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自分らしく
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彼方から 第一部 第四話

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 バラリ――と、鞘を腰に留めておく為のベルトと、襷掛けにされていた肩の帯も地面に落ちてゆく。
≪ばかな……≫
 愕然と、右の脇腹に出来た切傷に手を当てる。
≪この、おれが切られるなんて……≫
 信じられないモノを見るかのように、頭はイザークを見ていた。

≪うわわっ≫
 追撃を加えに来たイザークを見て、頭は慌てて傷を抑えながら跳び技で距離を取ってゆく。
≪お……覚えてやがれっ!≫
 悪党お決まりのセリフを吐き、頭は背中を見せ何度も跳び技を繰り返し、姿を消した。
 短距離とはいえ、何度も繰り返される跳び技で逃げられては、イザークも追いようがなかった。

 ――パチパチパチッ……
 後方から、拍手が聞こえてくる。

 ――すごいっ、イザークすごい! うん、かっこいい! すごい!!

≪…………≫
 見事、盗賊の頭に一撃を加え追い払ったイザークに対し、ノリコは惜しみない賛辞を心の中で送り、いつまでも拍手を続けていた。
 渡り戦士をしているイザークにとって、戦闘自体は特別なものではない。
 それが日常と言う訳でもないが、まさか、そんなことで拍手をされるとは……
 何とも言えない面持ちで、拍手を続けるノリコを見ていた。
 
 ――ッ! 
 微かな気配を感じた。
 だが、辺りを見回しても、その気配を発したであろう存在の確認は出来ない。
 既にその気配もない……

 ――イザーク?
 不審そうに辺りを見回しながらこちらにやってくるイザークを、ノリコも首を傾げながら見ていた。

   *************

 聳え立つ岩山の頂上から、森を見下ろす人影が一つ。
 風に靡く髪は長く、頭の上の方で一つに纏めてあるにも拘らず、その先端は背中の中ほどにまで達していた。
 渡り戦士なのだろうか、この人物もやはり腰に剣を携えている。
 少し、何か思案するように口元に手を当て、眼下の様子を眺めている。
 人が、豆粒のような大きさにしか見えないその高さから見て、一体何が分かるのだろうか。
 だが、その人物は、口元に小さく笑みを浮かべると、聳える岩山から飛び降り、姿を消していた。

                            第五話へ続く