二次創作小説やBL小説が読める!投稿できる!二次小説投稿コミュニティ!

オリジナル小説 https://novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
二次創作小説投稿サイト「2.novelist.jp」
自分らしく
自分らしく
novelistID. 65932
新規ユーザー登録
E-MAIL
PASSWORD
次回から自動でログイン

 

作品詳細に戻る

 

彼方から 第一部 第三話

INDEX|1ページ/3ページ|

次のページ
 
第三話

≪まだ、もどらんのかっ!≫
 三羽の翼竜が、金の寝床の上空を飛び交っている。
≪三人を縄でおろしたのはずいぶん前だぞ。とっくに「金の寝床」についているはずなのに≫
≪これはたぶん……≫
≪ああ≫
≪やはり、花虫に食われたか……≫
 無限とも思える広がりを見せる樹海。
 その木々の間から聳える岩は、先が鋭利に尖っていて翼竜をとめる場所などない。
 逸早く木の寝床に着いた、どこかの国の兵士であろう者達。
 占者に占われた【目覚め】を手に入れるために、危険を承知で仲間を降ろしていた。
 だが、その安否はおろか、目的のモノを手に入れられたのかどうかすら、確認することが出来ずにいる。
 樹海に巣食う花虫への恐れと、翼竜をとめることの出来ない歯痒さ、このままでは、他者に先を越されてしまうかもしれないと言う焦燥を隠せない。
≪おい≫
 一人の兵士が、他の仲間に声を掛ける。
≪あれは……≫
 その兵士の指し示す方向に、小さな七つの影が見える。
 勿論、自分達と同じ上空にである。
≪我が国の援軍か?≫
≪バカな! 違う。翼竜は、まれなる珍種なんだ、我グゼナでも、今日の六羽で全部なんだぞ!≫
≪では……!≫
 グゼナの兵士の間に、一気に緊張が走る。
 目的のモノを手に入れられていないどころか、その手がかりすら掴めていないこの状況で、恐れていた他者がやって来たのだ。
 しかも、稀なる珍種の翼竜を操っている。
≪見ろ! あの乗り方を。立って竜を操る奴らなど決まっている。我々と同じく【目覚め】を手に入れんと来た連中……≫
 空を飛ぶ生き物の、到底安定しているとは思えないその背に、新たに飛来してきた者たちは立っていた。
 グゼナの兵士たちは座って操っていると言うのに……
≪あれは、自由都市リェンカの傭兵どもだ!≫
 余裕さえ感じさせる身の熟しで、リェンカの傭兵は翼竜を操っている。
 グゼナの兵士も国軍に属する者としてそれなりの訓練を受けているはずである。
 それでも……
≪逃げろっ! この数では太刀打ち出来んぞっ!≫
 蜘蛛の子を散らすように、傭兵に背を向け、仲間の安否も【目覚め】を手に入れることも放りだし、逃げることを選んだ。
 数の差もあるだろうが、それよりもその戦闘力に恐れを生しているように思える。
≪逃げるぜ≫
≪殺すなよケイモス。あくまで生け捕りだ≫
≪へっ≫
 恥も外聞もなく、国の兵士が背を向け逃げる様を見て、ケイモスと呼ばれた男は見下すような笑みを浮かべた。

 ――ドォンッ

≪うわっ!?≫
 大きな衝撃音と共に、すぐ隣を飛んでいた仲間の兵士が、何かに背中を押された様に体を仰け反らせた。
 そのまま、成す術もなく、兵士の体は中空へと舞ってゆく……
≪何!? おい!! なぜ落ちるっ?≫
 空気を切る音と共に、兵士の体は樹海へと向かう。
 悲鳴すら上げていない。
 気を失ってしまっているのかもしれない。
≪この風圧では、飛び道具など役に立つはずが……≫
 落ちた兵士の姿を目の当たりにしながらも、その原因が分からないが故に信じられない他の兵士。
 何がその背を襲ったのか……
≪う……≫
 振り向いた兵士の眼に入って来たのは、その風圧に押されることなく、翼竜の背に立ったまま、しかも、両の手を高々と頭上に掲げた好戦的な眼を持つ男の姿だった。
 男は掲げた両の手を、グゼナの兵士に向けた。
≪ぐあっ!≫
 刹那、兵士は苦しげな悲鳴を上げ、凄まじい衝撃音と共に翼竜の背から吹き飛ばされていた。

