青い制服
青い制服
ダカールでの演説の後、酒を酌み交わし、過去の蟠りが完全に拭えた訳ではないが、分かり合える事が出来たアムロとシャア。
そして、反発し合いながらも互いに惹かれあっていた二人はあの日、酒の勢いもあってベッドを共にした。
その時、クワトロから再度『一緒に宇宙へ上がろう』と言われ、昔と同等とは言えないが、モビルスーツにも乗れるようになった事もあり、アムロはその申し出にコクリと頷いた。
翌日、アウドムラから発進するシャトルには、クワトロとカミーユ、そしてアムロの姿があった。
《クワトロ大尉、ご武運を!》
「ああ、お世話になりました。ハヤト艦長」
ブリッジのハヤトからの通信に、クワトロが答える。
《アムロ、ブライトによろしく伝えてくれ》
「ああ、分かった。カツに何か伝える事は?」
《ブライトやクワトロ大尉の言う事を聞いて、しっかりやれと言ってくれ》
「了解」
《お前もだぞ、昔みたいにブライトに噛み付くなよ》
「ばっ!昔の話だろ!今はそんな事しないよ!」
《どうだかな。クワトロ大尉、アムロの事も宜しく頼みます》
「了解した」
クスクスと笑うクワトロに、アムロが顔を真っ赤にして怒る。
「クワトロ大尉!」
「そう怒るな、そんな風にムキになるからハヤト艦長が心配するのだろう?年上の言う事は聞くものだ」
「何言ってるんだよ、ハヤトと俺は同い年だ!」
「「え?」」
思わず、クワトロと、隣に座っていたカミーユが声を上げてアムロに振り向く。
「何だよ…その顔」
「…いや…」
恰幅の良い落ち着いたハヤトと、アムロが同い年には到底見えず、二人は思わずモニターに映るハヤトとアムロを、もう一度交互に見て更に驚く。
そんな二人の視線に、ハヤトは笑い出し、アムロが口を尖らせて拗ねる。
「どうせ俺は童顔だよ!」
《ははは!昔に比べれば随分大人っぽくなったと思うぞ!お前も結婚したら変わるんじゃないか?》
「お前がそれを言うか!?」
《まあ、フラウは譲らないけどな》
「お前もせいぜいフラウに逃げられないようにな!」
《心配には及ばないさ》
「言ってろ!…本当に…お前にはフラウや…もうすぐ子供も生まれるんだから、死ぬなよ」
《ああ、分かってる》
モニター越しに互いに視線を合わせ、コクリと頷く。
「じゃあな」
《ああ》
「では、発進する!」
クワトロの声と共にカウントダウンが始まり、三人を乗せたシャトルはアウドムラから飛び立っていった。
そのシャトルを見上げ、ハヤトが呟く。
「お前も死ぬなよ!アムロ」
キツイGを受けて、宇宙へと昇るシャトルの中で、アムロはハヤトのその声を聞く。
しかしこれが、アムロが聞いた、ハヤトの最後の声となった。
◇◇◇
「アムロさんとハヤト艦長の奥さんって知り合いなんですか?」
シャトルが衛星軌道上に入り安定すると、ふと思い出した様にカミーユがアムロに問いかける。
先程の二人の会話から、『フラウ』と言うのがハヤトの妻で、過去に三人の間で何かあったのだろうと思い、ついカミーユは口に出してしまった。
「カミーユ、あまりプライベートな事を聞くものではない」
「ははは、別にいいよ」
クワトロが注意するのを、アムロが笑ってカミーユに答える。
「俺とハヤトとフラウは幼馴染みだよ。サイド7にいた頃、近所に住んでたんだ。フラウはまぁ、面倒見のいい子でさ、当時、隣の家に住んでた俺の面倒を色々見てくれてたんだ」
「お隣の子が面倒を?」
「ああ、ウチは親父と二人暮らしで、その親父も仕事で殆ど家にいなかったから、心配してくれてね。まぁ、俺もズボラな性格だから家の中とか酷いもんでさ、いつも掃除してくれたり、食事を作って持って来てくれてたんだ」
