鳥籠の番(つがい) 8
鳥籠の番 8
三時間後、ラー・カイラムのデッキにネオ・ジオンの小型艇が着艦する。
ブライトや副艦長のトゥース、多くのクルーが見守る中、小型艇のハッチが開き、そこからナナイ・ミゲル大尉と、数人の兵士が降りて来た。
そしてその後ろから、真っ赤な総帥服を身に纏ったシャアが姿を現した。
「シャア!?」
まさか総帥自らがやってくるとは思っておらず、ブライトが驚きに目を見開く。
「ブライト・ノア艦長、今回は交渉に応じて頂きありがとうございます」
ナナイがブライトへと歩み寄り、礼を述べる。
「い、いや…」
ナナイに話し掛けられても、ブライトの目はシャアへと釘付けとなり、まともに言葉が出ない。
そんなブライトに、余裕の笑みを浮かべたシャアが近寄る。
「ブライト艦長、久しいな」
そのシャアの一言に、ブライトの頭に血が昇る。
かつて同じ想いを抱いて共に戦った男。
しかし、この男はティターンズとの決着がついた途端、姿を消した。
ハマーン・カーン率いるネオ・ジオンの脅威がまだある中、無責任にも姿を眩ましたのだ。
「貴様!よくもヌケヌケと!」
大破した百式を見たとき、その死を覚悟し、ショックを受けた。
また、ヘンケンやアポリー、多くの仲間を失い、これからエゥーゴがどうなってしまうのかと不安になった。
結局、エゥーゴは連邦軍に吸収され、あの戦いは何だったのかと、皆の死は何だったのかと言う想いに苛まれた。
その後、ハヤトから、アムロが「クワトロ大尉は生きている」と言っていたと聞き、少しの希望を持った。
ところが、この男は在ろう事か、ネオ・ジオンを立ち上げ、地球連邦に反旗を翻し、かつてのジオン同様、地球に5thルナを落として多くの罪のない市民の命を奪ったのだ。
そして遂には、どうやって手に入れたのか、あのアクシズを地球に落とし、地球を寒冷化して人の住めない星のすると言う。
アムロの身柄と引き換えに手に入れた情報は、今までどんな征服者もやらなかった悪魔の計画だった。
「ここで貴様を殺せば、地球を救えるな」
ブライトは怒りに震える拳を握り締め、シャアを睨みつける。
「私が死んでも計画は止まらんよ」
余裕の笑みを浮かべながら近付いてくるシャアに、今にも飛びかかりそうなブライトを、副艦長のトゥースが諌める。
「ブライト。約束通り、アムロの解放を」
ブライトは悔し気に唇を噛み締め、部下にアムロを連れて来るように指示を出す。
そして、尚もブライトはシャアを睨み付ける。
「アムロをどうするつもりだ?」
「『どう』とは?」
「あいつを戦闘マシンにでもするつもりか?」
「アムロのマインドコントロールの事を言っているのならば、あれは私の本意ではない。しかし、我々の目的の為に、彼の能力が必要なのも事実だ」
「やはりあいつを利用するのか!?」
「それを…君に言われたくはないな…」
かつて、生き残る為とはいえ、ブライトは一般人だったアムロをガンダムに乗せて戦場へと送り出した。
それも当時、まだ十五の子供だった子供を前線に出させたのだ。
シャアの言葉に、ブライトはグッと言葉を詰まらせる。
確かに、自分のした事は今、シャアがしている事と何ら変わりはない。
アムロのニュータイプ能力を、自分達の為に、戦争の道具として使ったのだ。
おまけに、自分のその行動が、アムロの人生を大きく狂わせてしまった。
普通の機械好きの子供を『ニュータイプ』と言う存在に変えてしまったのだ。
暫くすると、その腕を手錠で拘束されたアムロが、カミーユとジュドーに両脇を挟まれた状態でデッキへと姿を現した。
