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忘れないでいて【番外編】

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忘れないでいて【番外編】



その日、アッシマーとの戦闘で、苦戦を強いられていたクワトロとカミーユの前に、輸送機が猛スピードで突っ込んできた。
輸送機は、アウドムラの艦橋に狙いを定めていたアッシマーを見事に追い払い、危機から救ったのだ。
粉々に割れた、輸送機のフロントガラスから飛び出したパイロットを見つけ、カミーユは目を見開く。
「人が…!」
パラシュートで空を舞うパイロットを、ガンダムMK-Ⅱのマニュピレーターで受け止める。
そして、その人物をモニター越しに見つめる。
夕陽に照らされ、その輪郭はボヤけているが、揺れる赤茶色の癖毛に「まさか」と、カミーユは息を止める。
もっと間近で確認しようと、コックピットのハッチを開いてのりだす。
そして、その人物が、自分が思っていた『彼』だと確信する。
しかし、『彼』が自分が知っているよりも、随分と年上である事に気付き、一瞬、躊躇する。
それでも、無事を確認しようと声を掛けた。
「ご無事ですか?」
カミーユの問い掛けに、パラシュートを切り離した『彼』が視線を向ける。
「ああ、ありがとう。大丈夫だ。」
自分が知る声よりも、大人びた声や口調に戸惑いながらも、思わずその人物の名を呼んだ。

「アムロさん…?」

同じく、輸送機が直ぐ横を通り過ぎた時に、パイロットが誰なのかを直感したクワトロは、モニターを拡大表示させ、MK-Ⅱのマニュピレーターの中にいる人物を確認する。
「…アムロ…」
やはり彼は生きていた。
その事実に、操縦桿を握る手に力が篭る。
「アムロ…アムロ・レイ!…」


