夏祭りのHAPPY
8月も終わりに近づいたある日、「ねぇねぇ!地球には"夏祭り"というものがあるんだろう?僕、すごく行ってみたい!!」ぷかぷかと湯船に浮かんでいた黄色いカワウソ、基、ホニャラランドの第1王子カルルスが両手を上げて叫んだ。
「いいね。そう言えば、今日隣町の商店街でお祭りがあるみたいだし………」龍馬先輩がぽんと手を叩いた。それにつづけて一六も「いいじゃん!行こう行こう!!」と手を挙げる。「いいですねー。お祭り。面白そうです。」部長である七緒先輩も賛同の声をあげたが「えー。やだ人多いし、屋台の食べ物とかってそこそこ高いんだよね………浴衣とか甚平着るのも面倒くさいし………」と、鏡太郎先輩だけが気だるそうに呟いた。「そ、そうですよね、外、結構暑いですし………」それに俺が頷く。少し狼狽えた様子に七緒先輩が気づかぬはずはなく、「太子くんはなんで頑なに夏祭りに反対するのですか?なんかやましいことでも?」「やっ、やましいことなんて………」
彼に問い詰められたため、俺はもごもごと口ごもった。隣町には自分の実家があり、俺には誰にも知られたくない秘密があるのだ。バレたらまずい………気づくな気づくな………と祈りにも似た念を送っていると、同級生である一六が声を上げた。
「あー!!分かったぁ!!太子、この後用事あるとか言ってたから一緒に行けねぇの拗ねてんだろ!!」
「そんな訳ないでしょう。」能天気な彼の声に少し安堵を覚えながら俺は小さくため息をついた。
すると「じゃあ、別に良くない?たいたいはどうせ行けないんでしょ?」と鏡太郎先輩の声がした。
「あれ?先輩反対してたのになぜ行く気満々なんですか??」
「りょーちんが一緒に夏祭り行ったら焼きそば買ってくれるって言うから。」
………こいつ、ものに釣られやがった………それにこの人は龍馬先輩には少し甘いことを忘れていた…………と俺が脳内で頭を抱えていると、「それに、カルの期待の目に逆らえなかった………」………動物にも甘かったか!!ならば………
「では、僕はそろそろ………」そう言って俺はそっと黒玉湯を出た。
逃げるのは嫌いだが、逃げるが勝ちという言葉もあるだろう。今回だけ、今回だけ………
「これが夏祭りかぁ!!楽しいね!!!!」
「カル、人多いんだからあまり動かないで。」頭上に乗ったカルルスを鏡太郎が注意する。
町一番の行事とあって、かなり人が多いため離れてしまっては合流は難しいだろう。
「ほら、鏡太郎。行くよー」彼の手を引く龍馬は楽しそうにわたあめを頬張った。
「二人ともー置いていきますよー。」七緒は先に行こうとする一六を引き止めながらこちらを振り返る。その手にはいつの間にか金魚の入ったビニール製の巾着がぶら下がっていた。
その前をはしゃぎ歩く一六はお面を被り、右手にチョコバナナ、左手に水ヨーヨーとかき氷を持っている。
それをぼんやりと見ている鏡太郎の手にもかじり掛けのりんご飴が握られていた。
「その、"わたあめ"と言うものは鏡太郎の頭のようだね。」カルルスが龍馬の手に握られているわたあめを見て呟いた。
「たしかにふわふわで白いから鏡太郎の頭みたいだね。」龍馬は楽しそうに笑う。しかし、鏡太郎は少しムッと頬を膨らました。「………カル、俺の頭食べないでよ!?」
「大丈夫大丈夫。さすがに食べないって。でも美味しそう!!」
「じゃあカルルスも食べる?」龍馬はわたあめを指先で摘み、カルルスの目の前に持ってきた。カルルスはそれを「あーん」と口を開け、咀嚼した。
「りょーちん。俺も食べたい。」鏡太郎もカルルスと同じように口を開ける。
「もー。しょうがないなぁ。」龍馬は再び、わたあめを指先で摘み、鏡太郎の開いた口に放り込んだ。
「そういえば、みんなが着ている服はなんだい?いつもと違うけど。」
「俺と七緒先輩が着ているのが浴衣で、鏡太郎と一六が着てるのが甚平だよ。大体お祭りとかで着られていることが多いかな。」
「そっか。みんな楽しそうだ。ハッピーが溢れてる。」
「あれ、あそこにいるの太子じゃないですか??」
一六の声に足を止め、指さす方向を見ると、肩にタオルをかけ、鉢巻を付け、黒の着流しの上半身を脱ぎ、中のTシャツの袖を捲った緑髪の青年が馴れた手捌きで焼きそばを作っていた。
「たしかに太子くんそっくりですね。」
七緒の言葉に各々頷くと小学生くらいの少年が屋台の前で声を上げた。
「やきそばいっこくださーい!!」
「はいよ。300円な。おし。ちょっと待ってろよ。」
屋台の青年は代金を受け取ると手際よくやきそばをプラスチックパックに入れ、少年に手渡した。
