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鳥籠の番(つがい) 7

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流石にカミーユ達が居る場でシャアを逃してくれてありがとうとは言えないが、心の中で感謝する。
そんなアムロに、クエスが近寄り尋ねる。
「お礼なんか良いわ。それより、ねぇ、大丈夫?」
「え?怪我なら大した事は…」
「『身体』じゃなくて、『心』。あの人と離れて不安なんでしょう?」
「…っ!」
シャアと離れて、精神的に不安定になっている自覚はあった。けれど、ニュータイプであるカミーユやジュドーに悟られないように必死に心を閉ざし、平静を保っていた。
それを、この少女にあっさりと見破られて焦る。
「…参ったな…」
そう言いながら、屈んでクエスに視線を合わせる。
「ありがとう。大丈夫だよ」
「嘘よ、全然大丈夫じゃないでしょう?心の中が凄く波打ってる。本当は凄く辛いでしょう?」
「…そうだね…辛いけど…まだ我慢できる…」
そう答えるアムロの顔をカミーユが覗き込むと、薄っすらと額に汗が滲んでいるのが見えた。
「アムロさん…」
と、そこに、ハサウェイを追ってハロが床をピョンピョン跳ねながらやって来た。
そして、アムロの生体反応を感知すると、手錠を掛けたアムロの腕にピョンと飛び乗る。
《アムロ ゲンキカ!》
「うわぁっ」
突然、腕に飛び乗ってきた丸い物体に驚きながらも、アムロはどこか懐かしさを感じる。
「こいつ…何だ…何で俺の名前…」
《アムロ 、ノウハ ミダレテル ドウシタ?フラウ ハ ドコダ?》
「え?…フラウ…?」
その名前にズキリと頭が痛む。
「痛っ…」
《アムロ 、νガンダム ノ サイコミュデータ、アムロ ニ イワレタトオリ 、ハロ チャント モッテル。アムロ ツギ アッタラ ワタス メイレイ マモル》
そう言うと、ハロの口が大きく開き、中から記憶媒体を取り出してアムロへと差し出す。
「サイコミュデータ?…ν…ガンダム?」
徐々に激しくなる頭痛に顔を顰めながら、アムロはその記憶媒体を受け取る。
《ハロ メイレイ マモッタ!イイコ!》
ハロは開いた口を閉じると、アムロの腕から飛び降りて、今度はハサウェイの腕に飛び乗る。
アムロは手のひらにある記憶媒体を見つめて呟く。
「ν…ガンダム…?」
その瞬間、アムロの脳裏にνガンダムの図面と、それを見つめる自分の姿が思い浮かぶ。
「あ…そうだ…、シャアを止めるため…俺が…設計した……シャアを?…」
“何故シャアを?”と疑問に思う。
そしてその答えを考えようとした瞬間、アムロを、今度は強烈な頭痛が襲う。
「うっあああっっっ!!うううううう」
「アムロさん!?」
もがき苦しみ始めるアムロをカミーユが慌てて支える。
「ジュドー!ハサン先生に連絡を!」
「お、おう」
「アムロさん!」
「…カミ…ーユ…俺…シャアを…止めないと…」
「アムロさん?」
アムロは激痛に耐えながら、カミーユを見上げ、記憶媒体を握り締めて呟く。
その瞳は、カミーユの知る、かつての強い光を湛えていた。
「アムロさん、記憶が!?」
アムロは小さく頷き、何かの気配を探るように目を閉じる。
そして、ラー・カイラムのモビルスーツデッキに佇むνガンダムの姿を視る。
「νガンダム…完成…したのか…」
「アムロさん!…はい!まだサイコミュの調整は終わっていませんが、完成しました!」
カミーユがアムロの肩を掴みながら叫ぶと、アムロはカミーユの腕に必死にしがみつき、記憶媒体を手渡す。
「カミーユ…これ…俺の…バイオデータ…調整済み…νガンダムに…」

