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章之記

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平章は、子供の頃から悩まされていた。
知りたかったが、知る事は恐ろしいのだ。

父、簫庭生は、平章を認め、誰よりも信頼をしている。
『家は長子が継ぐべし』
分からないでもないが、柔軟に対応出来ぬ父では無い。
──これ程反対されながら、何故、私を長林世子になど、、、。──


──初めて聞いたのは何時だったろう、誰の口からだったろう、、
私は長林王との、血の繋がりが無いのだと、、、。──

周囲の反対を押し切り、父は平章を長林世子にしようとしていた。
周りが、大反対するのを目の当たりにし、平章は、心にあった疑念が、、、
「自分は長林簫家の血筋をひかぬ」
と、かつて耳に入れたその事が、一層、湧き上がるのを感じたのだ。
物心付いた時に、長林王妃が自分の生母では無い事は、聞かされていた。
だが、父親はこの長林王なのだと思っていたのだ。
、、、、所が、、、、。
そう耳に入ると、些細な事が常に気にかかり、、。
人のちょっとした仕草や、ほんの少しの言葉尻の変化、そんな所に人の真意を感じ取る様になってしまった。
相手に悪意など、微塵も無いのは分かっているのだが。
こんな癖がついてしまったのは、決して誰のせいでもない。
自分の生い立ちという運命なのだろう。
世子に推された事に、反対する言葉だけでは無く、反対する者の語気や仕草に、その者の心を感じてしまい、ただ傷付いた。
その者は、長林王府や、父母の事を案じて、善意で言っているだけなのだから。、、、その者達に全く罪は無い。
弟の平旌ならば、皆、納得して賛成するのだろうに、、。
何故、父庭生は、、。
これ程反対され、平章が傷付いているのも、庭生は知っている。
それでも、頑なに、父庭生は平章を推すのだ。
否が応でも、人の言葉は平章の心を突き刺す。諍いは嫌だった。世子になりたいとは、全く思っていない。
何なら長林王府を出て、ずっと長林軍で暮らしてもいいのだ。
自分が原因で、父と周りに摩擦が起こるのを見たくない。

「世子になりたくない。」
夕餉も終わり、静まり返った王府の、長林王の部屋に、神妙な面持ちの平章が、座していた。
父が、考え直すようように、説得されている場面にも、幾度か出くわした。
平章は、流石にいたたまれなくなり、父、庭生にそう言った。
父は平章に理由を聞いた。
平章は何も答えられなかった。
幾らかの沈黙の後に、父が問う。
「誰かに、何かを吹き込まれたか?。」
そう言って、じっと平章を見つめるのだ。
強く優しい、父、庭生の眼。
そして暫しの沈黙。
心に疚(やま)しさがあって、この父の視線に耐えられる者はいない。
、、、、だが、、平章には理由を言えない。
誰もが口篭(ごも)って、表立って言わない理由を、自分が言えば、父が傷付く、、。
庭生は、子供のように純真な所があるのだ。

じっと平章を見つめた後に沈黙のを破り、父が話し出す。
「平章、私の身の上を知っておるだろう?。」
「、、、はい。」
「私は掖幽庭の奴婢だった。奴婢として、生涯を終える筈だったが、思いがけず、蘇哲先生に見出され、掖幽庭から救っていただいた。」
子供の頃から、平章も平旌も、幾度も聞いた話だった。
「掖幽庭は知っている通り、尊い身分の者が罪を犯し、その家族や、王府の婦子女が収監される。
私の母は、元々、陛下の長兄である祁王府の侍女であったそうだ。
祁王は奸臣の策によって、命を失った。
陛下が尊敬し、手本とした兄だと言うが、今は王族でも、知る者は少なくなった。
周りの者はあれこれと、私の父親を詮索するが、今も父親は分からぬ。」
どこか遠くを望むように、父は話を続ける。
「陛下が私を養子にする際、当然、反対が起こった。
それもそうだ、父親が誰かも分からぬのだ。
当時、まだ成人しておらず、まだ何も分からぬ子供であった。
ただ陛下の言う通りに働き、役に立つのが嬉しかったのだ。
私には身に余る話だった、諍いは望まぬ。陛下の養子になぞ、そもそも望んではいなかったのだが。
陛下には幾度も考え直すよう、申し上げたのだ。私如きの為、陛下と朝廷との、諍いが起こると、、。
どのような立場に置かれようと、国に尽くそうという心には変わりがない。私の更なる忠義を引き出すための養子の話ならば、無意味だと、、、。ただの一介の民であろうが、養子を受け皇子となろうが、私の陛下と皇太子への忠誠は、増えもしなければ減りもしない。何も変わらぬのだからな。
そしてそれは、この国の民への忠誠でもあるのだ。
掖幽庭で生まれた子に、、恐れ多い。
あれ程、周囲に反対されながら、強引に私を養子にしたのだ。」

父は声音を低くし、静かに続けた。
「そしてここだけの話だが、陛下は驚くべき話を私にしたのだ。
政と軍事は対等であるべきだと、どちらか欠け、著しく力を削がれたりしてはならぬと。どちらも同程度の力を持っておらねば、国の中が乱れ、国は倒れると。」
「はい、私も陛下からよく伺いました。」
父は満足そうに頷く。
「陛下は、お一人でこの二つの力をお持ちだ。お一人でこの大梁を背負ってこられたのだ。
陛下の治世の手腕は、若い時代の苦労より学ばれたものだ。
陛下は幼い頃より長兄より治世を学び、成年王族となってからは、辺境の平定に当たられた。」
「はい。」
「だが、残念ながら、平章も知っての通り、陛下の長子である皇太子殿下は軍事に疎い。」
「はい。」
「陛下は四十年も前にそれを見抜き、私にこの国の軍務を担わせたのだ。」
「陛下はそんなに前から、、、、。」
また、ゆっくりと父は頷く。
「まだ、殿下も私も子供に過ぎぬ。殿下はまだ幼かった。将来、皇太子殿下が、軍事に興味を示すかも知れぬと言うのにだ。いくら何でも性急すぎる。私はそう、陛下に申し上げた。
だが、陛下の見立て通りに、殿下は軍事に興味が無いのだ。」
「平章、陛下は何故、まだ幼い殿下の資質が分かったのか。」
「??、何故ですか?。」
「子の親となった、今にならばわかる。
それは、陛下が殿下の親だからだ。
だが、当時は分からなかった。私が殿下の将来の可能性を潰してしまったようで、只々、申し訳がなかった。
しかし、時が経ってみると、我々は陛下の言われた通りになったのだ。殿下は軍事的な事は分からぬ。そして私は、朝堂のことはからっきしだ。
私は幸い、北の国境を任され、配下に恵まれ、力を発揮できた。
陛下と殿下に信頼をいただいて、私は長林軍を任されている。
陛下の御世に続く、次代の世が、同じ様に平和である様に、政を行う皇太子殿下と、私の統べる長林軍が同等の力を持つようにと。
私に二心が無い事を知っておられ、信頼してくださるのだ。
その信頼に応えたい、そう思ったのだ。」
平章は目を閉じて聞いていた。
父の姿が、自分と重なりかけていた。

「平章、私はお前の資質は分かる。そして平旌の資質も。
お前達の親なのだからな。世子を背負うのは、お前が相応しい。」
「、、ですが、、自信が無いのです、父上、、。
平旌の可能性も、まだ分からぬのです。世子の件は、もう少し先延ばしにしても、遅くは無いかと、、、。」
「世子には、国に尽くそうと志す者が相応しいのだ。
お前と平旌を比べても、それは一目瞭然である。
作品名:章之記 作家名:古槍ノ標