忘れないでいて【前編】
忘れないでいて
ーーーああ、懐かしい気配が近付いてくる…。これは…あの人の…。
その日、クワトロ・バジーナ大尉率いる、エゥーゴのモビルスーツ隊は、ティターンズの本拠地であるジャブローを制圧する為、地球へと降下した。
そしてその頃、事前に地球に降りてジャブロー基地を偵察していたレコア・ロンド少尉は、途中から行動を共にした、ジャーナリストで元ホワイトベースクルーのカイ・シデンと共にティターンズに囚われ、ジャブロー基地の営倉へと閉じ込められていた。
「どう言う事?どうしてこの基地はもぬけの殻なの?」
「この基地は別の場所に移転されるのさ、俺たちは嘘の情報を摑まされて嵌められたんだよ」
「なんて事!エゥーゴのモビルスーツ隊はもう降下して来ている筈よ」
「何⁉︎まさか…ヤバイな。さっき兵士が言ってた核爆弾の話、嘘じゃないって事か!奴ら、エゥーゴのモビルスーツ隊ごと此処を核で爆破するつもりだ!」
「まさか!そんな事をしたら地球が汚染されてしまうわ!」
「ティターンズならそれくらいやりかねない!それで、その罪をエゥーゴに被せるつもりだ!」
「そんな!」
レコアは非道な作戦を実行するティターンズに憤りを覚えながらも、このまま此処のいては核爆発に巻き込まれてしまうと焦る。
「何とかして此処から出ないと!」
ドンドンと扉を叩いて大声で兵士を呼ぶ。
しかし、もう既に退去してしまったのか、誰も答えてはくれない。
「誰か!誰かいないの⁉︎人がいるのよ!出して!」
「おおい!誰か!ここから出してくれ!」
カイも同じ様にドアを叩くがやはり返事が無い。
「クソ!」
その時、地響きと轟音と共に壁が崩れ、その向こうにガンダムmk-Ⅱの姿が見える。
「カミーユ!」
思わず叫ぶレコアに、カイが複雑な表情でmk-Ⅱを見つめる。
「ガンダム…mk-Ⅱか…」
mk-Ⅱのパイロットが拳銃で営倉のドアを破ってくれ、外に出られたところで、もう一機モビルスーツが現れた。
金色に輝くその機体のコックピットから現れたパイロットに、カイは怪訝な視線を向ける。
「クワトロ大尉!レコアさんを発見しました!」
「良くやった!後十分で核が爆発する、レコア達はそのままmk-Ⅱのコックピットに乗れ!撤退する!」
カミーユと呼ばれたパイロットが口にした、金色のモビルスーツのパイロットの名前に、カイが眉をひそめる。
「…クワトロ大尉?」
「ええ、エゥーゴのパイロットで、この作戦の指揮を取っている人よ」
レコアの答えに、カイは更に眉をひそめる。
「エゥーゴの…パイロット…ね」
「カイさん?」
「いや、何でもない。急ごうか」
「え、ええ」
ジャブローを攻撃した際、閑散とした基地の状態に罠の気配を感じたクワトロは、早々に司令室を制圧して核の存在を確認した。
そしてエゥーゴのメンバーに取り残された基地の兵士達を出来うる限り避難させるよう指示を出し撤退させ、クワトロとカミーユはレコアの捜索に残っていたのだ。
そして、そのタイムリミットが迫っている。
クワトロはモニターに表示された残り時間を見つめ、舌打ちする。
「間に合うか?」
その時、微かに誰かの声が聞こえた。
「なんだ?子供の声?」
もう一度確認しようとしたその時、カミーユから通信が入る。
《クワトロ大尉!聞こえましたか?此処から1キロ先のハッチから入って、地下シェルターに避難しろって!》
自分には、はっきりと聞こえなかった声を、カミーユは聞き取れたのだろう。
こんな時、能力の差を感じる。
それは、ララァやアムロにも感じた事。
しかし、今はそんな事を気にしている場合では無かった。
「よし!行くぞ!」
何の疑いもなく、その指示に従う。
《はい!》
二人はその声に導かれるようにシェルターへと続くハッチに入り、モビルスーツごと移動できる大型エレベーターで地下へと潜った。
「カミーユ、大丈夫なの?」
「大丈夫です」
思わず不安の声を上げるレコアに、カミーユは迷いなく答える。
カミーユには、この声の主が嘘を言っているとは思えなかった。
そして、この声に従えば必ず助かると、何故か確信していた。
それはクワトロも同じなのだろう。カミーユの言葉に、迷う事なく頷いたのだから。
エレベーターが最下層に着いた時、爆音と共に地響きがする。
「核が爆発した⁉︎」
「その様だな」
ビクリと身体を震わせ、上を見上げるカミーユに、クワトロが冷静に答える。
しかし、このシェルターはかなり地下深くにあり、強固な造りなのだろう。
壁にはヒビ一つ入っていない。
少し移動した所で、クワトロ達はコックピットから降りて中を確認する。
「何とか助かったようだな」
クワトロの言葉に、カイがシェルターの中を見回す。