「ありがとう!!」
「あちぃから気ぃつけろよ〜!!」
手を振りながら駆けていく少年に彼も手を振り返した。
「声的にも太子っぽいね。」
龍馬が呟いた言葉にまた各々頷く。
「もう、いっその事呼んじゃえばいいじゃないっスか。おーい。太子〜!!」一六が屋台に向かって叫ぶと青年はビクッと肩を上下させた。そしてキョロキョロと辺りを見回し、鏡太郎達を見つけるとゲッと顔を顰めた。そしてブリキ人形のようにぎこちない動きで前に向き直った。
「気づいた、けど、あえて無視した。といったかんじですね。」
「もう1回呼んでみよっと。おーい!!!!太子ぃぃぃ!!」
青年は動かなかった。まるでこっちの方向は意地でも向かないぞとでも言いたげな程に。
「あ、りょーちん。やきそば買ってくれる約束だよね?それであの人がたいたいかどうか見てみればいいんじゃない??」
「そうだね。ちょっと行ってみようか。」
「はい。俺もいきます。やきそば食べたいし。」
「では龍馬くん。5つ買ってきてください。僕はここで待ってますから。」
「七緒先輩、サラっとりょーちんパシらしてますね。」
「なんの事です?」
いってらっしゃいと手を振る七緒を背に3人と1匹(?)は屋台へ足を進めた。
「すみません、焼きそば5つください。」
龍馬がそう言うと青年は隣にいたガタイのいい青年に耳打ちをした。するとガタイのいい青年は「何言ってんだ太子!!客目の前にして変わってほしいも何もあるか!!」と叫ぶ。
「太子………??」
青年の顔がサーっと青ざめた。
「太子の部活仲間でしたか!!いやー。いつも弟がお世話になっております。んだよ太子ぃ!ダチが来るなら言っとけよ〜!!」
1番上の兄が俺の背中をバシバシ叩きながら笑った。
「………こんなの見られたくなかったんだよ………ったく……なんの為に隣町の高校行ってると思ってんだこんにゃろー。」
「お前学校だとねこかぶってんだっけか?とにかく、俺が店番変わってやるからダチと屋台回ってこい。な!?」
「猫なんかかぶってね………んんっないです。」
「いやーだいぶメッキ剥がれまくりだから今更もういいよ………」龍馬先輩が諦め半分の声で言う。顔につっこみ疲れたと書かれている気がする………
「てか、今の風貌が既にヤンキーみたいだよね〜。」一六の声に少しムカッとした。
「僕のどこがヤンキーなんですか??」
「いいね。そう言えば、今日隣町の商店街でお祭りがあるみたいだし………」龍馬先輩がぽんと手を叩いた。それにつづけて一六も「いいじゃん!行こう行こう!!」と手を挙げる。「いいですねー。お祭り。面白そうです。」部長である七緒先輩も賛同の声をあげたが「えー。やだ人多いし、屋台の食べ物とかってそこそこ高いんだよね………浴衣とか甚平着るのも面倒くさいし………」と、鏡太郎先輩だけが気だるそうに呟いた。「そ、そうですよね、外、結構暑いですし………」それに俺が頷く。少し狼狽えた様子に七緒先輩が気づかぬはずはなく、「太子くんはなんで頑なに夏祭りに反対するのですか?なんかやましいことでも?」「やっ、やましいことなんて………」
彼に問い詰められたため、俺はもごもごと口ごもった。隣町には自分の実家があり、俺には誰にも知られたくない秘密があるのだ。バレたらまずい………気づくな気づくな………と祈りにも似た念を送っていると、同級生である一六が声を上げた。
「あー!!分かったぁ!!太子、この後用事あるとか言ってたから一緒に行けねぇの拗ねてんだろ!!」
「そんな訳ないでしょう。」能天気な彼の声に少し安堵を覚えながら俺は小さくため息をついた。
すると「じゃあ、別に良くない?たいたいはどうせ行けないんでしょ?」と鏡太郎先輩の声がした。
「あれ?先輩反対してたのになぜ行く気満々なんですか??」
「りょーちんが一緒に夏祭り行ったら焼きそば買ってくれるって言うから。」
………こいつ、ものに釣られやがった………それにこの人は龍馬先輩には少し甘いことを忘れていた…………と俺が脳内で頭を抱えていると、「それに、カルの期待の目に逆らえなかった………」………動物にも甘かったか!!ならば………
「では、僕はそろそろ………」そう言って俺はそっと黒玉湯を出た。
逃げるのは嫌いだが、逃げるが勝ちという言葉もあるだろう。今回だけ、今回だけ………
「これが夏祭りかぁ!!楽しいね!!!!」
「カル、人多いんだからあまり動かないで。」頭上に乗ったカルルスを鏡太郎が注意する。
町一番の行事とあって、かなり人が多いため離れてしまっては合流は難しいだろう。
