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LIMELIGHT ――白光に眩む7

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 その飛んでいったものを雪の中に落ちる前にエミヤは受け止める。手にして改めてそれが士郎の眼球だと確認した。
「な、何を……、何をしている、貴様ッ!」
 振り向きざま怒鳴れば、
『フン。ようやくおとなしくなったか』
 士郎のものとは思えない声にエミヤは瞬く。
(違う……)
 姿は士郎だ。だが、声が、顔の左半分を血に染めた表情が、不自然に吊り上げられた唇が、士郎ではない何者かであることを示している。
 いったい何が起こっているのか、エミヤの思考はフル回転でも追いつかない。
 今日は厨房に詰めるサーヴァントが複数いたために、食堂がうまく回り、時間に余裕があった。
 士郎を先に部屋へ帰し、昼時の終わった食堂で立香たちと立ち話をしつつ、エミヤは少し部屋に戻って夕食の準備を始める時間まで士郎と過ごそうと思っていた。が、なかなかその場を立ち去れず、ふと食堂の出入口へ目を向けると、少し前に食堂を出て行ったはずの士郎の姿が目に入る。
 ダ・ヴィンチに雑用を頼まれたのかも知れないが、あまり一人でうろついてほしくはないエミヤは、会話が途切れるのを待って食堂を出た。
 エミヤが食堂を離れたのは、士郎を見かけてから十分と経っていない。士郎の歩いていった方へ足早に向かい、確信はなかったがエミヤは、エレベーターに乗り込んだ。
 なんとなく、一階の窓にいるのではないかという気がした。また震えているのかもしれない、と逸る気持ちを抑えつつ一階に着いて、士郎がいつもいた窓へと向かう途中、外にいる姿を見つけたのだ。
「寒い中、あんな格好で……」
 防寒着も着ずに、また外に出ているのか、と呆れながらエミヤも玄関を出た。
 そうして、冷たいはずの地面に座り込んだ士郎に声をかければ、額から血を流し、様子がおかしく、今、士郎であるが、明らかに士郎ではない者と相対している。
「な……、何者だ、衛宮士郎の身体に何を――」
 問い質す間に、けたたましい警報が鳴り響いた。
 何があったのかと建物を振り返り、まさか、と思いながら再び士郎に顔を戻す。
「お前は、いったい……」
 士郎の身体を乗っ取ったような何者かと向き合い、エミヤは警戒を露わにする。
『察しが悪いな、カルデアのサーヴァント』
 士郎の口の端が、さらに、く、と上がった。
『まったく、こんな間抜けのどこがいいのやら』
「な、どういう、」
『お前が欲しい、欲しい、というものだから待ってやったというのに、この男ときたら、なんら手を打とうとしない』
 嘲るように自身の胸を指さす士郎に、エミヤは眉間のシワを深くする。
『いい加減、飽き飽きだ。欲しいのならば、腕ずくで奪えばいい。なあ、弓兵。お前もそうしただろう?』
「なんの、話だ」
 エミヤは間合いを慎重に測りながら、士郎の身体を精査してみる。
(魔術回路が……)
 触れれば壊れそうであった魔術回路がほぼ完治しており、カルデアからの魔力を受け取っているように見える。
『なんの話、だと? とぼけるな。こいつを貪り、誰とも関われないようにし、あの部屋に押し込めておいて、すっとぼけるのか?』
「な……んだと! 私は押し込めてなどいない!」
『そうか。可哀想に、こいつはお前の言いなりでいることが最善だと文句も言わず、寂しさに震え、後ろめたさに震え、孤独に震え、日々をお前のことばかりで過ごしていたというのに。まるっきりこいつの勘違いだったのか。くくく……』
「な……」
 士郎がそんなふうに過ごしていたわけがない、とエミヤは頭から否定することができない。何しろ、士郎のことを知っているようで、エミヤは何も知らない。士郎からは何も教えてもらっていない。何を思い、何に苛まれ、何に苦しむのかと、何度も繰り返した疑問は、一度も士郎に向けて発することができずにいる。
 エミヤには、ただ身体の関係があるというだけで、それ以上の何があるわけでもなかった。結局、肉体関係を除けば、他のサーヴァントと同等の扱いだということになる。それを薄々感じていたものだから、エミヤは士郎を他のサーヴァントと関わらせたくなかったのだ。
 部屋に戻れと言えば、士郎は素直に戻っていき、確かに文句も言わずに待っていた。今さら気づいても遅いが、これでは枷に繋がれていないだけで、今指摘された通り、監禁と同じようなことをしていたことになる。
 以前、クー・フーリンにも指摘されたことがある。士郎を囲っているのと同じだ、と。
 そんなつもりはない、と頑なに自分に言い訳して、結局やっていたことといえば、揶揄されながら指摘された通りの状態だった。
『ああ、ならば、教えてやればよかったな。お前はもっと自由でいればいいと。寂しいのなら、こんな弓兵だけではなく、夜ごと他のサーヴァントどもに慰めてもらえばよかったのだと! ハハハハハハ!』
「き、貴様! くだらないことをぬかしていないで、さっさと士郎から出て行け!」
 士郎の腕を掴めば、にぃ、とその顔が嗤う。
『今さらだな、カルデアのサーヴァント』
「な、に?」
 ずず、と士郎の背後から何かが増幅していくのが見えた。それは、レイシフト先でエミヤが何度も見たものだ。
「魔神……柱……?」
 信じられない思いで呟いた。なぜ、ここに魔神柱がいるのか。しかも、士郎の身体から出てきたように見える。
 だが、さほど大きくはない。天辺まではせいぜい五メートル程度。今までエミヤたちが相手にしていた魔神柱よりもかなり小ぶりと言える。
「…………」
 敵の強さに大きさなど関係ないとは知っていても、今までが魔神柱と言えば巨大な敵であったために、あまり緊張感が湧かないのも正直なところだった。
 魔神柱が完全に姿を現すと、士郎の身体が力を失い、がくん、と頭を垂れている。
「士郎!」
 その肩を掴み、魔神柱から引き離そうとするが、ビクともしない。
「なん……だと?」
 士郎の背中を見てエミヤは呆然とする。
「癒着している……のか……」
 その背中から魔神柱へと視線を上げていくと、まるで士郎から魔神柱が生えているようにも見える。魔神柱と士郎の身体が一体となっているのだと嫌でもわかった。
「なぜ、だ……」
 見上げた魔神柱は幾つもの目でエミヤを見下ろす。
『なかなかにおもしろかったぞ、この男』
「なに?」
『屈折していてな』
 魔神柱の高笑いに苛立ちが募った。
 莫耶を投影し、士郎を切り離そうとしたが、傷が付くのは一瞬で、すぐに塞がってしまう。エミヤが切りつけたところで、たいしたダメージにもなっていないようだ。
 ならば、と剣製し、魔神柱の本体へ向けて一斉に剣を放つ。と、背後から援護射撃がきた。
 立香と複数のサーヴァントたちが玄関口からこちらに向かってきている。
「マスター! 早く魔神柱を!」
 無数の武器が魔神柱に突き立ち、様々な攻撃が加えられ、苦しげな声を上げる魔神柱に、効果あり、とさらにエミヤが剣製をしたところで、びしゃ、と地面に赤い液体が散った。
 鉄錆の臭いが鼻を衝く。
「かはっ……」
 鮮血を吐いたのは士郎だ。
「な……」
 中空に現れた剣が霧散する。
「士郎!」
 俯いた士郎の口からポタリ、ポタリと赤い血が落ちていく。呼んでも、肩を揺すっても士郎は全く反応しない。
「なぜ……」