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忘れないでいて【中編】

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忘れないでいて



「どうして…カイさんがあの人と一緒にいるんですか?」

そう言って、クワトロを睨み付けるアムロから、カミーユは『驚き』と『恐怖』『怒り』そしてもう一つ、言葉では言い表せない思惟を感じ取る。

目の前の少年が、あの『アムロ・レイ』ならば、クワトロ大尉に…いや、シャア・アズナブルにそんな感情を抱いても仕方がないだろう。
二人はかつて、ライバルとして死闘を繰り返した関係なのだから。

アムロは、カイのシャツを握り締めながらも、キッとクワトロ大尉を睨み付ける。
そんなアムロの肩を、カイが宥めるようにそっと叩く。
「落ち着け、アムロ。やっぱりアイツはあの男なのか?」
その言葉にアムロは「え?」っという顔をしてから、カイを見上げ、コクリと頷く。
「アイツとは、俺もさっき会ったばかりで状況が良く分かっていない」
「カイさん?」
カイは、ポンポンとアムロの背中を叩くと、クワトロへと向き合う。
「クワトロ・バジーナ大尉、まだちゃんと自己紹介していませんでしたね。俺はカイ・シデン。ジャーナリストをしています。こいつはアムロ・レイ、知っての通り、連邦の軍人です」
クワトロはアムロに向けていた視線をカイに向け、スクリーングラスを外す。
「私は反連邦組織、エゥーゴのクワトロ・バジーナです。ティターンズの拠点である、このジャブロー基地を制圧する為に地球に降下してきました。この作戦の指揮を取っています」
「クワトロ…・バジーナ?エゥーゴ?ティターンズ?」
アムロは、見知らぬ名前と、聞きなれない組織の名称に疑問の声を上げる。
「まぁ、ずっとここに居たお前には、今の情勢やら状況は分からんか。とりあえず説明する」
カイは今の情勢を一通りアムロに説明すると、まだ少し混乱気味のアムロの顔を見つめる。
「お前は…多分6年から7年、ここで時を止められていたんだ」
「7年…そんなに…」
アムロは目の前の、大人になったカイの姿を見つめ、まだ小さい自分の手のひらを見つめる。
「本当に…僕は世の中から取り残されてしまったんですね…」
悲しげに呟くアムロに、カイはどう言って慰めればいいのか分からず、ただ優しく肩を叩いてやる事しか出来なかった。
「でも、いくら反連邦組織だからって…どうして貴方が連邦にいるんですか?今度は何を企んでいるんです?」
キッとクワトロを睨み付けるアムロに、クワトロが苦笑する。
「どういう事かな?」
「しらばっくれないで下さい。だって貴方は…!」
「アムロ!」
そう言い掛けたアムロを、カイが止める。
「カイさん⁉︎」
「落ち着け、その辺の事は追々聞くとして、まずはここから出たい。モニタールームの場所は分かるか?」
「え?あ、はい…」
カイの顔を見上げ、まだ何か言いたそうではあるが、立ち上がって歩き始める。
「こっちです…」
「ああ、その前に、まだ礼が言っていなかった。シェルターへ誘導してくれてありがとう。助かった」
アムロを呼び止め、礼を述べるクワトロに、アムロは少し驚いた顔をした後、視線を彷徨わせ、悲痛な表情を浮かべる。
「でも…全員を助ける事は出来なかった…。結局…彼にしか僕の声は届かなかったから…」
おそらく、この基地の兵士の何割かは取り残され、爆発に巻き込まれてしまった。
アムロはカミーユに視線を向けて、「応えてくれてありがとう」と頭を下げる。
「そんな…アムロさん。貴方が責任を感じる事じゃない」
カミーユ言葉に、「それでも…」と、小さく首を横に振る。
「えっと、君…」
「カミーユです。カミーユ・ビダン。クワトロ大尉の部下です。それから、こちらはレコア・ロンド少尉。同じくエゥーゴのメンバーです」
自分を見つめるレコアに、動揺しながらも頭を下げる。
「アムロ・レイです」
遠慮気味に自己紹介をするアムロに、レコアは自分が持っていた『アムロ・レイ』の印象との違いに驚きながらも、その素直な反応に好感を抱く。
「レコア・ロンドです。よろしく」
手を差し出して握手を求めると、アムロは少し顔を赤らめて、照れながらも応えてくれた。
「おいおい、アムロ。お前、相変わらず年上美人に弱いね!」
「カイさん!」
揶揄う様にアムロの頭を撫でるカイに、アムロがジタバタと暴れてカイの手を引き剥がす。
そして、隣のカミーユとも握手を交わす。
その瞬間、二人の間に宇宙が拡がり、意識が繋がった。
「「あ…」」
二人同時に声が上がる。
『アムロさん…これ…一体!』
周りを見回しながら、動揺するカミーユの手を握り、アムロが微笑む。
『君もニュータイプなんだね…君に、僕の声が届いて良かった』
『アムロさん…』

