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忘れないでいて【If】

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忘れないでいて【if】


「忘れないでいて」のIfストーリー
もしもクローンじゃなく、水槽にいたのが本物のアムロで、死んでしまう事なく、シャア達とジャブローを脱出したらというお話です。
アウドムラに合流する辺りで、色々と本編とは異なる点がありますが、流して下さい!


◇◇◇


まだ薄っすらと星が瞬く白んだ空。
ジャングルの木々の間から、ゆっくりと朝日が昇り始める。
それを、アムロはクワトロやカミーユ達と眺めていた。
「夜明けだ…」
久しぶりに見る光景に、アムロが目を細める。
生粋のスペースノイドであるカミーユやレコアも、その美しい光景に見惚れる。
「…綺麗ですね」
「ええ、本当ね」
クワトロは、少し泣きそうな表情を浮かべて、その光景に見入るアムロの肩をそっと掴む。
「さぁ、そうゆっくりもしていられない。行くぞ」
「はい」
「アムロ、歩けるか?」
クワトロに問われ、アムロがコクリと頷く。
長い眠りから覚めたばかりのアムロは、体力や筋力がかなり落ちていた。
その為、少し歩いただけで息が上がる。
しかし、またシャアに抱きかかえられるなんて冗談じゃないと、少しフラつきながらも、MK -Ⅱに向かって歩いて行こうとした。
すると、それをクワトロに引き止められる。
「シャ…クワトロ大尉?」
「君はこのまま百式に乗れ」
「え?どうしてですか?」
今までずっとMK-Ⅱに乗っていたのに、いきなり百式に乗るように言われ、疑問の声を上げる。
その時、クワトロの意図を読み取ったレコアが、アムロに向かって笑顔で語りかける。
「少しカイさんと相談したい事があるのよ、私はMK-Ⅱに乗るからアムロは百式に乗ってもらえる?」
「え?ああ…そう言う事なら…」
そう言う理由ならばと、アムロはそれを承諾した。

百式のコックピットに乗り込み、シートの横に行こうと一歩足を踏み出した瞬間、先にシートに座っていたクワトロに腕を引かれ、膝の上に座らされる。
「え⁉︎ちょっ!何を!」
すっぽりと、クワトロの膝の中に収まってしまった状況に驚いてジタバタする。
「アムロ、暴れるな」
そんなアムロを背後からギュッと抱き締める。
「シャ、シャア!」
「ここに座っていた方が安全だ」
確かに、地下を歩いていた時とは違い、ジャングルの中を進んだり、スラスターを使って高く飛ぶ事もある。
いくらこのコックピットがあまり振動を伝えないとはいえ、シートの上が一番安全なのは確かだ。
しかし、この状況は男として恥ずかし過ぎる。
「い、いいよ!床で大丈夫!」
「まだ足腰に力が入らないだろう?いざという時、踏ん張れなければ怪我をする」
「そ…それはそうだけど…」
「ほら、動くぞ」
コンソールパネルが目の前にセットされ、もう降りる事が出来ない。
アムロは仕方なく、そのまま膝の上に収まる事にした。
「お、重いでしょう?」
「そんな事はない。というか、軽すぎだ」
「そ、そうかな…」
元々、十六歳にしては小柄な方で、おまけに戦後、ニュータイプ研究の被験体となっていた間、過酷な実験とストレスで更に体重は落ちていた。

初めこそ、恥ずかしさで落ち着かなかったアムロだったが、クワトロの操作するパネルや前方のモニターを興味深げに覗き込む。
シートの横で見ているのとは違い、シートに座っていると、まるで自分が操縦しているかの様な感覚になる。
おまけに操縦しているのは、あの赤い彗星だ。
無駄の無い、見事な操縦技術に見入ってしまう。
「凄いな…」
大人しくなったアムロが、興味津々に操縦桿を握る手を見つめているのを見て、クワトロがクスリと笑う。
「操縦してみるか?」
「え?良いんですか!」
クワトロの言葉に、アムロの顔がパッと花が咲いた様な笑顔になる。
「ああ、構わんよ。出来るか?」
「はい…。あ、でもフットペダルは届かないので操縦桿だけ…」
流石にクワトロの身長に合わせてシートが設定してあり、更に膝の上に乗っている為、アムロの足はプラプラと浮いている。
「そうだな、ではスラスターは私が操作する」
「はい、お願いします」
クワトロの手が軽く操縦桿を支えている状態でアムロの小さな手が操縦桿を握る。
初めは、クワトロが手を添える様にして一緒に握り、安定したのを確認して、クワトロが手を離した。
初めて操縦する機体を、アムロは難なく安定させる。
「流石だな。百式は私に合わせて、かなり絞り込んだチューニングをしてある。カミーユですら直ぐには乗りこなせないのに、君はいとも簡単に乗りこなす」
「そんな…操縦桿だけですから。でも、本当に、凄く絞り込まれてる。五ミリ余分に動かすとバランスが崩れますね。でも、さっき貴方の操縦を見ていたので、何と無く感覚は分かりました」
「見ただけでか?」
「え?あ、はい。僕だったらこんな風にチューニングするかなって思いながら見てたので」
「君は整備もするのか?」
「そうですね。ホワイトベースは人手不足だったので、整備も自分でしなきゃいけなくて…。でも、元々僕はこういうのを弄るのが好きだったので、大変だったけど楽しかったです」
そう答えながらも、視線は前方や機器を見つめ、夢中になっている。
『そういえば、さっきエンジニアになりたいと言っていたな』
と、クワトロは、先程のアムロとカイの会話を思い出す。
アムロのあの驚異的な戦績は、やはりニュータイプ能力だけでなく、豊富な工学知識とパイロットとしてのセンス。そして、優れた運動神経や平衡感覚によるものなのだろう。

◇◇◇

クワトロは、専用回線を使い、アウドムラへと連絡を取る。
地下深くにあったシェルターからは、アウドムラに通信をする事が出来ず、こちらの生死を知らせる事が出来なかった。
地下から出て、漸く通信が繋がり、アウドムラとの合流ポイントに向けて百式とMK-Ⅱはジャングルを進んでいた。
「地球の重力というのは厄介だな。ドダイが無ければ飛ぶ事もままならない」
クワトロが溜め息混じりに呟く。
地上仕様では無い二機は、長時間空中を飛ぶ事が出来ない。その為、アポジモーターで少し浮き上がった状態で進むか、歩くしか無い。
「そうですね。でも、やりようはありますよ」
アムロは昔、地上で戦った事を思い出す。
バーニアやアポジモーターを駆使して、ジャンプする様にして戦った。
とにかく、その場その場で対応するしかなかった。
「あ、あれかな」
アムロが前方に視線を向ける。
すると、数秒後にレーダーがアウドムラを捉えた。
『レーダーよりも先に察知するとはな』
「その様だ」
そこからは操縦をまたクワトロに代わり、バーニアを吹かして、航行するアウドムラの後方ハッチへと乗り込む。
アウドムラのデッキには、先に合流していたアポリー中尉やロベルト中尉らと共に、ハヤト艦長が待っていた。

「クワトロ大尉!」
百式から降りて来たクワトロに、アポリーとロベルトが駆け寄る。
「遅くなってすまない」
「そんな!ご無事で何よりです!」
「本当ですよ!大尉に何かあったらと思うと、生きた心地がしませんでしたよ!」
アポリーとロベルトが口々に安堵の声を上げる。
「かなり危なかったのだがな、彼に助けられた」
作品名:忘れないでいて【If】 作家名:koyuho