刀剣男士であいうえお小説
鶴丸国永
「雪降り積もる冬の日の話」
冷たい雪が降り積もった本丸の庭を炬燵に身を埋めながら眺める。「寒い…」と自然に声が漏れたが、その声に返答してくれる誰かは今部屋に居ない。何もする事がなく退屈で仕方ないが、この寒さでは炬燵から出る事すら億劫だ。未だ降り続く雪をただぼんやり見ていると突然背後から声がかかりビクリとする
「留守か…」
先程の声の主はあるじであった。手が空いているようならお遣いを頼まれて欲しいと言われ、とある本丸の門前に来たのだが…。扉を叩いてみたり、中に居るであろうモノを呼ぼうと声を張り上げてみたりしたが一向に反応は無く留守のようだ。しかし本丸に誰も居ないなどありえるのだろうか。
まさか何かあったんじゃないか——と不安になったその時、少し離れた所から賑やかな声がする事に気付く。門前から中は覗けないため不躾ながら門扉を開けて中の様子を窺うことにした。どうやら声は庭の方からするらしい。ここで待っていても誰かが来る気配も無さそうなので致し方ないと自分も庭へと向かう
ルール違反ですよ!と一際大きな今剣の声が響く。庭の近くまで行った所でようやく山姥切国広が自分に気づいたらしく「あんた、どこの鶴丸だ?」と話しかけられた。先日の演練でうちの加州が世話になった礼をしに来たと用件を伝えると「あぁ、あの時の」と顔を綻ばせる。ところで一体何をしているのか?
訓練を兼ねての雪合戦だ、と山姥切は答える。
「うちは仕事も遊びも全力でやるのが決まりだ。久々にこんなに雪が積もったので今日は内番も出陣も全て休みにして本丸全員対抗の雪合戦をしようと主が」
全員参加で本丸の守備は平気なのかと心配したが邪な考えがある奴は敷地内に入れなから問題無いと言う
賑やかだな…と暫く見ていると
「折角だ、あんたも混ざれ。ほら」
と背中を押され雪玉が飛び交う中に放り出される。いや、俺は…と断ろうとしたが、そーれ!と今剣が投げた雪玉が背に当たり「あと二回当てたら僕の勝ちですね」と得意げに笑っている。
「いいぜ…驚かしてやる」と俺は雪玉を手にした。
「長い時間居着いてすまない」
「いや此方こそ無理に巻き込んで悪かった」
いつのまにか雪合戦に夢中になっており気付くと夕刻を過ぎていた。雪合戦は決勝戦の最中だがそろそろ主が心配する頃だろうと先にお暇する事にした。
「楽しかった。皆にもそう伝えておいてくれ」と山姥切に言付けし帰路に就く
ガラガラと本丸の玄関の戸を開けると丁度そこに主が居り、お帰りと出迎えてくれる。「遅くなってすまない」と謝ると俺の顔をじっと見てから良い退屈凌ぎが出来たみたいで良かったと微笑む。真逆その為に——と思ったが聞くのはやめた。代わりに君に隠し事は出来ないなと言うと主はまたクスッと笑っていた
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作品名:刀剣男士であいうえお小説 作家名:香純草