「ほら、鏡太郎。行くよー」彼の手を引く龍馬は楽しそうにわたあめを頬張った。
「二人ともー置いていきますよー。」七緒は先に行こうとする一六を引き止めながらこちらを振り返る。その手にはいつの間にか金魚の入ったビニール製の巾着がぶら下がっていた。
その前をはしゃぎ歩く一六はお面を被り、右手にチョコバナナ、左手に水ヨーヨーとかき氷を持っている。
それをぼんやりと見ている鏡太郎の手にもかじり掛けのりんご飴が握られていた。
「その、"わたあめ"と言うものは鏡太郎の頭のようだね。」カルルスが龍馬の手に握られているわたあめを見て呟いた。
「たしかにふわふわで白いから鏡太郎の頭みたいだね。」龍馬は楽しそうに笑う。しかし、鏡太郎は少しムッと頬を膨らました。「………カル、俺の頭食べないでよ!?」
「大丈夫大丈夫。さすがに食べないって。でも美味しそう!!」
「じゃあカルルスも食べる?」龍馬はわたあめを指先で摘み、カルルスの目の前に持ってきた。カルルスはそれを「あーん」と口を開け、咀嚼した。
「りょーちん。俺も食べたい。」鏡太郎もカルルスと同じように口を開ける。
「もー。しょうがないなぁ。」龍馬は再び、わたあめを指先で摘み、鏡太郎の開いた口に放り込んだ。
「そういえば、みんなが着ている服はなんだい?いつもと違うけど。」
「俺と七緒先輩が着ているのが浴衣で、鏡太郎と一六が着てるのが甚平だよ。大体お祭りとかで着られていることが多いかな。」
「そっか。みんな楽しそうだ。ハッピーが溢れてる。」
「あれ、あそこにいるの太子じゃないですか??」
一六の声に足を止め、指さす方向を見ると、肩にタオルをかけ、鉢巻を付け、黒の着流しの上半身を脱ぎ、中のTシャツの袖を捲った緑髪の青年が馴れた手捌きで焼きそばを作っていた。
「たしかに太子くんそっくりですね。」
七緒の言葉に各々頷くと小学生くらいの少年が屋台の前で声を上げた。
「やきそばいっこくださーい!!」
「はいよ。300円な。おし。ちょっと待ってろよ。」
屋台の青年は代金を受け取ると手際よくやきそばをプラスチックパックに入れ、少年に手渡した。
「ありがとう!!」
「あちぃから気ぃつけろよ〜!!」
手を振りながら駆けていく少年に彼も手を振り返した。
「声的にも太子っぽいね。」
龍馬が呟いた言葉にまた各々頷く。
「もう、いっその事呼んじゃえばいいじゃないっスか。おーい。太子〜!!」一六が屋台に向かって叫ぶと青年はビクッと肩を上下させた。そしてキョロキョロと辺りを見回し、鏡太郎達を見つけるとゲッと顔を顰めた。そしてブリキ人形のようにぎこちない動きで前に向き直った。
「気づいた、けど、あえて無視した。といったかんじですね。」
「もう1回呼んでみよっと。おーい!!!!太子ぃぃぃ!!」
青年は動かなかった。まるでこっちの方向は意地でも向かないぞとでも言いたげな程に。
「あ、りょーちん。やきそば買ってくれる約束だよね?それであの人がたいたいかどうか見てみればいいんじゃない??」
「そうだね。ちょっと行ってみようか。」
「はい。俺もいきます。やきそば食べたいし。」
「では龍馬くん。5つ買ってきてください。僕はここで待ってますから。」
「七緒先輩、サラっとりょーちんパシらしてますね。」
「なんの事です?」
いってらっしゃいと手を振る七緒を背に3人と1匹(?)は屋台へ足を進めた。
「すみません、焼きそば5つください。」
龍馬がそう言うと青年は隣にいたガタイのいい青年に耳打ちをした。するとガタイのいい青年は「何言ってんだ太子!!客目の前にして変わってほしいも何もあるか!!」と叫ぶ。
「太子………??」
青年の顔がサーっと青ざめた。
「太子の部活仲間でしたか!!いやー。いつも弟がお世話になっております。んだよ太子ぃ!ダチが来るなら言っとけよ〜!!」
1番上の兄が俺の背中をバシバシ叩きながら笑った。
「………こんなの見られたくなかったんだよ………ったく……なんの為に隣町の高校行ってると思ってんだこんにゃろー。」
「お前学校だとねこかぶってんだっけか?とにかく、俺が店番変わってやるからダチと屋台回ってこい。な!?」
「猫なんかかぶってね………んんっないです。」
「いやーだいぶメッキ剥がれまくりだから今更もういいよ………」龍馬先輩が諦め半分の声で言う。顔につっこみ疲れたと書かれている気がする………
「てか、今の風貌が既にヤンキーみたいだよね〜。」一六の声に少しムカッとした。
「僕のどこがヤンキーなんですか??」