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LIMELIGHT ――白光に眩む4

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(なに考えてるんだ、俺……)
 アーチャーは、純粋に俺の身体を治そうとしてくれているっていうのに……。
 申し訳なさに唇を噛みしめる。
 自分自身が、わからなくなった。



■□■14th Bright■□■

 カルデアは平穏を取り戻した。
 世界は一年間の同時睡眠に陥った、とかいう理由で止まった時間を続きから歩み始めている。
 そして、カルデアは………、
「ええい、順番だ! 行儀よく並べ!」
 増えに増えたサーヴァントで、食堂が大賑わいだった。
「エミヤー、こっち、注文取ったよー」
 立香が紙をペラペラと振って、カウンターまで駆けてくる。
「マスター、そんなウエイターのようなことは、あの狗にでもやらせておけ」
「誰が狗だ!」
 クー・フーリンが犬の如く唸って噛みついてくるが、エミヤは相手をしているどころではない。食事時はこのところ毎回こうだ。
 カルデアの食堂は、すでにキャパオーバー気味で、物資は円滑に支給されるようにはなったのだが、その分、消費量も格段に増えている。
「いい加減、何かしらのルールが必要か……」
 数体のサーヴァントの手伝いとエミヤだけでこの食堂を切り盛りするのは難しくなりつつある。
「サーヴァントには食事をしなければならない、という縛りはない。何せ魔力でその身を維持できるのだ。だというのに、なぜ皆、飯を食う……」
 額を押さえ、頭痛が痛い、とエミヤは深いため息をこぼす。
「おやおや、賑わっているねぇ」
 にこやかに現れたのは、天才ダ・ヴィンチ。ロマニ・アーキマンがいない今、サーヴァントでありながら、このカルデアの所長代理を務めている。
「ダ・ヴィンチ女史、笑い事ではないぞ。このままでは、次の支援物資が来るまでに食材を食い潰しかねない。サーヴァントには一日一食を提案したいのだが、どうだ?」
 調理の手を休めずに訊けば、
「私はかまわないよ。それで彼らの気が済むならね」
「そうか、それ、な……ら……」
 食堂に集う者たちの面構えを見て、エミヤは言葉を切り、さらに大きなため息をこぼす。
 どう見てもそこに居並ぶ面々は、聞き分けの良さそうな顔ではない。
「マスター、君からどうにか、」
 最後の頼みとばかりに、立香に訊こうとすれば、顔の前で手をクロスして、無理、と示している。
「ごめん、エミヤ。みんなの食欲は、おれには止められない……」
「だろうな……」
 現状維持か、とエミヤは調理を進めつつ、また、ため息をこぼす。
(せめて、手伝ってくれる者がいれば……)
 いちいちあれをしろ、これをしろ、と指図の要らない者となると、エミヤの脳裡に浮かぶのは一人しかいない。
(だが、まだ右腕が……)
 いまだ動かない様子の右腕で、この戦場のような厨房に立たせるのは酷だ。
(アレが完治するまで、凌ぐしかないか……)
 エミヤは士郎の復帰を心待ちにすることにした。
 ただ、ついこの間までのように傍にいられる時間が極端に少なくなっている。寄り添えるのは夜だけだ。今すぐ人手が欲しいという現状に、なおさら士郎の治療は必要だ。だというのに、魔術回路を添わすことのできる時間が少ない。これでは治療もはかどらないだろう。
(直接供給の要領でいけば、もう少し回復が見込めるのだろうが……)
 士郎が嫌がる以上、無理強いはできない。コトがコトだけに、無理を通せば強姦と変わらなくなる。
(私が記憶を持っていても、だめなのか……)
 少しエミヤは気落ちしてしまった。
 アーチャーとしての記憶を持っていると告げれば、もっと何かしらの歩み寄りなり、親近感なりが士郎から表れてくるものだと思っていたが、そういうことはまったく感じられない。むしろ、少し前よりも身構えられているようにも思える。
(これならば、本当に少し前の方が……)
 六つ目の特異点を修復したあたりの頃の方が、士郎とは今より親密だったように思う。
「は……」
 忙しさと、何やらモヤモヤとする感覚で、ため息ばかりがこぼれていった。



***

 右手を握ったり開いたり、肘を曲げてみたり。
 そろそろ物も持てそうだ。厨房はキリキリ舞いだと聞く。
「手伝わないと……」
 だが、そうすれば、もう右腕は完治したとみなされて、エミヤが触れてはこなくなる。
「…………っ」
 だからなんだというのだろう。
 エミヤが触れないということが、士郎にとってマイナスとなるわけでもない。けれど……。
(触れて、ほしいのか……俺は……)
 自分がおかしなことを考えていると気づいている。
(アイツは、ただの理想。それ以上でも以下でもない。アーチャーの記憶を持っていたからって、何が変わるものでもない。だけど……)
 “忘れるわけがない”と、士郎が何よりも欲しい言葉をエミヤはくれた。そのことが士郎の心を大きく揺さぶったことに間違いはない。
 幾重にも鎧っていたモノがボロボロと崩れていきそうになる。いや、もうすでに崩れているのかもしれない。何しろ、エミヤが厨房から戻ってくるのを心待ちにしている。
(だって……、だってさ、アイツ……)
 温かかった。熱いくらいの温もりが、今さら忘れろと言われて、忘れられるものではない。知ってしまったことを知らないことになどできない。言い訳がましいとわかっている。けれど、
「寒かったんだ……」
 凍える士郎を温めてくれたのはエミヤだ。
 身体を添わせ、魔術回路を添わせ、全身の熱で包み、このカルデアでの居場所となってくれていた。
 今も、ここにいればいいと言ってくれる。戻る場所がないのなら、ここで甘えていればいいと。
「でも……」
 事は、そうすんなりとは運ばない。
 エミヤはここにいればいいと言うが、それは、個人的な意見だ。このカルデアの意志ではない。
 目的の扉の前に立ち、呼吸を整えてノックをしようと左手を上げると、シュ、と扉が開いた。唖然としていると、
「やあ、来たね!」
 にこやかな笑みは相も変わらず美しい。だが、士郎には少々寒気を覚えさせる笑顔だ。
「あ、ああ、うん……」
 ダ・ヴィンチに曖昧に答えて、勧められた椅子に座った。
「この間は悪かったね。言葉足らずもいいところだった。まさか、君が出ていこうとしているなんて思ってもいなくて……。配慮が足りなかったと反省しているよ」
「いや……」
 居心地悪く謝罪を受け取る。
「腕はどうだい?」
「……まあ、なんとなく」
「そう。それはよかった。エミヤも君の復帰を心待ちにしているよ」
「……いや、あの、俺は……、」
「どうかしたのかい?」
「俺は……、ここにいては……」
「ん?」
 小首を傾げるダ・ヴィンチに、どう話せばいいかと士郎は迷う。どうすれば、ここにいていいという答えが得られるのかと考えかけて、拳を握りしめる。
(ダメだ……)
 そんなことはできない。そんな自分勝手な言い分では、ますますここにいてもいいなどという言葉は貰えない。
 こうなってはもう、何かを隠すことなど不可能だ。すべて曝け出してしまうべきだと、覚悟を決めた。
「……俺は…………、魔術協会から、封印指定を、受けているから…………。ここにいては、あんたたちに迷惑がかかる」