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LIMELIGHT ――白光に眩む4

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「なんだってッ? 君は協会の一員だったのかい? もぐりの魔術師だったんじゃ?」
 ダ・ヴィンチが目を丸くした。
「え……? 調べたんだろ? 極東支部のワグナーなら、詳しい話を知って――」
「極東支部? ワグナー? ちょ、ちょ、ちょっと、待った。君はなんの話をしているんだい?」
「だ、だから、俺の処遇の……」
 驚いているダ・ヴィンチに士郎も、ぽかん、とする。
「あの……?」
「極東支部って、なんだい? 封印指定? 君が? いったいどうして? 魔術もロクに使えないというのに、君のいったい何を封印するって言うんだい?」
「…………」
 言葉もなくダ・ヴィンチを見つめてしまう。
「魔術協会に極東支部なんてものはないよ。そもそも支部というもの自体がないんだ。協会はロンドンの時計塔一極集中。その他は、支部というより一グループという小規模なものだ。ただ、このカルデアは支部と呼べるくらいの施設ではあるね、特殊と言えば特殊ではある組織だ。けれど、支部という扱いではないんだよ」
「…………支部が……ない……?」
「ふーむ……。どうやら、君のいた世界とここは、別物である可能性が出てきたね」
「別……物……」
 呆然とする士郎に気づいたのか、ダ・ヴィンチは慌てて取り繕う。
「ま、まあ、とにかく、君はここにいる。何も心配することなんかないさ。協会が何か言ってこようものなら、全力で君を守るよ!」
「……俺には、そんな資格、」
「何を言っているんだい。君は私とともに魔神柱から管制室を守ったじゃないか! カルデアの恩人でもあるんだよ! 君の悪い癖のようだけど、そんなに自分を卑下してはだめだよ。案外ネガティブなんだねぇ、士郎くんは」
「…………」
 士郎が何も言えずにいると、ダ・ヴィンチは苦笑を浮かべた。
「ついでだから、一つ君に伝えておこう。この世界の衛宮士郎という人物は、すでに亡くなっている」
「え……?」
「数年前、紛争に巻き込まれたそうでね」
「そ……っか…………」
「だから、私は訊いたんだよ、君は誰だい、と」
「あ、ああ、うん……」
「君を疎んでとか、出ていけとか、君を疑っているとか、そういうつもりはなかったんだ。でも、君には余計な心痛を与えてしまったね?」
「いや……」
「大丈夫かい? 少し顔色が悪いけど?」
「あ、ああ、平気だ」
 心配してくれるダ・ヴィンチの顔を見ることができず、机の上に無造作に置かれた紙の束を見るとはなしに見ていた。
 何も言葉が浮かばない。茫然自失、という言葉通りを体現している。
「君の事情を、話してくれないかな? 我々は君の力になりたいと思っているんだ。どうだろう? 差し障りのないことだけでいいんだけれど……」
 ダ・ヴィンチは珍しく弱気な感じで士郎の顔を窺ってくる。
「何を……訊きたいんだ……?」
「いや、無理にとは言わないよ。君が話せることだけでいいんだ」
 話せること。
 今となっては、何を隠すこともない。
「十年……いや、もう十二年前になるのか。聖杯戦争で聖杯を破壊した」
「え? 破壊? ……やはり、この世界とは違うんだね」
「違う?」
「ああ、そうだ。十二年前、二〇〇四年、日本の地方都市で起こった聖杯戦争は、セイバーのマスターの勝利という表向きの結果が残っている」
「表向き?」
「そう。本当の勝者は、キャスターのマスターだっだよ」
 それからロマニ・アーキマンの十余年に渡る孤独な戦いが始まったのだ、とダ・ヴィンチは説明した。
 士郎の話を訊く代わりに、ダ・ヴィンチはこのカルデアのことやロマニ・アーキマンのことを包み隠さず話してくる。
 一方的なのは、フェアじゃないからね、と少し寂しそうに笑ったダ・ヴィンチは、彼の喪失を少し引きずっているように見えた。天才だなんだと胸を張っていても、やはり人並みの感情がその胸に逆巻いているのだと知る。
「俺が聖杯戦争に参加したのは、二回……」
 初めは十七の高校生の時、そして二度目は、過去へと時空を超えて、聖杯の破壊を任務として赴いた時。
 ダ・ヴィンチは静かに聞いていた。口を挟むことなく、茶化すこともなく。
「そうか……。君もずいぶんな冒険を続けていたんだね……。エミヤとは、その時に?」
「ああ。二回……」
 その後に一度、地下洞穴でエミヤと斬り合ったが、そのことは伏せておいた。
「未来に戻ると封印指定で、あのポッドで、遠くに運ばれていたと、思う」
「どこへ、ということは知らなかったのかい」
「罪人に、これからどこそこへ行くんだぞ、なんて教えるわけないだろ……?」
 士郎が小さく笑えば、
「そうだね」
 ダ・ヴィンチも微笑を浮かべた。
「俺がここに居る意味も、居ていいという資格もないから、俺はここを出て――」
「士郎くん」
 ダ・ヴィンチは士郎の言葉を遮って居住まいを正し、真っ直ぐな瞳で見つめてくる。
「ここにいてくれるかい?」
「え?」
「ほら、厨房は大変なことになっているし、君の手を借りたいんだ」
「…………でも、俺は、」
「同情なんてものではないよ、勘違いしないでくれ。君の能力を買っているんだ。保全関係に明るく、魔術にも多少の関わりがある。魔術が再び使えるかどうかは未知数だけれど、君の身体が完治しないと言い切れるものでもないからね」
「……そうかも、しれないけど、」
「なんだ、なんだ、深刻な顔なんかして。君はここで、存分に労働に勤しんでくれればいいんだよ!」
「労働?」
「ふふふ。このカルデアは、再び外界と繋がった。けれど、ここが絶海の地、ということには変わりがない。そして、所員たちは、次から次へと休暇を申し出てくる。まあ、あんな思いをしたんだ、無理もない話だけどね。したがって、人手不足が解消されたわけではないのさ。ということで、君にはできることからさっさとはじめてもらいたい」
「はあ?」
「だからといって、無理は禁物だからね! とりあえず、倉庫整理から始めてくれ」
「え? あ、は、はい」
 頷くより他なく、士郎はダ・ヴィンチに労働を命じられた。


LIMELIGHT――白光に眩む 4  了(2018/12/15)