「大佐!」
シャアの姿を捉えた瞬間、アムロが嬉しそうに叫ぶ。
その姿に、ブライトが苦い表情を浮かべる。
そして同じ様に、カミーユも厳しい表情を浮かべ、シャアを睨みつけた。
カミーユはアムロを連れて、ゆっくりとブライトの横まで歩いていく。
ブライトはアムロへと視線を向けると、小さく溜め息を吐き、「釈放だ」と告げる。
「俺の釈放の交換条件は何だったんだ?」
アムロの問いに、ブライトは目を見開くと、少し間を置き、答える。
「…アクシズを使った…地球寒冷化作戦についての情報だ」
アムロは思わずシャアへと視線を向ける。
自分の釈放の為に、最重要機密を敵軍に伝えるなどあり得ない。
しかし、シャアはそれをしたのだ。
その視線を受け、シャアは笑みを浮かべながらコクリと頷く。
『大丈夫だ、問題ない。君の方が大切だ』
シャアの思惟がアムロに伝わる。
アムロは言葉無くシャアを見つめ、そして、視線をブライトへと戻した。
「その情報を手に入れて…ロンド・ベルは…連邦はどうするつもりだ?」
「もちろん阻止して見せるさ」
ブライトはそう答えるが、それが如何に難しいかも理解していた。
アクシズをネオ・ジオンに譲渡したのは、間違い無く連邦のお偉方だ。
おそらく「停戦の証しだ」とか、そんなシャアの言葉を鵜呑みにしたのだろう。
そんな日和見な連中が、ロンド・ベルに応援を送るとは思えない。
「出来るのか?」
「やるさ」
ブライトの言葉に、アムロがボソリと呟く。
「アクシズを内部から破壊すれば、もしかしたら…」
ブライトにだけ聞こえる声で呟かれたそれに、ブライトが目を見開く。
アムロはそっとブライトに視線を送り、瞬きする事で頷く。
それを、動揺しつつもブライトは受け止めた。
『アムロ!?』
アムロはカミーユとジュドーに付き添われ、シャアの元まで歩いていく。
そして、目の前まで来ると、カミーユがアムロの手錠を外す。
「アムロ大尉、釈放です」
そう告げると、カミーユはシャアを睨みつけ、その胸ぐらを掴んで叫ぶ。
「俺は絶対にあなたを許さない!」
カミーユその行動に、シャアのSP達が一斉にカミーユを取り押さえる。
それでもカミーユはシャアを睨みつけ続け、怒りを露わにする。
そんなカミーユを、シャアも睨み返す。
「お前に許して貰おうとは思わん」
「貴方のやろうとしている事はただのエゴだ!」
「地球の重力にしがみ付き、母なる大地を汚染し続け、スペースノイドの自由を奪う愚かな者たちをこの私が粛清するのだ。誰にも邪魔はさせん」
「人が人を粛清するなんて!」
「誰かがやらねば、人類に未来は無い」
「人はそんなに愚かじゃ無い!」
「本当にそうか?現に地球の汚染は止まらず、限界に来ている」
「だからって、罪の無い人々の命を奪っていい筈がない!」
「カミーユ、君はもっと広い視野で世界を見る事だ。アムロ、こちらへ」
シャアはアムロへと手を伸ばす。
アムロはカミーユに視線を向けながらも、一歩足を踏み出し、シャアのその手を取る。
「アムロさん!」
必死にアムロに呼び掛けるカミーユを、アムロも見つめ返す。
「カミーユ…」
そんなアムロの肩をシャアはグッと掴み、自分の方へと引き寄せる。
「アムロ、行くぞ」
「…はい…」
アムロは名残惜しげにカミーユを見つめながらも、シャアに肩を抱かれて小型艇へと入っていった。
小型艇がラー・カイラムのデッキから飛び立ち、クルー達が各持ち場に戻ったのを見届け、ブライトはカミーユに視線を向ける。
「カミーユ、艦長室へ」
「…はい、艦長」
