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LIMELIGHT ――白光に眩む4

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 脆く、儚く、そして強い。
 士郎の“強さ”に望みをかけてしまう。
 この英霊の元となった、ただの人間に……。
「全行程(トレース)、完了(オフ)」
 士郎の手元を中心として、扉と壁に緑光が波紋のように広がっていく。
「士郎くん……、君は、なんて無茶を……」
 頑強に止めなかったダ・ヴィンチに士郎を咎める資格はない。が、言わずにはいられなかった。
 あんな姿でポッドにおさめられていた理由が今ならわかる気がする。
「君はずっと、こんな無茶を……」
 英霊となるまで、こういう生き方を続けていたのか、とダ・ヴィンチは苦い思いを噛みしめた。
「……はっ…………っ……」
 かくん、と膝から崩れ落ちた士郎を、後ろで見ていた所員が慌てて支える。
「悪い……」
「あなたは、魔術は使えないんじゃなかったんですか?」
 支えてくれた所員に訊かれ、士郎は苦笑いを向ける。
「強化をしただけだ。そのくらいならできるかもって思ったら、できたよ」
 士郎の身体の状態を知る医療スタッフたちは言葉もなく心配そうに士郎を見つめている。それには、うまく答えられず、士郎は、曖昧な笑みを浮かべただけだ。
「無茶をするねぇ、まったく……」
 ダ・ヴィンチが呆れながら歩み寄り、士郎の腕を右、左と交互に手に取る。
「回路に問題はないようだ。痛むところはあるかい?」
「いや」
「では、座り込んでいるのは、たんに魔力を使ったから、だね?」
「違うと言いたいけど、当たりだ」
 士郎が答えると、ダ・ヴィンチは少し困ったような笑みを見せた。
「俺の魔力じゃ、この程度だ」
「そんなに自分を卑下するものじゃないよ。ありがとう士郎くん。これで、少しでも魔神柱を防ぐことができる」
「焼け石に水、だろうけどな?」
 小さな笑みを浮かべれば、ダ・ヴィンチは、にこり、と笑う。
「それでも助かるよ。少しでも時間が稼げる。その間に、私の方でも少しは防御を固められるからね」
 すぐにダ・ヴィンチは、さらなる防御を整える算段にかかった。



 どのくらいの時間が経過したかは定かではない。カルデアの所員たちは思い思いに椅子や床に座り込んでいた。
 言葉を発する者もなく、管制室にはずっと重苦しい空気が満ちている。
 頻繁に地揺れが起こっているのは、魔神柱の攻撃だと誰にでも容易に知れたが、敢えて口にする者はいなかった。
「正直に言おう。あと幾ばくもなく、扉は砕けるよ」
 管制室の空気が張り詰める。皆、固唾を飲んでダ・ヴィンチを見ている。
「そうだな」
 扉の側に椅子を置き、そこに陣取ったダ・ヴィンチが感じている危機を士郎も感じていた。
 扉を隔てた向こうには魔神柱が迫っている。
 もう、すぐそこに……。
「士郎くん。君は下がっていたまえ。ここからは、サーヴァントの仕事さ」
 ウインクを飛ばして、ダ・ヴィンチは椅子から立ち上がった。
「あんただけじゃ、いくらサーヴァントだからって、防げないだろ?」
 士郎はその背に問う。
「馬鹿にしないでほしいな。私は万能だよ?」
「それでも、応援はあった方がいいだろ?」
「チアリーディングでもしてくれるのかい?」
「あいにく、チアはやったことがないよ」
 軽口を叩き、呼吸を整え、士郎は立ち上がった。
「手を貸す」
「…………調子に乗るな。君に前の強化以上のことができるとは思えない」
「……とっておきを、見せるよ」
「それも、一宿一飯の恩ってやつなのかい?」
「そうとも言うかな」
 士郎は笑う。このカルデアに来てから感じたことのない爽やかな気持ちで。
 吹っ切れたとでも言えばいいのか、今は目の前の困難しか見えていないからか、余計な考えが一切出てこない分、清々しいくらいに士郎の心は静かだ。
「士郎くん……。嫌だなあ。今になってそんな顔で笑わないでくれ」
「え? そんな顔?」
「まったく、天然なのか、君は……」
「天然って……、バカにしてんのか?」
 ムッとした士郎に、ダ・ヴィンチはますます呆れた顔でため息をつく。
「天然なんだね、本当に……」
「やっぱ、バカにしてるな……」
 バカにされたと本気で思っている士郎に、ダ・ヴィンチも頬を膨らませた。
「もう……。そんな覚悟を決めた顔しないでくれと言っているんだよ。二度と会えなくなるんじゃないかって不安に思うじゃないか!」
「え? あ、ごめん」
「謝らなくていいよ! まったく!」
 ぷりぷりとダ・ヴィンチは怒っている。
「あー……、手伝うからさ、そのー、怒らないでくれ」
 眉を下げた士郎に、
「まったく、君は……、君たちは、食えない男だよ」
 ここにはいないもう一人の厨房係にもため息をこぼし、ダ・ヴィンチは苦笑した。



□■□Interlude 未:UBW□■□

 ずっと考えていたんだ。
 強化の魔術に成功してから、魔神柱なんていう化け物の攻撃から逃れる方法を……。
 できるなんて確証はない。
 賭けみたいなもので、大博打を打つようなもので……。
(…………だけど、やる価値はある。何もしないよりはマシだ)
 この管制室を固有結界に持ち込めば、どうにかなるかもしれない。
 最初の聖杯戦争以来、無限の剣製はできないけど……、今、やらなければならない。
 最悪、アイアスで防ぐって手もあるけど……。
 固有結界どころか、アイアスすら使えるかどうか、今はわからない。
 だけど、ここの人たちは、傷を診てくれて、俺を看病してくれて、ここにいることを許してくれた。
 守らなければダメだ。ここで死んでいい人なんか一人もいない。
 右腕を突き出し、左手を添える。
 ふー、と腹の底にある空気を吐き出す。
 すぅ、と胸に新しい空気を入れて、ピタリと止めた。
 肩幅より少し大きめに足を開き、腰を落とし、丹田に力を集める。自護体に近い格好で身構えた。
 体勢が整ったところで、魔力を通す。
 一度通すことができたんだから、必ずできるはずだ。
「っ、くっ!」
 思い通りに魔力を通すことには成功した。だけど、さっきよりも格段に魔力の量を増やした。
 だから、魔力が通るってだけで、身体がびりびりと痛む。
 思っていたより魔力の回復が早い。
 受信機を付けていないのに、魔力が流れてきているのがわかる。このカルデアの魔力が俺にも力を与えてくれる。
「士郎くん……」
 ダ・ヴィンチが驚いた顔でこっちを見ているのがわかる。
「し、士郎さん!」
「衛宮くん!」
「ダメだ! 君の身体は、魔術の負荷には耐えられない!」
「やっと治ってきたのに!」
「そうだよ! 今、無茶をしたら、二度と身体が動かなくなるかもしれないぞ!」
 背後でカルデアの人たちが口々に俺を心配してくれる。
(それ、でも……!)
 ここで、彼らを死なせるわけにはいかない。未来を取り戻すために、藤丸とともに闘ってきた彼らが、こんなところで死んでいいわけがない。
「か、体は……、っ……」
 少しずつ息を吐き出した。声が震える。びり、と電気が流れたように腕が痺れる。
 ――そう。この体は、硬い剣で出来ている。
(ああ、だから、耐えられる……)
 衛宮士郎は、最後までユメを張り続けられた。俺とアイツが……、エミヤシロウが、ずっと、追い続けた理想(ユメ)を。