのに、今、強化の魔術を施す士郎に期待をしてしまう。
 “人というものは……”
 ダ・ヴィンチは、切なく思う。