と、次の瞬間、更に激しい頭痛に襲われ、床に崩れ落ちてしまう。
「アムロさん!?」
「うっあああああああああっっ!」
激痛にのたうち回るアムロを、カミーユが呆然と見つめる。
「アムロさん!」
「お…れは…ああううう…」
頭を抱え込みがら、その激痛に耐えるアムロの瞳から涙が溢れ落ちる。
「シャ…ア…止め…ないと…アクシズ…が…」
「アクシズ?」
「地球…が…」
「地球…?」
必死にカミーユへと何かを伝えようとするが、激痛と、マインドコントロールの影響で上手く話す事が出来ない。
そして、次第にアムロの脳裏に暗示の言葉が蘇り、響き渡っていく。

《No.A-001 今、貴方の目の前に居るのが貴方のマスター 、シャア・アズナブルです》
《No.A-001 貴方のマスターは目の前のシャア・アズナブルただ一人。何があってもその命令に従い、尽くしなさい》

「マ…スター、シャア…・アズナブル…」
アムロがゆっくりと唇を動かし、暗示の言葉を繰り返す。
「シャ…ア…・アズナブル…俺の…マスター…」
「アムロさん!?」
再び瞳の輝きを失っていくアムロに、カミーユが焦って叫ぶ。
「何が…あっても…その…命令に…従い…尽くす……」
「何を言って…!しっかりして下さい!」
アムロの肩を揺さぶりながら必死に呼びかけるが、アムロの意識は何かに囚われたまま、呟き続ける。
「マスターの…傍に…ずっと…離れ…ない…あの人を…一人にしない…共に…罪を…背負う…約束…」
「共に罪をって…」
アムロの言葉にカミーユは顔を顰める。
次第にアムロが狂ったように涙を流し、シャアの名を叫び始める。
「大佐……シャア…シャア…!マスター…!」
「アムロさん!しっかりして下さい!アムロさん!」
「離せ!マスターの…元に戻らなければ…!シャア!シャア!シャア!」
ガタガタと身体を震わせながら、頭を振り乱して叫ぶアムロに、カミーユは恐怖すら覚える。
しかし、このままではアムロの精神が保たないと判断すると「すみません」と小さく呟き、手刀をアムロの首に繰り出し気絶させる。
「うっ」
うめき声を上げながら、ガクリと力の抜けたアムロの身体をカミーユはギュッと胸に抱き締める。
「アムロさん…」

辛そうに唇を噛み締めながら、アムロを抱き締めるカミーユの姿を、ジュドーはただ、黙って見ている事しか出来なかった。



翌朝、医務室のベッドで目覚めたアムロは、昨日の事を覚えていなかった。
そして、再び輝きの消えたアムロの瞳を見つめ、カミーユが悲しげに唇を噛み締める。

「アムロさん、頭痛の方はどう?大丈夫?」
心配気に問いかけるジュドーに、アムロはまだ少し朦朧とした様子で「大丈夫」だと頷く。
「そっか。良かった」
ホッと息を吐くジュドーに、カミーユも同じように肩を撫で下ろす。
「今日は様子見の為に営倉には行かず、このまま医務室に居るようにってハサン先生が言ってたよ」
「…分かった…」
「本当は手錠も外してあげたいんですけど…すみません」
謝るカミーユに、アムロが小さく微笑む。
「構わないよ…君が謝る事はない」
「はい…」
穏やかさを取り戻したアムロにホッとするが、再び記憶が封印されてしまった事に複雑な想いが込み上げる。
そして、アムロが如何に危険な状態なのかを思い知り、ギュッと拳を握り締める。
『次に記憶が戻った時…アムロさんは正気でいられるだろうか…昔の俺みたいに精神が壊れてしまうかもしれない…』
考え込むカミーユにジュドーが声を掛けようとしたところに、病室の扉をノックする音が響き渡る。
開かれた扉から入ってきたのはブライトだった。
「艦長?」
作品名:鳥籠の番(つがい) 7 作家名:koyuho