懐かしそうに語るアムロに、カミーユはファの事を思い出す。
ファも、両親が多忙な自分の事を心配してくれていた。
「ハヤトは多分、その頃からフラウの事が好きだったんだろうな。当時は気付かなかったけど、思い返してみれば、フラウが俺に構う度に不機嫌になってた」
「なんだか微笑ましいな」
その光景を思い浮かべ、クワトロが笑う。
「まだ十五のガキだったしね」
「アムロさんはそのフラウさんの事、どう思ってたんですか?」
「俺?うーん、本当にそう言うことに疎くてさ。当時は一応感謝はしてたし、大切な友達だと思ってたけど、口煩い子だなとも思ってたな」
「酷いな」
クワトロの言葉に、アムロも自分で頷く。
「本当にな、自分でもそう思う。でもさ、それはきっと、フラウが自分から離れていってしまうなんて、思ってもいなかったから、そんな風に思えたんだと思う」
少し寂しげな表情を浮かべてアムロが呟く。
「戦争に巻き込まれて…三人とも家族も家も失って…ホワイトベースに乗った…。俺は自分の事に精一杯で、心配してくれるフラウの事を気遣ってやれなくて…彼女だって不安だったろうに…」
「でも、それは仕方がないんじゃ…」
戦時中だ、生き残る為に皆が必死だった。
「まぁね。でもさ、気付いたら、どんどん戦闘にのめり込んでいく俺から、彼女は離れていった。後から聞いたんだけど、『アムロは自分達とは違うんだ』ってハヤトに言ってたらしいんだ…。俺は…何にも変わっていないのに…『ニュータイプ』っていう別の生き物に変わってしまったって…、流石にちょっとショックだったよ」
「アムロさん…」
「まぁまぁ、そんなで、フラウはハヤトを選んで結婚したって訳。実際、彼女の事は好きだったけど、恋愛感情だったかって言われると、どうだろうって思うしね。シャイアンで久しぶりに会った時も、懐かしいとは思ったけど、それだけだったよ」
暗くなってしまった雰囲気を払拭する様に、アムロが明るく笑う。
「そういえば、カミーユには幼馴染みとか居ないのか?」
「え?あ…えっと」
「居るだろう?ファが」
「ク、クワトロ大尉!」
「今から行くアーガマに彼の幼馴染みで、そのフラウくんと同じ様に、カミーユを気に掛けてくれる少女がいる」
「そうなのか?」
アムロが嬉しそうにカミーユを見つめると、少し照れ臭そうにカミーユが答える。
「え、ええ。まぁ」
「そっか。それじゃ、その子を大切にしないとな」
「…はい…」
笑顔で語りかけるアムロに、カミーユは少し顔を赤らめ、コクリと頷いた。
◇◇◇
無事、アーガマと合流したアムロ達は、ブリッジのブライトの元へと向かう。
そこでブライトやクルー達からの熱烈な歓迎を受けた後、自室に向かおうとしたアムロに、エゥーゴの制服が手渡された。
その制服を渡してくれたのは、カミーユと同じ年頃の、どこか、フラウと同じ雰囲気を感じさせる少女だった。
「もしかして、君がカミーユの幼馴染みのファ?」
「え?」
「あれ、違った?」
「あ、いえ、合っています。ファ・ユイリィと言います。でも、どうして?」
不思議そうに見上げてくるファに、アムロが笑顔で返す。
「カミーユに聞いたんだよ。アーガマに幼馴染みの女の子がいるって」
「でも、どうして私だって?」
「ん…何となく…勘かな?」
「はぁ…」
よく分からないと言った顔で答えるファに、アムロが笑顔で謝る。
「ああ、驚かしちゃって、ごめんね」
気さくなアムロに、ファも思わず笑顔で答えてしまう。
