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金陵奇譚 ─双の盃─

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「もう少し、、やりようがあったろうか、、、。」

「、、、、、無かっただろう。」


この前現れたのは、何時だったろうか、、、。
長林王の婚礼の夜だった。楽しく昔を語り合った。
あれから何年経つだろうか。

「小殊、、、來陽は、何故、帝位を奪おうとしたのか、、お前なら分かるか?。」
「さぁな、、、知らぬ。」
「皇太子とも、庭生とも、仲は悪くなかった。
來陽もまた、皇太子や庭生のように、私を支えてくれると思っていたのだ、、、、なのに、、。私は、何かを間違えたのか?。」
養居殿の中、梅長蘇に背中を向けて、見つからぬ応えを聞き出そうとしている。
離れて後ろに立つ梅長蘇は、淡々と、答えていた。

一体、いつ現れるかも分からない梅長蘇だが、今宵は現れて欲しいと、皇帝は心から願っていた。
今日は来るような予感もして、長蘇の分の酒盃も用意させていたのだ。
闇が深くなり、皇宮も寝静まった頃に、願い通りに、皇帝の前に現れた。
だが現れたというのに、何故か皇帝の口からは、落胆と後悔と、、、側で聞いて、楽しくなるような言葉は出てこない。
來陽王は勿論、梅長蘇を責めているのではない。
梅長蘇ならば、來陽王の心を知っているのではないかと。

真実を知りたい。

死罪にしてしまった我が子の為に、知ってやらねばならないと。
しかし今の皇帝には、その真実すら恐ろしいと思えるのだ。

矛盾した二つの思いを、どうしていいかも分からなかった。
ただ思いに任せて、梅長蘇に言葉をぶつけていた。

「男に生まれたからには、、、分からぬでは無い。
來陽は利発だ。分別はある方だと、、、、。
皇帝の私が出て行っては、騒ぎになると思い、皇太子と庭生に諭す様に、來陽を探るように仕向けたのだ。
だが、どうだ、、、、当然、皇太子達は強く説得したろう。引き返せば良いものを、、、。何故、進むのだ。」

「景琰、、遅かれ早かれ、來陽皇子は、その道を選択したのだ。
目の前の事は、事実なのだ。
來陽の帝位への執着は、年を経ようと変わらぬだろう。
後々、皇太子や庭生が処するよりも、お前は自分が來陽の幕を引くことを決めたのだろう?。」

「私に、、、親に、この様な事を決めさせるとは、來陽はなんと親不孝か。仲の良い兄弟だと、、、そうずっと思っていたのだ。
祁王兄上や、誉王の様な事にはならぬと、、、。」
暫しの沈黙の後、皇帝はやっとの思いで言葉を出した。
「、、私は、、見苦しいか?、こんな言い訳を、お前に、、。」
皇帝は後ろを振り返る。
その目は今にも、涙が零れ落ちそうだった。
「いや、、、。親ならば、恐らく誰でも、、、、子を思えばこそなのだ。どこが見苦しかろうか。
先帝も、今のお前のように苦しんだだろう。一時は怒りに任せて判断したが、後悔していたのだろう。だから、逐一、痛みに触ってくる景琰を遠ざけたんだ。祁王が賢王であり、先帝の審判を批判する者も多かった。その声が聞こえなかった筈は無い。全てを力で封じてみても、疑問と罪悪感はあったはずだ。
我々が成そうとした事は、容易な道ではなかったが、先帝にその心があったからこそ、赤焔事案を再審に持ち込めたのだ。
そして、先帝は認めたんだ、誤ちを。
誤ちを認めた事をも苦しんだだろうが、最後は家族の元で、安らかに逝っただろう?。心残りを我々が解(ほど)いたのだ。
だが、來陽の逆心は確かだったのだ。景琰は法に照らし裁いたのだ。
正しい事をしたにもかかわらず、お前を責める者は多いだろう。
それが分かっていても、お前は、法に照らし正したのだろう?。
、、、、來陽への、お前の心のわだかまりは、ずっと消えないだろう。
いつか、、、、少しでもそれが薄れれば良いと、、今は願っている。」
「、、、。」
何も答えなかったが、諦めたように、皇帝は目を瞑った。