三時間後、ラー・カイラムのデッキにネオ・ジオンの小型艇が着艦する。
ブライトや副艦長のトゥース、多くのクルーが見守る中、小型艇のハッチが開き、そこからナナイ・ミゲル大尉と、数人の兵士が降りて来た。
そしてその後ろから、真っ赤な総帥服を身に纏ったシャアが姿を現した。
「シャア!?」
まさか総帥自らがやってくるとは思っておらず、ブライトが驚きに目を見開く。
「ブライト・ノア艦長、今回は交渉に応じて頂きありがとうございます」
ナナイがブライトへと歩み寄り、礼を述べる。
「い、いや…」
ナナイに話し掛けられても、ブライトの目はシャアへと釘付けとなり、まともに言葉が出ない。
そんなブライトに、余裕の笑みを浮かべたシャアが近寄る。
「ブライト艦長、久しいな」
そのシャアの一言に、ブライトの頭に血が昇る。
かつて同じ想いを抱いて共に戦った男。
しかし、この男はティターンズとの決着がついた途端、姿を消した。
ハマーン・カーン率いるネオ・ジオンの脅威がまだある中、無責任にも姿を眩ましたのだ。
「貴様!よくもヌケヌケと!」
大破した百式を見たとき、その死を覚悟し、ショックを受けた。
また、ヘンケンやアポリー、多くの仲間を失い、これからエゥーゴがどうなってしまうのかと不安になった。
結局、エゥーゴは連邦軍に吸収され、あの戦いは何だったのかと、皆の死は何だったのかと言う想いに苛まれた。
その後、ハヤトから、アムロが「クワトロ大尉は生きている」と言っていたと聞き、少しの希望を持った。
ところが、この男は在ろう事か、ネオ・ジオンを立ち上げ、地球連邦に反旗を翻し、かつてのジオン同様、地球に5thルナを落として多くの罪のない市民の命を奪ったのだ。
そして遂には、どうやって手に入れたのか、あのアクシズを地球に落とし、地球を寒冷化して人の住めない星のすると言う。
アムロの身柄と引き換えに手に入れた情報は、今までどんな征服者もやらなかった悪魔の計画だった。
「ここで貴様を殺せば、地球を救えるな」
ブライトは怒りに震える拳を握り締め、シャアを睨みつける。
「私が死んでも計画は止まらんよ」
余裕の笑みを浮かべながら近付いてくるシャアに、今にも飛びかかりそうなブライトを、副艦長のトゥースが諌める。
「ブライト。約束通り、アムロの解放を」
ブライトは悔し気に唇を噛み締め、部下にアムロを連れて来るように指示を出す。
そして、尚もブライトはシャアを睨み付ける。
「アムロをどうするつもりだ?」
「『どう』とは?」
「あいつを戦闘マシンにでもするつもりか?」
「アムロのマインドコントロールの事を言っているのならば、あれは私の本意ではない。しかし、我々の目的の為に、彼の能力が必要なのも事実だ」
「やはりあいつを利用するのか!?」
「それを…君に言われたくはないな…」
かつて、生き残る為とはいえ、ブライトは一般人だったアムロをガンダムに乗せて戦場へと送り出した。
それも当時、まだ十五の子供だった子供を前線に出させたのだ。
シャアの言葉に、ブライトはグッと言葉を詰まらせる。
確かに、自分のした事は今、シャアがしている事と何ら変わりはない。
アムロのニュータイプ能力を、自分達の為に、戦争の道具として使ったのだ。
おまけに、自分のその行動が、アムロの人生を大きく狂わせてしまった。
普通の機械好きの子供を『ニュータイプ』と言う存在に変えてしまったのだ。
暫くすると、その腕を手錠で拘束されたアムロが、カミーユとジュドーに両脇を挟まれた状態でデッキへと姿を現した。
「大佐!」
