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忘れないでいて【中編】

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クワトロ達はモニタールームから、mk-Ⅱと百式の元まで戻り、目指すゲートへと向かう。
百式のコックピットにはレコアが、mk-Ⅱのコックピットにはカイとアムロが同乗した。

「少し狭いですけど我慢して下さい」
カミーユの言葉に、カイが「構わんよ」と返す。
アムロはといえば、自分の時代とは違う、新世代のモビルスーツのコックピットに夢中になっている。
「凄い!全天モニターなんだ…合成画像なんだろうけど、全然違和感がない」
「ええ、そうですね。合成ですけど、実際の状況とほぼ変わらない映像が表示されます。これは…」
と、カミーユが専門的な説明をするのを、アムロがコクコクと頷きながら聞いている。
「凄いねカミーユ!それに、コックピットの中が凄く静かだ。コックピットに衝撃が伝わらない様に球体になってるのか…」
目を輝かせるアムロに、カイが苦笑を漏らす。
「俺たちが乗ってたのは正に初期の機体だからな。コックピットは狭苦しいし、衝撃もモロに食らったから、ベルトで固定しなきゃ、シートから吹っ飛ばされる。ベルトをしてても凄い衝撃だった。お陰で出撃の度に全身痣だらけだ。俺なんて、七年経った今でもベルトの痕が肩に残ってるぞ」
「ははは、でも、なんだか不思議だ…こんなとこで時代の流れを感じる…」
アムロにとって、そのコックピットはつい最近まで乗っていたものなのだ。感覚的には一年くらいしか経っていない。
しかし、現実には七年もの年月が経っていて、技術も飛躍的に向上していた。
「良いじゃねえか。これからお前もこの時代の流れに乗れば良いんだよ」
前向きな言葉を掛けてくれるカイに、アムロが微笑む。
「…そうですね…」
「カミーユは今、いくつなんだ?」
「え、俺ですか?十七歳です」
「それじゃ、今のアムロと同い年か一個上って事か!メカオタ同士、良い友達になれるんじゃないか?」
「カイさん!」
「ははは、良いだろ?」
「俺は嬉しいです。アムロさん」
「カミーユ…」

そんな会話を、密かに通信を繋げていた百式のコックピットで、クワトロとレコアが聞いている。
「ふふふ、アムロ・レイが、あんなに可愛い子だとは思いませんでした」
「可愛いなどと言ったら、彼が怒るぞ」
「でも、大尉もそう思ったでしょう?戦時中は直接彼に会ったことはあるんですか?」
ライバルとは言え、モビルスーツで戦う敵軍のパイロット同士だ。
装甲越しには何度も対峙したとしても、直接会う事などそうそう無い。
「…二度…あるな」
「二度も?」
「ああ、一度目は、偶然、中立コロニーで。その時は、彼がガンダムのパイロットだとは知らなかった。二度目は、互いの機体が大破した後、白兵戦で直接戦った」
「白兵戦?あの子と?」
「ああ、彼の見た目に惑わされると痛い目にあう。彼は、『連邦の白い悪魔』と呼ばれた最強の兵士だ」
クワトロはそっと額の傷に触れる。
「白い悪魔…。噂では聞いた事がありますけど…想像出来ませんね。でも、カミーユと共鳴したあの感覚。やはりニュータイプ同士は繋がり合い易いのでしょうか?正直、ちょっと…驚きました」
「ああ…」
かつて戦場で、アムロとララァが共鳴したのを見た。
二人は共鳴し、共感し合い、溶け合っていた。
自分には入り込めない領域に、酷く嫉妬した。


◇◇◇


《クワトロ大尉、ポイント1に着きました》
カミーユからの通信に、クワトロは思考に耽っていた意識を戻す。
「了解だ」

出口に着くまでには、いくつもの開閉式ゲートを通らなければならない。
ゲートは、モニタールームで入手したパスコードを入力して開閉する。
mk-Ⅱのコックピットから降りたアムロが、ゲート横のパネルにパスコードを入力する。
「OKです。開きます」
オープンボタンを押すと、ゴゴゴっと音を立ててゲートが開いていく。
ゲートの向こう側は、整備ドックになっていて、通路の左右にはモビルスーツや、戦闘機が並んでいた。
《ご苦労様です、アムロさん。マニュピレーターに乗ってください》
スピーカー越しにカミーユの声を聞き、頷いてマニュピレーターに乗ろうとした時、アムロの目に懐かしい機体が映った。
「カミーユ、ごめん。ちょっと待って」
そう言うと、アムロはその機体に向かって駆け出した。
「アムロさん?」
そこに在ったのは、ボロボロのコアファイターだった。
コックピットのハッチは外れ、シートが剥き出しになっている。
「これ…」
機体番号を確認し、それがかつてアムロが乗っていたRXー78ー2『ガンダム』の一部であったコアファイターだと分かると、アムロはコックピットに立て掛けてある梯子を登って中を確認する。
「まさか回収されてたなんて…」
あの時、このコアファイターから零れ落ちる様に降りて、ホワイトベースの仲間の待つランチへと手を伸ばした。
推力を失ったコアファイターは、そのまま流れる様に地球に向かって飛んで行った。
コックピットを覗き込み、メインコンピュータのデータボックスが取り出されている事を確認する。
「僕の戦闘データが欲しかったのか…」
アムロはシートに座り、目を閉じる。
あの時、このコアファイターが自分の命を救ってくれた。
おそらくこれを設計した父は、パイロットの生存率の向上というよりも、データの回収の為にコックピット部分を分離し、単独飛行出来るようにしたのだろうが、それでも、それが自分を救ってくれた事は事実だ。
「…父さん…」
「まさか、こんな所にコアファイターが保管されているとはな」
カイが梯子を登ってコックピットを覗き込む。
「ええ、驚きました」
カイはアムロの心情を悟り、ガシガシと頭を撫でる。
「カイさん!」
「お前がどう思っているかは知らないが、親父さんのお陰で、お前や俺たちは助かった。それでいいだろう?」
その言葉に、アムロは少し涙を浮かべ、コクリと頷く。
「…そうですね…」
コックピットから降りると、カミーユやクワトロもそれぞれのモビルスーツから降りて、コアファイターを眺めていた。
「これ…当時の機体なんですよね…」
カミーユが感慨深げに見上げる。
「うん…」
カミーユの隣に立つクワトロに、アムロが視線を向ける。
あの決戦で戦った機体に思うところがあるのだろう。クワトロも、じっとコアファイターを見つめていた。
「頭部も、左腕も、脚も貴方に破壊されて、この部分しか残りませんでした」
アムロが戯けながら言うと、クワトロがクスリと笑う。
「メインカメラを壊しても、腕を奪っても君は怯まず向かってきたな」
「どうしても、貴方に勝ちたかったんです」
「私もだ」
互いに笑う二人に、レコアは不思議なものを感じる。
『この二人には、何か切っても切れない絆を感じる…。敵同士だったのに…何故かしら…』
「さぁ、名残惜しいが、そろそろ移動しよう」
「はい、時間をとらせてすみません」
「構わんさ」
そう言って歩き始めた刹那、アムロの身体がグラリと揺れる。
「アムロ⁉︎」
そして、そのままクワトロの腕の中に倒れ込んだアムロは意識を失ってしまった。

「アムロ⁉︎」


to be continued...

作品名:忘れないでいて【中編】 作家名:koyuho