ダカールでの演説の後、酒を酌み交わし、過去の蟠りが完全に拭えた訳ではないが、分かり合える事が出来たアムロとシャア。
そして、反発し合いながらも互いに惹かれあっていた二人はあの日、酒の勢いもあってベッドを共にした。
その時、クワトロから再度『一緒に宇宙へ上がろう』と言われ、昔と同等とは言えないが、モビルスーツにも乗れるようになった事もあり、アムロはその申し出にコクリと頷いた。
翌日、アウドムラから発進するシャトルには、クワトロとカミーユ、そしてアムロの姿があった。
《クワトロ大尉、ご武運を!》
「ああ、お世話になりました。ハヤト艦長」
ブリッジのハヤトからの通信に、クワトロが答える。
《アムロ、ブライトによろしく伝えてくれ》
「ああ、分かった。カツに何か伝える事は?」
《ブライトやクワトロ大尉の言う事を聞いて、しっかりやれと言ってくれ》
「了解」
《お前もだぞ、昔みたいにブライトに噛み付くなよ》
「ばっ!昔の話だろ!今はそんな事しないよ!」
《どうだかな。クワトロ大尉、アムロの事も宜しく頼みます》
「了解した」
クスクスと笑うクワトロに、アムロが顔を真っ赤にして怒る。
「クワトロ大尉!」
「そう怒るな、そんな風にムキになるからハヤト艦長が心配するのだろう?年上の言う事は聞くものだ」
「何言ってるんだよ、ハヤトと俺は同い年だ!」
「「え?」」
思わず、クワトロと、隣に座っていたカミーユが声を上げてアムロに振り向く。
「何だよ…その顔」
「…いや…」
恰幅の良い落ち着いたハヤトと、アムロが同い年には到底見えず、二人は思わずモニターに映るハヤトとアムロを、もう一度交互に見て更に驚く。
そんな二人の視線に、ハヤトは笑い出し、アムロが口を尖らせて拗ねる。
「どうせ俺は童顔だよ!」
《ははは!昔に比べれば随分大人っぽくなったと思うぞ!お前も結婚したら変わるんじゃないか?》
「お前がそれを言うか!?」
《まあ、フラウは譲らないけどな》
「お前もせいぜいフラウに逃げられないようにな!」
《心配には及ばないさ》
「言ってろ!…本当に…お前にはフラウや…もうすぐ子供も生まれるんだから、死ぬなよ」
《ああ、分かってる》
モニター越しに互いに視線を合わせ、コクリと頷く。
「じゃあな」
《ああ》
「では、発進する!」
クワトロの声と共にカウントダウンが始まり、三人を乗せたシャトルはアウドムラから飛び立っていった。
そのシャトルを見上げ、ハヤトが呟く。
「お前も死ぬなよ!アムロ」
キツイGを受けて、宇宙へと昇るシャトルの中で、アムロはハヤトのその声を聞く。
しかしこれが、アムロが聞いた、ハヤトの最後の声となった。
◇◇◇
「アムロさんとハヤト艦長の奥さんって知り合いなんですか?」
シャトルが衛星軌道上に入り安定すると、ふと思い出した様にカミーユがアムロに問いかける。
先程の二人の会話から、『フラウ』と言うのがハヤトの妻で、過去に三人の間で何かあったのだろうと思い、ついカミーユは口に出してしまった。
「カミーユ、あまりプライベートな事を聞くものではない」
「ははは、別にいいよ」
クワトロが注意するのを、アムロが笑ってカミーユに答える。
「俺とハヤトとフラウは幼馴染みだよ。サイド7にいた頃、近所に住んでたんだ。フラウはまぁ、面倒見のいい子でさ、当時、隣の家に住んでた俺の面倒を色々見てくれてたんだ」
「お隣の子が面倒を?」
「ああ、ウチは親父と二人暮らしで、その親父も仕事で殆ど家にいなかったから、心配してくれてね。まぁ、俺もズボラな性格だから家の中とか酷いもんでさ、いつも掃除してくれたり、食事を作って持って来てくれてたんだ」
