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忘れないでいて【後編】

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「…そうですね。ニュータイプと言っても、十六歳の子供に変わりはないのに、酷すぎます」
「そうだな…」
「それにしても、こうして見る限りは普通の少年にしか見えませんね」
「ふふ、しかし、いざガンダムに乗れば、凄まじい力を発揮する。元々あった工学知識により、モビルスーツの性能を最大限に引き出す事ができ、それに加えてニュータイプ能力による感知、身体能力も優れているのだろう。でなければ、ああもモビルスーツを上手く操作はできまい」
「大尉がそこまで言うなんて…」
「彼は、それほどのパイロットだよ」

◇◇◇

その後、いくつかのポイント地点を超えたところで、突然アムロが顔を上げて叫ぶ。
「止まって!」
カミーユも何かを感じたのだろう。
Zの歩みを止め、クワトロに通信を送る。
「クワトロ大尉、止まって下さい」
《どうした?カミーユ》
「分かりません、でも、嫌な感じがします。何か罠があるかもしれません」
《罠?アムロ、何か分かるか?》
クワトロがアムロに確認すると、アムロが周囲を見渡す。
「…正面右…罠が仕掛けられています。赤外線センサーに触れると爆発する様になっているみたいです」
《そんな事も分かるのか?》
「いえ、罠の気配のある所を見たら、センサーが見えたので、おそらく爆弾かなと…」
《なるほどな。解除出来るか?》
「多分」
アムロは、カイに支えられながら、コックピットから降りると、カミーユも一緒に罠のある場所へと行く。
そして、センサーの奥を覗き込むと、爆弾が見えた。
「やっぱり…」
アムロは、Zガンダムの中にあった簡易工具箱を開けて爆弾を解体し始める。
それを、カミーユも覗き込んで一緒に解体していく。
「メカオタが居ると、こういう時助かるねぇ」
同じくコックピットを降りてきたクワトロに、カイが話し掛ける。
「頼もしいな」
「まぁな。それより、あんたも気が付いてるんだろ?」
「何の事だ?」
「とぼけるな」
カイはギロリとクワトロを睨み付ける。
そんなカイに、小さく溜め息を吐くと、クワトロはデータチップを手渡す。
「これは?」
「モニタールームで見つけたデータをコピーした。内容を見れば分かる。まぁ、君の事だから、ある程度は予想しているだろうが…」
「まぁな」
カイはモバイル端末にチップを差し込み、データを確認する。
「……」
その内容は、カイが予想していた事と大体一致していた。その事に、一度大きく息を吸い込み、目を閉じる。
「…そうか…」


◇◇◇


罠を解除し、先を進んだクワトロ達は、出口の直ぐ手前のポイントで、夜明けを待つために休息を取ることにした。
「出口ゲートの周囲はジャングルだ。闇夜に隠れての移動も考えたが、ジャングルでの夜間移動は危険を伴う。夜明けを待ってゲートを出よう」
クワトロの提案に、カイも同意する。
「そうだな、どうせアイツらは俺たちが核でやられたと思ってるだろうし、問題無いだろう」


クワトロが百式のコックピットで休息を取っていると、ハッチをコンコンとノックする音がする。
ハッチを開くと、そこにはアムロが居た。
「どうした?」
「…えっと…少し…話がしたくて…」
「入りたまえ」
アムロはコクリと頷くと、ゆっくりとコックピットに入る。
「体調は大丈夫か?」
「あ…まだ…怠いです」
「そうか」
そう言うと、クワトロはシートにアムロを座らせる。
その動きだけでも辛いのか、シートに座ると、大きく息を吐く。
「えっと、すみません」
「構わんよ」
クワトロはスクリーングラスを外すと、優しく微笑む。
不意に見せられたその笑顔に、アムロはドキリとする。
『この人、こんなに綺麗な顔してたんだ…。そうか、セイラさんのお兄さんだもんな』
「それで?話とは?」
「…あの…どうして…連邦に居るんですか?やっぱり、スパイとして潜入しているんですか?」
戸惑いながらも、真っ直ぐと見つめてくる琥珀色の瞳に、クワトロは目を細める。
「直球だな」
「誤魔化したって仕方がないでしょう?」
「そうだな。私は戦後、ジオンの残党と共に、アステロイドベルトのジオンの要塞に居た。正直、ジオンに未練がある訳では無かったが、部下を見捨てるわけにもいかなかったのでな」
「アステロイドベルト…」
「地球から遠く離れ、半ば世捨て人の様な生活をしていた。しかし、そこである人物に会って、言われたのだよ。ジオンだけではなく、スペースノイドを連邦の支配から解放して欲しいと」
「ある人物?」
「アクシズの提督、マハラジャ・カーンだ。彼は、ジオンだけでなく、広い視野で世界を見ていた。そして、私の素性に気付いた彼は、私に、父、ジオン・ズム・ダイクンが目指したスペースノイドの理想を託した」
「スペースノイドの解放?」
「ああ。実際に、ジオンの残党討伐という名目の元、ティターンズはスペースノイドを弾圧していた。そして、その過激な行動は、連邦内部にも亀裂を生み、ブレックス准将はエゥーゴを立ち上げた。その彼からの打診により、私は連邦軍籍を手に入れ、連邦へと潜入した」
それを聞き、アムロは暫く言葉を失う。
「アムロ?」
「…凄いですね…僕とは全然違う…英雄だ、なんだって言われても、僕はそんな事を考えて戦っていた訳じゃない。ただ、死にたくなかっただけ…仲間を守りたかっただけだ」
アムロは膝を抱え、顔を伏せる。
「僕なんて、戦争が終わったら、ただ、厄介なだけの存在で…」
「そんな事はない!」
「シャア?」
「それに、私とて、理想だけの為に動いていたわけではない。連邦に入れば、君を見つけられると思った。そんな個人的な思惑もあった」
「僕を?」
「ああ、もう一度、君に会いたかった」
クワトロはアムロの両肩を掴み、真っ直ぐとアムロを見つめる。
その青い瞳に、アムロはドキリとする。
「シャ、シャア?」
「私を追い込み、大切なものを奪った君が、許せなかった。しかし、君と戦う度、パイロットとしての心が高揚した」
それは、アムロも同じだった。
初めこそ、何度も死にそうな目に遭い、対峙するのが怖かったが、いつしか負けたくないと、勝ちたいと思うようになった。
そう、シャアは自分の目標となっていた。
作戦を遂行する事を優先しなければならないと思いながらも、戦場に出れば、いつも赤い機体を探していた。
しかし、シャアの大切なララァを自分は奪ってしまった。
殺すつもりなんて無かった。
彼女は、魂の半身だった。
そんな彼女を、自分はこの手で殺してしまった。
自分の取り返しのつかない過ちに、心が引き裂かれそうだった。
シャアがララァを戦争に引き込んだのが悪いのだと、必死に自分の過ちを正当化しようとした。
そうしなければ、戦えなかった。
シャアは、黙り込んでしまったアムロの顎に指を添え、上向かせる。
そして、涙の潤んだ琥珀色の瞳を見つめる。
「アムロ?」
「やっぱり…僕は…生きてちゃいけないのかもしれない…また…ララァみたいに、大切な人を殺してしまうかもしれない」
ハラハラとアムロの瞳から涙が溢れる。
そんなアムロを、シャアが優しく抱き締める。
作品名:忘れないでいて【後編】 作家名:koyuho