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自分らしく
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彼方から 第一部 第九話

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第九話

 夜の帳が降りきった町の中を、盗賊たちが駆け回る足音だけが響いている。
 家々の戸口に掛けられた外灯と、所々、窓から漏れている光が、揺らめく影を作り出している。
「ちくしょう、どこへ消えやがった」
「遠くへ行けるはずはねぇ、しらみつぶしに捜せ」
 イザークに殺されずに済んだ十数名の盗賊たちが、諦めもせずに町中を奔走している。
 そしてやはり――いや当然というべきであろうか、町民は誰一人として出ては来ない。
 外で走り回っている連中が何者なのか、問わずとも分かっているからだろう。
 町の明かりも、月の光も届かない闇の中、その姿と気配を隠し、あの人物も盗賊たちの動向と、二人の気配を探っている。
 ただ探り、その行く末がどうなるのか、見守っている。

   *************

 微かに、荒い息遣いが聞こえる。
 頭上に聞こえる足音にハッとなり、ノリコは壁に寄り掛からせたイザークを守るように、外の様子を伺いながら、両の手を壁に着いていた。
 二人が今居る所は、橋の下の空間を利用した、物置のような所。
 トンネルのように口を開け、中には雑然と、色んなものが押し込まれている。
 大小様々な大きさの箱に、穀物の入った袋、大きな壺や瓶など、すぐには使わないものを、一時的に保管する場所なのかもしれない。
 その奥の方、よくそんな所まで、イザークを背中に負い入り込めたと思えるような、そんな場所に二人は居た。
 彼の体調・体力は、まだ戻っていないのだろう。
 ノリコの成すがままになっているのだから。
 未だ、整わない呼吸のまま、ノリコは、町中を走り回っている盗賊たちに脅威を覚えながらも、必死で、彼をその身で隠すように、覆い被さっている。
 
 ――見つかりませんように……
 ――どうか、見つかりませんように……!

 自分に戦える力はない。
 イザークも動けない。
 もう、『火事場の馬鹿力』も流石に限界なのだろう。
 その体で、ここまで彼を背負い、移動出来ただけでも称賛に値する。
 それでも彼女は、その体を盾に、イザークを守ろうとしている。
 見つかるかもしれないという恐怖に身を震わせながら、ノリコは、半ば彼の頭を抱えるようにしていた。

 彼女の体温も、その微かな震えも、大きな瞳から零れる涙も、イザークに伝わってくる。
 髪の香り、息遣い、柔らかな感覚、それらをこんなにも身近に感じたことはない。
 もしかしたら、記憶に残らないほど昔には、あったのかもしれないが……少なくとも、物心ついてからは皆無だ。
 状況は切迫していて、何も好転はしていないのに、ノリコがどれほどの恐怖を感じているのかも伝わってくるのに……イザークは不思議な安らぎを感じていた。
 弱い存在であるはずの彼女に、包み込まれ、護られているような……
 初めてのようでいて、遠い昔に感じたことのあるような……
 イザークはその不思議な安らぎに何故か、大人しく身を委ねていた。

   *************

「チャンスだ、チャンスさえありゃ……」 
 町中を、イザークを探し回っている盗賊たち。
「まかしといてくれ、この広さだ、充分こいつが役に立つぜ」
「ああ……」
 苛立ちを抑えるように呟く頭に、鎖鎌を持つ男がそう言って、ジャラジャラと鎖を鳴らしながら構えてみせている。
 やがて……手下どもが、二人が隠れているあの物置場に姿を現した。
「この辺があやしいぞ」
 松明を手に、入り口から中を照らし出しながら様子を伺っている。
「ガラクタだらけだ」
「めんどくせぇ、片っぱしからのかしていけ!」
 手当たり次第、眼に付いたものから荒っぽく退かしていく。

 ――あ……

 その大きな物音は、奥にいるノリコたちの所まで、当然、響いてくる。
 物を退かすというよりも壊しながら、手下どもが近づいてくる。
 
 ――だ……だめだ、見つかる

 ノリコは震える手で、扱ったこともない剣に――壁に立て掛けてあるイザークの剣に手を伸ばした。
 だが、その剣の柄を手にしたのは、イザークの方だった。
「イザーク……」
 物が壊される破壊音が近づいてくる中、ノリコは剣を手に取ったイザークを心配そうに見詰めている。
「……少しラクになってきた、大丈夫だ」
 確かに、まだ、息を弾ませてはいるものの、顔色は良くなってきているように思える。
「一気にカタをつける……」
 その口元に、今、ハッキリとした牙が見える。
 
 彼の気が、急速に回復してきているのが分かる。
 例の人物は自身の気配を限りなく失くし、闇の中、イザーク達とかなり離れた建物の陰に居た。
 形の良い唇を僅かに綻ばせ、中天に懸かる月を見上げていた。



「いたぞーー!!」
 町中に響く、盗賊たちの声。
「この下だ」
 その声に惹かれ、次々と剣を片手に集まってくる。
 二つの悲鳴が、いや、断末魔が聞こえる。
 それを耳にした残りの盗賊たちは、橋の脇に設えられている下へ降りるための階段に向かった。
 階段に足を掛けようとした時だった。
 何かの影が、跳んだ。
 瞬間怯み、動きを止め、盗賊たちは眼前を跳んだその影を眼で追う。
 影は満ちた月を背に、彼等の頭上高く舞い上がっていた――その手に剣を握り締めて。
 信じ難いものを目の当たりにし、眼を見開いたまま動けずにいる盗賊たちを討つ為に。

 鎖鎌を持つ男と共に、頭が建物の角から姿を現した。
 この町の広場と思しき場所で、イザークを中心に手下どもが闘っている光景が眼に入る。
「ぎゃあっ!」
「ぐえっ……」
 見る間に、手下が二人……いや三人、切り捨てられてゆく。
 頭の目に映るイザークの動きは、先ほどまでとはまるで違っていた。

 ――ま……またやられた
 ――こっちの手数は、もう数人しか残ってねぇぞ
 手下の額から汗が流れ落ちる。
 彼の眼光は鋭く、病の影響など、もう、微塵も感じられない。
 これだけの人数を相手に立ち回るイザークの動きに、盗賊は誰一人として付いて行けず、太刀打ちできない。
 こんなはずではなかった――情報では、少なくとも一日か二日は、病で碌に動けない状態のはずだった。
 なのに、その碌に動けない状態の時でさえ、この男に傷一つ、負わせることすら出来なかったのだ。
 今、既にその状態から脱しているようにしか見えないこの男に、勝てる道理など……

 ――だめだ、こいつにゃ勝てねぇ
 自分たちだけでは、決して。

「か……頭――――っ!!」
 手下が、頭に救けを乞う為に叫んでいた。
 その求めに応じ、空を切って鎖が、振り上げられたイザークの剣に、即座に絡みついた。
「ぬっ!!」
 動きが止まるその一瞬を、頭は待ち構えていた。
「今だっ!!」
 頼りの飛び剣で、イザークに一撃を加えるために。

  *************
 
「――ッ!?」
 陰に潜んでいた人物の表情が険しくなる。
 いとも簡単に、その動きを止められてしまったイザークに、美麗な眉が顰められてゆく。
 その人物は森での、彼と頭との戦いを見ていた。
 見ていたが故に、単なる鎖の攻撃に、背後に回った人物の気配に、気付ききれなかったイザークの失態なのだと、そう思っていた。