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Sleeping beauty〜眠る君へ〜 「鳥籠の番」番外

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Sleeping beauty~眠る君へ~
「鳥籠の番」番外編

地球を美しい光が覆い尽くしたあの現象は、後に、『アクシズショック』と呼ばれる様になった。

あれから半年、私のスリーピングビューティーは未だに目を覚まさない。
あの日、私達は地球のヨーロッパのとある海岸に降下した。
Zガンダムに助けられ、無事大気圏を抜けた私達だったが、それからアムロはずっと眠り続けている。
医師によれば、マインドコントロールが解けた事による後遺症とサイコフレームの暴走により、ニュータイプ能力がオーバーロードした事が原因との事だ。
連邦によって施された強化処置は、被験者に多大な負荷を掛ける。
マインドコントロールによって、どうにか精神を安定させるが、それが解けた時、精神が耐え切れずに崩壊する事例が数多く報告されていた。
あの時、マインドコントロールの解けたアムロもギリギリの精神状態で、殆ど気力だけで正気を保っているような状態だった。
無事に大気圏を抜けた事で、安堵と共にそれまで保っていた気力が途切れたのだろう。アムロは意識を失い、そのまま眠り続けている。
医師からは、このまま目覚めず、一生植物人間状態となる可能性高いと宣告された。
また、もしも目覚めたとしても、まともな精神状態であるかどうか分からないと。
しかし、私は何故かアムロは大丈夫だと確信していた。
いや、ただ、そう思い込もうとしていただけかもしれない。
眠るアムロの手を握り、何度も何度もその心に呼び掛けた。だが、アムロから返事が返ってくる事は無かった。
信じてはいても、不安は後から後から溢れてくる。
それを必死に振り払うように、今日も私はアムロに呼びかけ続ける。
「アムロ、君の瞳が見たい、君の声が聞きたい、そして、君の笑顔が見たい…」
思わずアムロの手を握る手に力が入る。
痛いだろうに、それでもアムロは何の反応も返さない。
「アムロ…」
少しずつ心に降り積もる不安に、押し潰されそうになっていたその時、優しく私を抱き締める気配がした。
姿が見える訳ではない。しかし、確かに誰かが私を抱き締めてくれている。
それは、かつて私を支えてくれた彼女の気配。
そっと、その気配をより感じられるように目を閉じる。
「ララァ…」
『大佐…心配しないで下さい』
ララァの優しい声が胸に優しく響く。
「ああ…やはり君なのか…」
『はい…、ふふ。ようやく声が届きました』
「すまない、私は君達ほどのニュータイプ能力を持ち合わせてはいないのだ…」
『そんな事ありませんよ。大佐の能力は眠っているだけです。大佐は能力が無くても充分に生きていけるから、表面化しないだけです』
「そうなのか?」
『はい』
「それより…アムロは大丈夫なのだろうか?」
ララァの気配がアムロに伸びる気配がする。
きっと、その頬を撫でているのだろう。
『アムロの身体はとても傷付き、疲れてしまっているんです。だから、今は傷を癒し、回復する為に休んでいいます』
「傷が癒えたら、目を覚ますのか?」
『はい。ですが、まだ時間が掛かります。それ程までにアムロは疲労しているんです…』
「…そうか…」
眠るアムロの手を優しく撫でる。
『でも、必ずアムロは大佐の元に還ります。ですから、ゆっくり見守っていてくれませんか?アムロの心は私が守りますから』
「ララァ…」
ララァが優しく微笑んでいるのが解る。
「そうか…そうだな。ララァがそう言うなら、そうしよう…」
『ふふ、ありがとうございます』
そう言うと、ララァの気配がスッと消えていった。

気配が完全に消えた時、カタリと背後で物音がする。
振り向くと、カミーユがこちらに向かって歩いて来ていた。
「今のが、ララァさんですか?」
「…ああ、君にも分かったのか?」
「はい。黒髪に、綺麗な翡翠色の瞳をした不思議な人ですね」
「君にはララァの姿も見えたのか?」
気配しか感じ取れなかった自分に対し、姿まで見る事の出来たカミーユ驚くと共に、少し悔しさも感じる。
「そんな顔しないで下さいよ。ララァさんも言ってたでしょ?大尉の力は眠っているだけだって。俺は弱いから能力がより表に出てるだけですよ」
「しかしな…」
分かってはいるが、もどかしい事に変わりはない。
「それよりも、良いんですか?」
「何がだ?」
「アムロさん、今、ララァさんとデートしてますよ」
「は?」
カミーユはアムロの元まで来ると、そっとアムロの額に手を当てる。
「アムロさん、今、ここに居ません。ララァさんと刻を巡っています」
「刻を…巡る?」
「ええ、俺も前に心を壊した時、フォウやロザミィと刻を巡りました。過去から未来、色んな所を」
カミーユは目を閉じて意識を集中させる。
「今は…過去かな…」
「そんな事まで分かるのか?」
「何となくしか分かりませんけどね。とりあえず、大尉や俺の出来る事は、アムロさんがいつでも帰って来られるようにアムロさんの身体を守って、待つ事ですよ」
「待つ事…か…」
「ええ」
何の力にもなれず、ただ待つ事しか出来ない自分が不甲斐ない。
溜め息を漏らす自分に、カミーユがクスリと笑う。
「そういえば、もうすぐハロウィンですね」
「ハロウィン?ああ、そうだな」
「ただ待っているだけなのもつまらないし、俺たちも楽しみましょうか?」
「カミーユ?」

そしてハロウィン当日。アムロが入院する病院でも、小児科の子供達を中心にハロウィンのイベントが開かれた。
子供たちが仮装をし、「trick a treat」と言って各病室を巡る。
勿論病院スタッフたちも、この日は仮装をして子供達を楽しませる。
色々な病室を巡る子供たちがアムロの病室にも現れた。
ヴァンパイアの仮装をした私とカミーユが、子供たちを迎え入れる。
そして、ベッドの眠るアムロを見つけ、子供たちが駆け寄って声を上げる。
「わぁ!眠り姫だ!」
ベッドの上には、ブルーのドレスを身に纏い、薄っすらと化粧を施したアムロが眠っていた。
ご丁寧にウィッグまで被せ、周囲には薔薇の花が敷き詰められている。
「キレイね!」
子供たちが嬉しそうにはしゃいでいる。
「それにしても、アムロさんの完成度が凄いですね」
カミーユがまじまじとアムロを見つめる。
「ああ、看護師の皆が、それは楽しそうに着替えと化粧を施していた。周りの薔薇は私が手配したがな」
白と深紅の薔薇に包まれ、眠るアムロは、まさに『眠れる森の美女』だった。
「それなら大尉もヴァンパイアじゃなくて、王子様の衣装のが良かったんじゃないですか?」
「ララァが、まだまだアムロが目覚めるのは先だと言うのでな。今日はコレで充分だ」
「ああ…、なるほど。…あと…どれくらいでしょうかね…」
「さぁな…でも、ララァが大丈夫だと言っているのだから、気長に待つさ。それに、アムロが目覚めたらこんな事は出来ないからな」
プリンセスの仮装を施されたアムロを見つめ、二人でクスリと笑う。
「確かに…、自分が言い出した事ですけど、こんなに似合うと思いませんでした」
「アムロは何を着ても可愛い」
「あ〜、はいはい」
真顔で答える私に、カミーユが呆れた様に答える。