梅嶺 七 ────金陵─────
、、、下がっていよ。」
背中を向けた靖王が言った。
太監は、ただならぬ靖王の様子を心配しつつも、その場から離れ、城壁の上から離れていく。
━━━私は、残されたわけではない。
後を、託されたのだ。
祁王が成せなかった事を、、、小殊が出来なかった事を、、、。
全てしてやろう、、、。
これで林家の直系の者は、絶えてしまったのだ。
絶えてしまった林家を、誰かが、、弔えるように、、、。━━━
「私が、、、小殊、、。」
━━━忘れぬ。
私だけでは無い。
小殊を知る者は皆、偲ぶだろう。━━━
止めどなく涙が溢れる。
一人、靖王が泣く場所すら、この広い皇宮には無いだろう。
この場で泣いて、後は忘れることを、林殊は望んでいるのだろう。
━━━人を泣き虫呼ばわりする割に、小殊だって泣いてたのだ。
それともこの情を、嬉しく思ってくれるだろうか、、。━━━
父王簫選はこうして、友を偲んで泣いた事はあったのだろうか。
林殊が逝ったと伝えたら、簫選は涙するのだろうか。
臣下に欺かれ、悔しさに怒った事はあったが、靖王が知る限りでは無かった。
友を思い涙できる靖王は、これ迄の歴代の為政者を見ても、稀有であるだろう。
梅長蘇の言う通り、靖王は、情深(なさけぶか)い良い皇帝になるだろう。
流れる涙は止めどない。
今日の沈追との約束は、反故になろう。
靖王は、立っていられなくなり、城壁に手をつく。
殺していた声は嗚咽となり、もう止められはしない。
梅長蘇の衣は、まるで靖王を、慰めるように包んでいる。
━━━
小殊よ、、安らかに、、、
──────糸冬──────
作品名:梅嶺 七 ────金陵───── 作家名:古槍ノ標