   *************

 地下を流れる川は、水量の豊富さを物語るかのように大きな音を土壁に反響させている。

 ――流れが速いなァ

 ノリコはのんきにそんなことを思いながら、松明で照らしだされている洞窟の中を見回している。
 イザークはと言うと、そんなノリコののんきさを余所に、瞼を閉じ、何かに集中していた。

 ――ッ!
 
 何かに気づいたのか、イザークは瞼を開くといきなりしゃがみ、自分の荷物に手を掛け、やはりいきなり、訳も分からずに見ているだけのノリコを肩に担ぎ上げ、ダンッ! と、筏を蹴り、跳んだ。
「きゃーーーーっ!!」
 と、ノリコは叫ぶしかない。
 何か説明される訳でもなく、無言でいきなりそんなことをされれば、誰でも叫ぶことぐらいしか出来ない。
 無論、説明された所で、言葉が通じないのだから結果は同じことなのだろうが……
 とりあえず、彼が無事着地した場所は、花虫に追われ落ちた穴の底と似たような所だった。

 ――びっ……びっくりした、いっきなりなんだもの

 イザークに抱えられたまま、心臓が文句を言うかの如く、激しく脈打っている。
≪そこにいろ≫
 指を差し、松明を持ち、彼女にそう言い置くと、イザークはどこかへ歩いて行く。
 ノリコは驚きで、へたりと、荷物と一緒に降ろされたその場に座り込んでいた。

 ――なんか、あったのかしら
 
 少し落ち着いてきた……
 イザークの行動に、驚きと困惑を持ちながら、ノリコは考えと想像を巡らせることしか出来ない。

 ――そういや、あの根っこみたいなの、なくなってるけど

 そう気づき、降ろされた場所で座り込んだまま、辺りを見回している。

 ――ドォォォォ……
 と、何かの音が、耳に入ってくる。

 ――何の音だろう
 気になった。

 ――飛び降りたことと関係あるのかな
 そして、立ち上がった。

 イザークはノリコから少し離れ、デコボコとした土壁の肌に手を当てている。
 そのまま暫し手を当てた土壁を見据え、
≪こっちか……≫
 と、先へと続いている洞窟の暗闇の方を見た。

 ――ドポンッ!!
「きゃあっ!」
 ハッとして振り向き、イザークは手にした松明の明かりを音と悲鳴の聞こえた方に向けた。
 そこには……
「やだ……こんなとこにおっきな水たまりがあったー」
 そう言いながら、ずぶ濡れで水たまりから出てくるノリコの姿があった。
 明るい茶色の、肩までの長さしかない髪の毛から水を滴らせた彼女と眼が合う……

 そそっかしい……それとも好奇心が強い? いやそんな事よりも、
 ―― 少し目を離しただけなのに…… ――
 何故そうなるのか――とでも言いたげな面持ちで、自分の額に手を当てているイザーク。

 ――あ……あたしったら、また……

 ただ、気になった音の正体をちょっと確かめたくて、少し辺りを歩いてみようとそう思っただけなのに、結果は散々たるものだった。
 良く知りもしない場所での軽率な行動、その上、呆れられてしまう始末に、ノリコの顔面は赤く染まってゆく。
 だが、イザークの表情はもう、何か別な事を考えているようだった。
「あの、ご免なさい、つい、変な音が気になって、でも暗くて足もと見えなくて。あ……あたしの今までの生活圏内にこんなとこなかったし、暗闇だってめったになくて……」
 荷物に向かって歩いてくるイザークに、ノリコは必死に弁明していた。
「夜になっても電気が煌々とついているし、近所には二十四時間営業の店なんかあったりして、ちょっとお醤油がないって時なんか、なかなか便利……ぶっ」