「しかし、この後どうするんだ?どうやって地上まで出る?俺たちが入ったハッチは多分使い物にならないだろう?」
「この規模の基地ならば、いくつか出口がある。モニタールームを探そう。此処の地図があるはずだ」
「そうだな」
「…こっちです」
「カミーユ?」
カミーユが、何かに導かれる様に通路を歩いていく。
「カミーユ!待って!どうしたの?」
レコアが呼び止めるが、カミーユは振り向きもせず足を進める。
そんなカミーユに、クワトロとカイは顔を見合わせると、コクリと頷いてカミーユの後に続いた。
暫く歩いて行くと、大きな扉の前に出た。
カミーユは、入り口脇にあるセキュリティゲートのパネルに向かい、暗証番号を入力する。
その行動にクワトロ達は驚きながらも、あっさりと開いた扉の中へと足を踏み入れた。
そこはモニタールームと言うよりも、研究室の様な部屋だった。
そして、その部屋の中央には、円筒形の水槽が置かれ、その中には膝を抱える様にして丸まっている人の姿が見える。
設備は動力が生きているらしく、部屋の中には照明が灯り、その水槽も下からの灯りに照らされ、中の水がキラキラと輝いていた。
「何なのあれは!」
驚きの声を上げたレコアに、カミーユがにっこり微笑みながら答える。
「彼です…俺たちを助けてくれたのは…。ゲートの暗証番号も彼が教えてくれました」
カミーユはゆっくりと近付き、水槽に触れる。すると、中の少年がゆっくりと顔を上げ、その瞳を開いた。
水槽の中にいるのは、赤茶色の髪をした少年だった。
口元には、呼吸をする為のマスクを付けて、身体の至る所に線が繋がっているが、その身には何も身に付けておらず、髪が水に揺れている。
瞼の下から覗く、琥珀色の瞳を見つめ、レコアが思わず呟く。
「生きて…いるの?」
「生きてますよ」
カミーユはそう答えると、その少年へと視線を向ける。
「貴方が…俺を呼んだんですよね?」
カミーユの問いに、少年がそっと頷く。
カミーユ達の後ろから部屋に入ってきたカイは、その少年の姿に足を止める。
そして驚愕に目を見開く。
カイは思わず水槽まで駆け寄ると、その顔を見つめて叫ぶ。
「アムロ⁉︎」
その後ろでは、同じくクワトロが驚愕の表情を顔に浮かべ、立ち尽くしていた。
「……」
「アムロって…まさか!アムロ…・レイ⁉︎」
カイの呼んだ名前に、レコアが驚きの声を上げ、水槽の中の少年を見つめる。
ーーーああ、懐かしい気配が近付いてくる…。これは…あの人の…。
その日、クワトロ・バジーナ大尉率いる、エゥーゴのモビルスーツ隊は、ティターンズの本拠地であるジャブローを制圧する為、地球へと降下した。
そしてその頃、事前に地球に降りてジャブロー基地を偵察していたレコア・ロンド少尉は、途中から行動を共にした、ジャーナリストで元ホワイトベースクルーのカイ・シデンと共にティターンズに囚われ、ジャブロー基地の営倉へと閉じ込められていた。
「どう言う事?どうしてこの基地はもぬけの殻なの?」
「この基地は別の場所に移転されるのさ、俺たちは嘘の情報を摑まされて嵌められたんだよ」
「なんて事!エゥーゴのモビルスーツ隊はもう降下して来ている筈よ」
「何⁉︎まさか…ヤバイな。さっき兵士が言ってた核爆弾の話、嘘じゃないって事か!奴ら、エゥーゴのモビルスーツ隊ごと此処を核で爆破するつもりだ!」
「まさか!そんな事をしたら地球が汚染されてしまうわ!」
「ティターンズならそれくらいやりかねない!それで、その罪をエゥーゴに被せるつもりだ!」
「そんな!」
レコアは非道な作戦を実行するティターンズに憤りを覚えながらも、このまま此処のいては核爆発に巻き込まれてしまうと焦る。
「何とかして此処から出ないと!」
ドンドンと扉を叩いて大声で兵士を呼ぶ。
しかし、もう既に退去してしまったのか、誰も答えてはくれない。
「誰か!誰かいないの⁉︎人がいるのよ!出して!」
「おおい!誰か!ここから出してくれ!」
カイも同じ様にドアを叩くがやはり返事が無い。
「クソ!」
その時、地響きと轟音と共に壁が崩れ、その向こうにガンダムmk-Ⅱの姿が見える。
「カミーユ!」
思わず叫ぶレコアに、カイが複雑な表情でmk-Ⅱを見つめる。
「ガンダム…mk-Ⅱか…」
mk-Ⅱのパイロットが拳銃で営倉のドアを破ってくれ、外に出られたところで、もう一機モビルスーツが現れた。
金色に輝くその機体のコックピットから現れたパイロットに、カイは怪訝な視線を向ける。
「クワトロ大尉!レコアさんを発見しました!」
「良くやった!後十分で核が爆発する、レコア達はそのままmk-Ⅱのコックピットに乗れ!撤退する!」
カミーユと呼ばれたパイロットが口にした、金色のモビルスーツのパイロットの名前に、カイが眉をひそめる。
「…クワトロ大尉?」