懐かしそうに語るアムロに、カミーユはファの事を思い出す。
ファも、両親が多忙な自分の事を心配してくれていた。
「ハヤトは多分、その頃からフラウの事が好きだったんだろうな。当時は気付かなかったけど、思い返してみれば、フラウが俺に構う度に不機嫌になってた」
「なんだか微笑ましいな」
その光景を思い浮かべ、クワトロが笑う。
「まだ十五のガキだったしね」
「アムロさんはそのフラウさんの事、どう思ってたんですか?」
「俺?うーん、本当にそう言うことに疎くてさ。当時は一応感謝はしてたし、大切な友達だと思ってたけど、口煩い子だなとも思ってたな」
「酷いな」
クワトロの言葉に、アムロも自分で頷く。
「本当にな、自分でもそう思う。でもさ、それはきっと、フラウが自分から離れていってしまうなんて、思ってもいなかったから、そんな風に思えたんだと思う」
少し寂しげな表情を浮かべてアムロが呟く。
「戦争に巻き込まれて…三人とも家族も家も失って…ホワイトベースに乗った…。俺は自分の事に精一杯で、心配してくれるフラウの事を気遣ってやれなくて…彼女だって不安だったろうに…」
「でも、それは仕方がないんじゃ…」
戦時中だ、生き残る為に皆が必死だった。
「まぁね。でもさ、気付いたら、どんどん戦闘にのめり込んでいく俺から、彼女は離れていった。後から聞いたんだけど、『アムロは自分達とは違うんだ』ってハヤトに言ってたらしいんだ…。俺は…何にも変わっていないのに…『ニュータイプ』っていう別の生き物に変わってしまったって…、流石にちょっとショックだったよ」
「アムロさん…」
「まぁまぁ、そんなで、フラウはハヤトを選んで結婚したって訳。実際、彼女の事は好きだったけど、恋愛感情だったかって言われると、どうだろうって思うしね。シャイアンで久しぶりに会った時も、懐かしいとは思ったけど、それだけだったよ」
暗くなってしまった雰囲気を払拭する様に、アムロが明るく笑う。
「そういえば、カミーユには幼馴染みとか居ないのか?」
「え?あ…えっと」
「居るだろう?ファが」
「ク、クワトロ大尉!」
「今から行くアーガマに彼の幼馴染みで、そのフラウくんと同じ様に、カミーユを気に掛けてくれる少女がいる」
「そうなのか?」
アムロが嬉しそうにカミーユを見つめると、少し照れ臭そうにカミーユが答える。
「え、ええ。まぁ」
「そっか。それじゃ、その子を大切にしないとな」
「…はい…」
笑顔で語りかけるアムロに、カミーユは少し顔を赤らめ、コクリと頷いた。
◇◇◇
無事、アーガマと合流したアムロ達は、ブリッジのブライトの元へと向かう。
そこでブライトやクルー達からの熱烈な歓迎を受けた後、自室に向かおうとしたアムロに、エゥーゴの制服が手渡された。
その制服を渡してくれたのは、カミーユと同じ年頃の、どこか、フラウと同じ雰囲気を感じさせる少女だった。
「もしかして、君がカミーユの幼馴染みのファ?」
「え?」
「あれ、違った?」
「あ、いえ、合っています。ファ・ユイリィと言います。でも、どうして?」
不思議そうに見上げてくるファに、アムロが笑顔で返す。
「カミーユに聞いたんだよ。アーガマに幼馴染みの女の子がいるって」
「でも、どうして私だって?」
「ん…何となく…勘かな?」
「はぁ…」
よく分からないと言った顔で答えるファに、アムロが笑顔で謝る。
「ああ、驚かしちゃって、ごめんね」
気さくなアムロに、ファも思わず笑顔で答えてしまう。