シャアの姿を捉えた瞬間、アムロが嬉しそうに叫ぶ。
その姿に、ブライトが苦い表情を浮かべる。
そして同じ様に、カミーユも厳しい表情を浮かべ、シャアを睨みつけた。
カミーユはアムロを連れて、ゆっくりとブライトの横まで歩いていく。
ブライトはアムロへと視線を向けると、小さく溜め息を吐き、「釈放だ」と告げる。
「俺の釈放の交換条件は何だったんだ?」
アムロの問いに、ブライトは目を見開くと、少し間を置き、答える。
「…アクシズを使った…地球寒冷化作戦についての情報だ」
アムロは思わずシャアへと視線を向ける。
自分の釈放の為に、最重要機密を敵軍に伝えるなどあり得ない。
しかし、シャアはそれをしたのだ。
その視線を受け、シャアは笑みを浮かべながらコクリと頷く。
『大丈夫だ、問題ない。君の方が大切だ』
シャアの思惟がアムロに伝わる。
アムロは言葉無くシャアを見つめ、そして、視線をブライトへと戻した。
「その情報を手に入れて…ロンド・ベルは…連邦はどうするつもりだ?」
「もちろん阻止して見せるさ」
ブライトはそう答えるが、それが如何に難しいかも理解していた。
アクシズをネオ・ジオンに譲渡したのは、間違い無く連邦のお偉方だ。
おそらく「停戦の証しだ」とか、そんなシャアの言葉を鵜呑みにしたのだろう。
そんな日和見な連中が、ロンド・ベルに応援を送るとは思えない。
「出来るのか?」
「やるさ」
ブライトの言葉に、アムロがボソリと呟く。
「アクシズを内部から破壊すれば、もしかしたら…」
ブライトにだけ聞こえる声で呟かれたそれに、ブライトが目を見開く。
アムロはそっとブライトに視線を送り、瞬きする事で頷く。
それを、動揺しつつもブライトは受け止めた。
『アムロ!?』
アムロはカミーユとジュドーに付き添われ、シャアの元まで歩いていく。
そして、目の前まで来ると、カミーユがアムロの手錠を外す。
「アムロ大尉、釈放です」
そう告げると、カミーユはシャアを睨みつけ、その胸ぐらを掴んで叫ぶ。
「俺は絶対にあなたを許さない!」
カミーユその行動に、シャアのSP達が一斉にカミーユを取り押さえる。
それでもカミーユはシャアを睨みつけ続け、怒りを露わにする。
そんなカミーユを、シャアも睨み返す。
「お前に許して貰おうとは思わん」
「貴方のやろうとしている事はただのエゴだ!」
「地球の重力にしがみ付き、母なる大地を汚染し続け、スペースノイドの自由を奪う愚かな者たちをこの私が粛清するのだ。誰にも邪魔はさせん」
「人が人を粛清するなんて!」
「誰かがやらねば、人類に未来は無い」
「人はそんなに愚かじゃ無い!」
「本当にそうか?現に地球の汚染は止まらず、限界に来ている」
「だからって、罪の無い人々の命を奪っていい筈がない!」
「カミーユ、君はもっと広い視野で世界を見る事だ。アムロ、こちらへ」
シャアはアムロへと手を伸ばす。
アムロはカミーユに視線を向けながらも、一歩足を踏み出し、シャアのその手を取る。
「アムロさん!」
必死にアムロに呼び掛けるカミーユを、アムロも見つめ返す。
「カミーユ…」
そんなアムロの肩をシャアはグッと掴み、自分の方へと引き寄せる。
「アムロ、行くぞ」
「…はい…」
アムロは名残惜しげにカミーユを見つめながらも、シャアに肩を抱かれて小型艇へと入っていった。
小型艇がラー・カイラムのデッキから飛び立ち、クルー達が各持ち場に戻ったのを見届け、ブライトはカミーユに視線を向ける。
「カミーユ、艦長室へ」
「…はい、艦長」
作品名:鳥籠の番(つがい) 8 作家名:koyuho