アウドムラに着艦したガンダムMK-Ⅱのマニュピレーターから、アムロがゆっくりとドックへと降り立つ。
するとそこには、カミーユから連絡を受けたハヤト艦長と、ジャブローから乗艦していたカイ・シデン、そしてレコア・ロンドが待っていた。
輸送機からホモアビスで脱出していたカツも、先にアウドムラへと降り、ハヤトの横にいる。
「アムロ!」
懐かしい戦友の名を、ハヤト艦長が呼ぶ。
するとアムロも、はにかんだ笑顔でそれに応えた。
そして、カイとレコアの顔を、複雑な表情で見ている。
「よう!アムロ。元気そうだな」
「カイさん…」
「なんだ?変な顔して!」
「いえ…夢じゃなかったんだなと…思って」
「夢?」
「あ、いえ…」
「ははは、やっぱりお前だったのか!まぁ、詳しい話は後で落ち着いてしようや。それよりも、向こうでお前を待ってる奴らがいるぞ」
カイが指差す方を見ると、カミーユとシャアが立っていた。
「あ…」
シャアの姿に、ドクリと心臓が高鳴る。
「カミーユ…、シャ…クワトロ大尉…」
「アムロさん!俺の事分かるんですか!」
嬉しそうに微笑むカミーユに、釣られてアムロの顔にも笑みが浮かぶ。
「ああ、あの時はありがとう」
「そんな!お礼を言うのは俺たちの方ですよ!」
カミーユと握手を交わしながらも、アムロの心は隣のシャアに向いていた。
『やっぱり…夢じゃなかった…』
シャイアンを脱走して、ハヤトと合流すれば、シャアに会うかもしれないとは思っていた。
だが、あの事が夢では無かったという保証も無く、時間が経つにつれ、やはり夢だったのではないか?との不安もあった。
しかし、カイやレコア、カミーユの姿に、あれが本当にあった出来事だったのだと確信する。
そしてそれと同時に、シャアからの告白と、キスが脳裏に蘇る。
アムロは思わず口元を手で隠し動揺する。
『シャアは…本当に俺の事を…?』
「輸送機という、戦闘能力の無いもので、あのモビルアーマーを退けるとは、流石はアムロ・レイだな」
そんなアムロの心情を知ってか知らずか、シャアがそんな事を言ってくる。
「そんな…まぐれだ…」
シャアの顔をまともに見れず、戸惑いながらもどうにか答えた。
「立ち話もなんだ。ブリッジに上がろう」
ハヤトの一言で、何とかその場はやり過ごしたが、その後、充てがわれた部屋へと行き、ジャケットを脱いだところで、誰かがドアをノックした。
ドアを開けなくても、気配でドアの外にいるのが誰だか分かる。
アムロは小さく深呼吸をして、意を決すると、ドアを開いた。
そこには、思った通り、金髪に赤い制服、スクリーングラスの男が立っていた。
「入っても?」
男の問いに、戸惑いながらもコクリと頷く。
部屋の中へと促し、ドアを閉めると、いきなり抱き締められた。
「わぁっ」
突然の事で、思わず声を上げてしまう。
「いきなり何だ!離せ!」
しかし、その手は緩むどころか更に強くなる。
「シャ、シャア!苦しい」
流石に苦しくて、抗議の為にシャアの背中を叩くと、少し力が緩んだ。
が、ホッとしたのも束の間、今度は顎を掴まれ、唇を塞がれた。
「ん!んんんん」
咄嗟の事で、抵抗する事も出来ず、唇の隙間から舌を捻じ込まれ、上顎を撫でられ、舌を絡め取られる。
呼吸をも奪うような激しい口づけに、初めはただ驚くばかりで、為すがままになっていたが、次第にぞくりとする様な快楽が生まれ、気付けば自ら舌を絡め、シャアを求めていた。
長い口づけに、段々と力が抜け、ガクリと膝が折れる。
しかし、力強い腕に支えられ、どうにか床に座り込む事は無かったが、そのままベッドに押し倒された。
漸く唇が離された時には、アムロの意識は朦朧とし、生理的な涙で潤んだ琥珀色の瞳でシャアを見上げていた。
「シャ…ア…」
そのアムロの蕩けた表情に、シャアの心臓がドクリと高鳴る。
「アムロ…本当に…アムロなのだな…」
アムロの存在を確かめるように、柔らかな癖毛を撫で、頬に手を添え、温もりを確かめる。
あの日、次第に冷たくなっていくクローンの亡骸に、アムロ本人ではないと分かっていながらも、遣る瀬無い想いと、失う事への恐怖が込み上げた。
「ああ…本物の…俺だよ…」
アムロは、頬を撫でる大きな手に、自身の手をか重ねる。
「そうか…」
ホッとした表情で、自分を優しく見つめるシャアに、アムロが笑顔で答える。
「貴方に会いたくて…シャイアンを脱走してきた」
「嬉しい事を言ってくれる」
「貴方が言ったんだろう?また会えるって」
「ああ、そうだな」
そう言いながら、もう一度触れるだけのキスをする。
「大人になった俺を見た感想は?」
「十六歳の君も良かったが、今の君も最高だ」
「なんだよそれ」
「これならば、最後まで出来そうだ」
シャアの言葉に、一瞬何を言っているのか分からなかったが、その意味を理解して、アムロの顔がボンっと赤く染まる。
「なっ⁉︎」
「流石に十六歳の君は壊してしまいそうで手を出せなかったが、今の君なら大丈夫そうだ」
ニヤリと微笑みながら、アムロの服の中に手を入れる。
「ちょっ!シャア!」
暴れるアムロの腕をシーツに縫い付け、シャアが首筋にキスをする。
そして、耳元でそっと囁やく。
「君が欲しい。…嫌か?」
バリトンの、腰に響く様な良い声に、ぞくりとする。こんな声で囁かれて、「No」と言える人間がいるのだろうか。
アムロは小さく息を呑んで、首を横に振る。
「では…いいか?」
その問いに、戸惑いながらもコクリと頷いた。
「ありがとう…」

作品名:忘れないでいて【番外編】 作家名:koyuho