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はろ☆どき
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今宵、柊の木の下で会いましょう

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※※※冒頭部より※※※


 その時エドワードは、セントラルシティに滞在していた。年に一度の国家錬金術師の査定に提出する、研究レポートを作成するためである。
 レポート自体は他の場所で書いてもよかったのだが、今回が資格を得てから初めての査定なのだ。必要書類を揃えたり、不明な点を確認するのに何かと都合がよい。それに参考文献の調達のことを考えると、品揃えの点でもセントラルシティが一番適している。
 自分達にとって、特に居心地がよいというわけでもない都市に敢えて滞在する理由を、弟にはそう言い通した。
「でもイーストシティだったら、査定のことは同じ国家錬金術師の大佐に直接聞けるし、文献だってセントラルにいるよりよっぽど便宜を図ってもらえるんじゃない?」
 弟の主張は至極もっともだった。実はエドワード自身もそう思っている。
「大佐は軍職に就いてるから特別待遇で、軍属の国家錬金術師とは査定の仕方も違うんだって前に言ってたぜ。それに文献を用立ててもらったら、レポートの内容がバレるじゃねーか」
 査定で国の錬金術機関に提出するレポートは、有用な内容であればいずれは公表される。それにもし、提出前に内容を知ったとしても、ロイは成果を横取りするような真似などしないだろう。そんなことをするほど、自分の研究内容に興味があるとも思えない。そうは思うのだが。
 アルフォンスは今一つ納得のいかない様子だったが、イーストシティでなければならない理由もなかったので、それ以上は突っ込んでこなかった。エドワードは日頃からイーストシティ――というより東方司令部に近づきたがらなかったので、いつものことと諦念したのだろう。
 イーストシティは都市部の中では、文献の品揃えはかなりよい方だ。錬金術関連のみならず、他の分野についても広く取り揃えられている。それに日頃拠点としているだけあって、便宜を図ってもらうには確かに便利だろう。
 だがエドワードにとって、それこそがネックだった。便宜を図ってくれる相手は、当然のことながら後見人であるロイ・マスタング大佐だ。彼を頼ることはできる限り遠慮したい。またそうでなくともイーストシティにいる限り、彼の存在を感じずに過ごすことは難しいだろう。それはエドワードにとって非常に嬉しくない環境なのだ。
 何故なら、エドワードはロイに想いを寄せていたから。通常なら異性に対して感じる恋慕の情――いわゆる恋愛感情を、ロイに対して抱いていたのである。
 しかも、前回イーストシティ訪問時にロイへ告白し、見事玉砕したばかりだった。



 さらさらと紙にペンを滑らせる音が、絶え間なく聴こえてくる。彼のところまで回ってくる書類は、基本的に司令官の決裁を承認する意のサインのみでよいはずだ。そのペンの音が途切れないということは、書類の中身は碌に見ず、機械的に署名を書く手を動かしているということだろう。
 エドワードはふと、執務机に座るロイを見た。紙を捲ってはサインし、決裁済みのボックスへ放り込むと、また次の書類を捲ってすぐにサインする。その繰り返しだ。
「そういうのって、内容確認しなくていーもんなの?」
 急ぎの決裁が終わるまで少し待つよう言われ、大人しく来客用ソファーに座っていたエドワードだったが、他にすることもなく手持ち無沙汰になっていた。ホークアイが入れてくれたミルクティーも、とっくに飲み終えてしまった。
「大抵の案件は、私のところへ回ってくる前によく吟味されているからね。どんな案件が進捗しているかは定例報告で聞いているし、必要なら個別に相談を受けている。だから案件名を見れば、だいたい内容はわかるんだよ」
 ロイはちらと顔をあげたが、サインの手を止めないままエドワードの疑問に答える。
「へえ」
 こんなに山積みの案件を全て把握しているのか? さすがは東方司令部の実質の司令官というところか。
「まあ、こういう急ぎの書類は、ホークアイ中尉が選り分けてくれているのだがね」
 目を丸くして感心しかけたエドワードは、ロイのネタばらしにがっくりした。
「なんだよ。それじゃ、中尉が全部の案件を把握してるってことじゃね?」
「そうとも言うな」
 ははは、とロイは呑気に笑っている。ムカつく。
「だが期日までまだ間があって、サインだけすればよいような書類は後回しにしている。可及的速やかに対応が必要な案件から片付けるようにしているんだよ。これでも」
「それで司令官が現場に出張るは、隙あらばサボるはで、決裁書類が溜まりまくってる訳だ。納得」
「む……」
 ロイが口をへの時にして唸ったので、エドワードはちょっとだけ溜飲が下がった。軍の上の方からは若造などと言われることもあるようだが、エドワードからすればロイは大人以外の何者でもない。だが、こうしてたまに大人げない表情なんか見せられたりすると。
 やっぱり好きだなあと思う。そうしたら自然に……口をついて出てしまったのだ。言葉が。
「大佐。オレ、あんたのこと好きだ」