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Family complex -出会いの日-

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Family complex


-出会いの日-






晩夏の空は日の入りが段々と早くなっている。台所の小さな窓から、オレンジ色から暗い色へと変わっていく美しい空を見て菊は料理の手を止めた。小さな窓に区切られたその中を、鳥の群れだろう、たくさんの黒く小さな陰が横切っていく。
きっと明日も晴れるだろう、そんな風に思いながらまた夕食の準備を再開しようとしたその時だった。玄関のインターホンが一つ鳴らされた。
(こんな時間にどなたでしょう?)
覚えはないが、宅急便か何かだろうか。
とりあえず濡れた手をぬぐい、玄関へと向かう。そして、横開きの扉を開けた。
「…?」
開いた先で、菊は思わず目を丸くした。見覚えのない小さな顔がこちらを見上げていたからだ。
「あの…ホンダさんのお宅はここですか」
「え、ええ、そうですが…」
それは少年だった。金の髪に、こちらを見ている大きな目は美しい水色をしている。
小さな口から、予想外に丁寧な言葉が出て菊は面食らった。とりあえず問いかけには頷く。
菊の苗字が本田というのは事実だが、覚えの無い顔だ。
「あの、うちに何か御用ですか?」
問いかけると、青い目が不安げに揺れた。
歳は7、8歳くらい。ランドセルを背負っているから、学校帰りだろうか?
それにしても、とびっきり可愛らしい子だ。髪は短いし、ズボンを履いているから男の子だろうか。目はぱっちりと大きく、まるで映画やテレビの中から抜け出てきたようだ。
「…兄さんが、ここに行けって」
「お兄さん?」
問いかけると、こくんと頷く。しかし、彼の言う事に思い当たる節はない。まして「兄さん」という人物にも心当たりはない。
「間違いなくうちですか?」
本田といえばさほど珍しい苗字ではない。眉根を寄せた菊を不安げに見上げた少年は、ポケットから小さく畳まれたメモ用紙を出し、「これ」とさし出した。
受け取って開いてみると、誰かが書いた住所と名前の走り書きがあった。その並びは間違いなくこの菊の家を指すものだ。
「兄さんが、ここに行けって」
彼は不安そうな声でもう一度言うと俯いてしまう。
心細そうな彼が気の毒で、菊は「ともかく中へどうぞ」と招き入れた。未だ菊の身に覚えはないが、すでに外は日が落ちて暗くなっているから追い返す訳にもいかない。