花と犬
「銀時、左手を出せ」
落ち着かない気分のまま、桂は命じた。
銀時は言われたとおりに左手を桂のほうに差しだす。
その手を桂は取った。
「嫁とかそういうことは無理だ。でも、このぐらいだったら、いい」
そう告げたとたん、銀時の左手に力が入った。
つないだ手を強い力で引っ張られる。
身体ごと引き寄せられる。
「ここまでしていいとは言ってない!」
銀時の腕の中で桂は抗議した。
すると、銀時は桂を拘束する腕の力を抜いた。
至近距離から桂の顔をじっと見る。
「どうしても、ダメ?」
そう問いかけてくる。
その声も、その眼も、どこか悲しげだ。
まるでご主人様から怒られてしゅんと落ちこんでいる犬のようだ。
うっ、と桂はまた内心うろたえる。
可愛いと思ってしまった。可愛いというような外見をしていない銀時のことを、なぜか可愛いと思ってしまった。
可愛くて、可愛くて、胸がきゅんとなる。
そして。
「どうしてもっていうほどじゃ……」
つい、そう言ってしまう。
「じゃあ、いいんだな!」
急に元気をとりもどして、銀時は桂を抱き寄せる。
どうしてそうなるんだっ、と桂は胸のうちで叫ぶ。けれど、それを口にするのはやめておく。押し返そうともせず、おとなしく抱かれておいてやる。
暑い、と桂は感じる。
ただでさえ暑いのに、こうして腕に抱かれて身体が触れあっているのだから、いっそう暑い。ふきだした汗が肌の上を流れ落ちるのを感じる。
銀時もひどく暑いだろう。
しかし、こうしていると見えないが、きっと嬉しそうな顔をしているだろうと思う。
そして、その尻のあたりで、眼には見えない尻尾がぱたぱたと振られているような気がした。