「おい、アムロ?」
カイが声を掛けたと同時に、二人の共感が途切れる。
「あ、すみません。行きましょう…」
目の前のクワトロに視線向けながらも、何も言葉を交わさず背を向けて歩き出す。
そんなアムロに、クワトロは小さく溜め息を吐いて、その後に続いた。

「こっちです」
研究室から出て、アムロは暫く通路を進んだ所にある、モニタールームへとみんなを案内する。
そして、誰もいないモニタールームに入ると、端末を起動させた。
閑散としたモニタールームに、カイが怪訝な顔をする。
「本当に…誰もいないんだな…。おい、アムロ。研究員達はどこに行ったんだ?」
カイの問いに、アムロが首を横に振る。
「…分かりません。でも、何日か前までは居たと思います…」
研究員達は、アムロを置いて逃げてしまったのだろうか?
貴重なニュータイプであるアムロを置き去りにするなど…。
ふと、隣を見ると、クワトロもおそらく同じ事を考えているのだろう。
端末を操作するアムロの背中を見ながら考え込んでいる。
連邦にとって、アムロの存在は貴重であり、同時に、扱いを持て余す存在でもあるのだろう。
ニュータイプは、人類の革新であり、ある意味スペースノイドの象徴なのだ。
そして、アムロの戦績を知る連邦は、アムロが連邦に仇なす組織に渡る事を恐れている。
だからこそ、逃げられない様にして、こんな所に隠す様に閉じ込めていたのかもしれない。
「カイさん、ありました。シェルターの地図です」
モニターに地図を表示させ、現在地と出口をトレースする。
それを見ながら、クワトロがルートを確認する。
「出口は四ヶ所か…。こっちの二ヶ所は多分爆破の影響で使えないだろう。そうなると、行くとすればこのBーⅡゲートかBーⅢだが…BーⅡは放射能の影響が心配か…」
「そうだな。ちっと遠いが仕方あるまい。こっちのBーⅢだな」
カイもその意見に同意して、ルートを確認していく。
そんな二人を、アムロが複雑な表情で見つめる。
『カイさんは…この人と一緒にいて平気なのかな…今は連邦の軍人って…、それに…僕は…』
そんな事を考えていると、カミーユが心配げに顔を覗き込んでくる。
「大丈夫ですか?ちょっと顔色が悪い様な…」
「え?そうかな…久しぶりに動き回って、少し疲れたかも」
「そうですか?」
そう言いながら、カミーユはアムロの前髪をかきあげると、自身の額をアムロに額にくっ付ける。
「え⁉︎」
「…熱は無いみたいですね」
「カ、カ、カミーユ⁉︎何を?」
「何って…熱を測ったんですけど…」
「あ、そ、そうなのか?」
作品名:忘れないでいて【中編】 作家名:koyuho