「ええ、エゥーゴのパイロットで、この作戦の指揮を取っている人よ」
レコアの答えに、カイは更に眉をひそめる。
「エゥーゴの…パイロット…ね」
「カイさん?」
「いや、何でもない。急ごうか」
「え、ええ」
ジャブローを攻撃した際、閑散とした基地の状態に罠の気配を感じたクワトロは、早々に司令室を制圧して核の存在を確認した。
そしてエゥーゴのメンバーに取り残された基地の兵士達を出来うる限り避難させるよう指示を出し撤退させ、クワトロとカミーユはレコアの捜索に残っていたのだ。
そして、そのタイムリミットが迫っている。
クワトロはモニターに表示された残り時間を見つめ、舌打ちする。
「間に合うか?」
その時、微かに誰かの声が聞こえた。
「なんだ?子供の声?」
もう一度確認しようとしたその時、カミーユから通信が入る。
《クワトロ大尉!聞こえましたか?此処から1キロ先のハッチから入って、地下シェルターに避難しろって!》
自分には、はっきりと聞こえなかった声を、カミーユは聞き取れたのだろう。
こんな時、能力の差を感じる。
それは、ララァやアムロにも感じた事。
しかし、今はそんな事を気にしている場合では無かった。
「よし!行くぞ!」
何の疑いもなく、その指示に従う。
《はい!》
二人はその声に導かれるようにシェルターへと続くハッチに入り、モビルスーツごと移動できる大型エレベーターで地下へと潜った。
「カミーユ、大丈夫なの?」
「大丈夫です」
思わず不安の声を上げるレコアに、カミーユは迷いなく答える。
カミーユには、この声の主が嘘を言っているとは思えなかった。
そして、この声に従えば必ず助かると、何故か確信していた。
それはクワトロも同じなのだろう。カミーユの言葉に、迷う事なく頷いたのだから。
エレベーターが最下層に着いた時、爆音と共に地響きがする。
「核が爆発した⁉︎」
「その様だな」
ビクリと身体を震わせ、上を見上げるカミーユに、クワトロが冷静に答える。
しかし、このシェルターはかなり地下深くにあり、強固な造りなのだろう。
壁にはヒビ一つ入っていない。
少し移動した所で、クワトロ達はコックピットから降りて中を確認する。
「何とか助かったようだな」
クワトロの言葉に、カイがシェルターの中を見回す。
「しかし、この後どうするんだ?どうやって地上まで出る?俺たちが入ったハッチは多分使い物にならないだろう?」
「この規模の基地ならば、いくつか出口がある。モニタールームを探そう。此処の地図があるはずだ」
「そうだな」
「…こっちです」
「カミーユ?」
カミーユが、何かに導かれる様に通路を歩いていく。
「カミーユ!待って!どうしたの?」
レコアが呼び止めるが、カミーユは振り向きもせず足を進める。
そんなカミーユに、クワトロとカイは顔を見合わせると、コクリと頷いてカミーユの後に続いた。
暫く歩いて行くと、大きな扉の前に出た。
カミーユは、入り口脇にあるセキュリティゲートのパネルに向かい、暗証番号を入力する。
その行動にクワトロ達は驚きながらも、あっさりと開いた扉の中へと足を踏み入れた。
そこはモニタールームと言うよりも、研究室の様な部屋だった。
そして、その部屋の中央には、円筒形の水槽が置かれ、その中には膝を抱える様にして丸まっている人の姿が見える。
設備は動力が生きているらしく、部屋の中には照明が灯り、その水槽も下からの灯りに照らされ、中の水がキラキラと輝いていた。
「何なのあれは!」
驚きの声を上げたレコアに、カミーユがにっこり微笑みながら答える。
「彼です…俺たちを助けてくれたのは…。ゲートの暗証番号も彼が教えてくれました」
カミーユはゆっくりと近付き、水槽に触れる。すると、中の少年がゆっくりと顔を上げ、その瞳を開いた。
水槽の中にいるのは、赤茶色の髪をした少年だった。
口元には、呼吸をする為のマスクを付けて、身体の至る所に線が繋がっているが、その身には何も身に付けておらず、髪が水に揺れている。
瞼の下から覗く、琥珀色の瞳を見つめ、レコアが思わず呟く。
「生きて…いるの?」
「生きてますよ」
カミーユはそう答えると、その少年へと視線を向ける。
「貴方が…俺を呼んだんですよね?」
カミーユの問いに、少年がそっと頷く。
カミーユ達の後ろから部屋に入ってきたカイは、その少年の姿に足を止める。
そして驚愕に目を見開く。
カイは思わず水槽まで駆け寄ると、その顔を見つめて叫ぶ。
「アムロ⁉︎」
その後ろでは、同じくクワトロが驚愕の表情を顔に浮かべ、立ち尽くしていた。
「……」
「アムロって…まさか!アムロ…・レイ⁉︎」
カイの呼んだ名前に、レコアが驚きの声を上げ、水槽の中の少年を見つめる。
作品名:忘れないでいて【前編】 作家名:koyuho