「小殊、、。」
「、、、、?。」
梅長蘇が、皇帝の顔を見る。
ふと皇帝は、急にまた険しい顔つきになった。
「、、、、小殊、、、私は、、。」
━━私の心に、別の意図が、、あったかも知れない。
だが無意識だったのだ、、、、。
、、、、、今、、、気がついた。━━
「、、、、、、。」
自分が作り出したかもしれない、幻の梅長蘇にも、明かせない心だった。
━━これを明かしたならば、私は小殊に蔑まれる。
、、、、怖い、、、。━━
本来ならば、帝位に就くはずだった長兄祁王。
謀に命を落とした。
だが、庭生という忘れ形見を残したのだ。
祁王と祁王妃の秘密。
掖幽庭の中で、祁王府に居た官女が、庭生という幼子を、世に遺したのだ。
そして幼子は己の身の上も知らず、祁王の心を継ぐ若き靖王に託された。
靖王は守り続けたのだ。忘れ形見「庭生」を。
系譜にも載せられないが、紛れもなく祁王の子なのだ。
━━祁王兄上が、皇帝になるべきだった、、、。祁王兄上の血筋こそが、この梁を護るのだ。
、、、私は無意識に、庭生に治国をさせたかったのかも知れない。━━
気付かなかった己の心を知って、皇帝の血の気が、次第に引いてゆく。
━━我が子を、、死なせた、、、。
だから來陽が治国の力があろうとも、皇太子よりも優っていようとも、何が何でも、皇太子を守らねばならなかった。
皇太子と共に、庭生に治国をさせる為に、、、。
、、、、そんな意図が、私に、、、、、。━━
突然、独り言のように皇帝が話す。
「たとえそうであったとしても、兄である皇太子に落ち度はなく、如何に來陽が秀でていようが、皇太子を來陽に挿(す)げ替える事はできぬ。
、、、だが、、我々は、、、私は七皇子であったが、こうして帝位に就いた。献王と誉王を排除したのだ。」

梅長蘇は皇帝の側にいき、両の腕を強く掴んだ。
「景琰、混乱するな!。しっかりしろ!。
献王は素行が悪く、皇太子を廃された。そして誉王は自ら逆徒となったのだ。
献王は与えられた国で、天寿を全うした。誉王とて、逆心を起こし先帝に挑まなければ、我々は命まで取ろうとは思っていなかった。
我々の時と、來陽の件は全く違うぞ。」
「違う、、か?、、、私は、、、。」
我に返ったように、皇帝は梅長蘇の顔を見た。
目の前の皇帝が、余りに哀れだと、、、そのまま抱き締めて、共に声を上げ、泣き崩れてしまいたかった。
「違う。
帝位に就くのが、たとえ献王であろうと、誉王であろうと、その治世にお前は協力したはずだ。ただし、それが真っ当な治世なばな。
献王と誉王は、そうではなかったでは無いか。
民から搾取し続けた。
そして、景琰が皇太子に冊封されると、近隣国が一斉に梁に牙を向け、国境を侵攻してきた。
もし、献王があのまま皇太子だったり、誉王が皇太子になっていたとしたら、この梁はお終いだったろう。あの時、梁の軍の主帥となる者が誰もいなかったのだぞ。それ迄ずっと梁の碌を食んでいたのに。雲南の霓凰と、我々赤焔軍の生き残りが軍を率い、国境に向かったのだ。
献王と誉王の取り巻きに、果たして国境の戦火を止められたかどうか。」
「、、、、ぁ、。」
「お前が皇太子だったから、防げたのだ。お前は、一人、金陵に残り、前線の我々を支え続けたでは無いか。
作品名:金陵奇譚 ─双の盃─ 作家名:古槍ノ標