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金陵奇譚 ─双の盃─

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前線に立ったのは我々だったが、お前の後方支援が無くては、勝つ事は出来なかった。それが出来たのは、景琰が戦場がどんなものかを知っていたからだ。
戦を知らぬ献王と誉王に、逆立ちしたって出来るものか。」

━━そうだ、、、、、そしてあの戦いで小殊は、、、。━━
梅長蘇は、皇帝の表情を変えた何かを察した。
「、、、、気にするな。梅嶺に向かう前から、そう長くない事は分かっていたのだ。」

穏やかに、皇帝の目を見て、ゆっくりと語りかける。
「景琰、、自分が同じだと、一緒だと考えてはいけない。そもそも帝位なぞ、お前にはどうでも良かっただろう。献王や誉王に、祁王の半分でも治世の腕があったならば、お前は二人の兄の元で、国に尽くしただろう。だが、二人の兄はそうでは無かった。
來陽はただ帝位を欲したのだ。
來陽は、王族に生まれてしまったが故、仕方の無い結果だったのだろう。それでも、選ぶ道さえ間違わねば、庭生のように、善人として国の為に生きる事も出来た。王族でさえ無ければ、家を出、自分の力を試す事も出来たのだ。
もう、一人前の男子だったのだ。自ら何を選び、どう進むかは、自分に責任がある。たとえ魔鬼の類に唆(そそのか)されようとも、選んだのは來陽自身なのだ。
愚かな道を愚かな方法で歩もうとしたのだ。」

皇帝は長蘇の言葉に、少しずつ自分を取り戻していた
皇帝の眼(まなこ)の光が戻って来た。
長蘇が皇帝を、労る心が伝わったのだろう。


「、、辛いか?、景琰。」
「、、、、。」


「景琰、、、あの日、、。お前が寧国公府の雪蘆に来たあの時、お前はこの道を選んでしまった。帝位争いに加わると、、、。
私も、景琰も、命を掛けて梁を護ると、この国と契約したのだ。
苦しみは、その時から始まったのだ。
、、、酷く辛いのだろう?、、、孤独で、、、。」
居た堪れなくなり、皇帝が顔を背けた。
「政務なぞ、、何でもない、、。小殊が、、、消えてしまった事の方が、、、どれ程辛いか、、、。」
「、、景、、、。」
「、、、、林家の血筋は庭生によって護られる。
だが、それが何なのだ。
林殊が三度までも、国の窮地を救った事も、林家と赤焔軍が、どれ程愚かな処遇をされながらも、国と民に忠義を貫いた事も、、、後世に遺されるべき事実を、、、、お前が命を賭して駆け抜けた証を、何も残してやれないのだ。」

「、、、、、、。」
「分かっているのだ、、小殊は、そんな事を望んではいないと。
、、、皇帝ならば、幾らか出来ると、、、思っていた、、。
だが、、、皇帝ですら、無力なのだ。」
「そんな事を考えなくていい。そうして欲しくて、景琰を皇太子にした訳では無い、私も林家も、ちゃんと祀られている。赤焔軍の気骨も継がれている。」

「、、、、。」
「、、、、、景琰、、。」
皇帝は養居殿の大きな椅子に座り、ゆっくりと頭を擡(もた)げ、額を細く長い指で支えた。
激しい罪悪感に突如襲われ、封をして耐えてきたものが一気に噴出する様に、心の中をどうにも解決出来ず、さりとて、拭い去る事も出来ないのだ。


梅長蘇に迷いが生じる。
昨日今日の來陽の考えではないのだ。
何故、皇太子に子が生まれぬのか、、、、。
このまま、皇太子に子が無くば、皇太子が帝位に就いた後、弟である來陽が皇太子になるのである。
來陽にはその思いがあったに違いない。
だが、事実であれ、皇帝に言っていいものか、、。
皇帝は、朝堂と近隣国への対応で手一杯だろう。その他に妃嬪の事など、、。
国の将来にも関わるが、皇帝の唯一の不得手である。

事実を言っても何も変わらない、変わらないどころか、、、。
、、、、悲しみだけだ。


一体どうしたら、皇帝は沈み切った心を、引き上げてやれるのか、、。

以前、、怪童と呼ばれていた遥か昔、どうやって若い簫景琰を慰めていたのか、、。
簫景琰ならば、、、景琰ならば、励まし続け、、、気持ちが変わるまで側に居てくれた。


梅長蘇は、皇帝の側まで歩み寄り、皇帝の前の机に、どかりと腰を下ろした。
俯(うつむ)いていた皇帝が額から手を離し、梅長蘇を睨む。
「、、、相変わらず、行儀の悪いヤツめ。」
「誰が見えるって言うんだ、叱責する者なんぞいるもんか。お前の座るその膝に、足だって上げられるぞ。」
梅長蘇は片足を上げて、皇帝の腰の横に、どかっとその足を下ろした。
「お前、こんな時に、、、いくら何でもな、、、、。」
「、、、ふふふ、、。」
目を細めて、屈託なく笑う梅長蘇に、皇帝は度肝を抜かれた。
皇帝の心を占める黒い影が、薄らぎ掻き消えてゆく。
若い林殊を思い出した。
「、、、、ぷ、、、全く、、小さい頃と何も変わらぬな。」
皇帝の顔が綻ぶ。
梅長蘇は林殊そのものだった。
林殊は梅長蘇となり、皇帝の為に、、、簫景琰に姿もその佇(たたずま)いも、偽り続けたのだ。
、、、綻びは時折、仕草となって顔を出したが。
━━後から考えれば、梅長蘇は、どう見ても小殊そのものだった。
、、梅長蘇は、どれだけ偽るのに苦心したことか、、。自分が小殊だと、だと分からぬように、、、。梅長蘇を名乗り、皆の前ではすました顔で、、。だが、私が指摘すると、血相を変えて、慌てて取り繕ったのだ。
昔から小殊は、知恵を絞って悪戯していたが、どこか抜けていたのだ。周りの者には、小殊の仕業と、丸わかりだった。━━

「ふふ、、、。よくそうやって粗相を働いて、林主帥に怒鳴られていたな。」
「あの親父は煩(うるさ)過ぎる。私の顔を見れば悪さをしてないか疑るばかりで、、。」
「、、、、照れるな。重たい場を和ませていたのだろう。根っからの良い奴の癖に、それが恥ずかしくて、お前は悪態をつくのだ。」
「け、!!、、、。」
言葉に詰まり、梅長蘇が皇帝の視線から顔を背けた
「、、、小殊、赤いぞ、顔が。」
「、、、そんなのでは無い。」
「、、ふふ、、、。」
「いい加減に笑うのを止めろ。」
梅長蘇は、ムキになって怒り出す。
その様も、林殊そのもので、皇帝は暫く、くすくすと笑いが止まらなかった。
皇帝自身、今この自分が、笑っている事に驚いている。
━━小殊が側に居るからだ。
ただ辛かった。
誰にも胸の内を吐露出来なかったから、、。
戦英や蒙摯は、私の元へ駆けつけてくれたが、私は言わなかった。
心を明かす事が出来たところで、彼らの言葉に、私の心は動かなかっただろう。

私は、小殊を待っていた。━━


散々皇帝が笑った後、ふと、梅長蘇は視線を外に移す。
少し離れた所にある、太い柱をじっと見ていたのだ
「來陽も側に来れば良いのに、、、。」
ふと、真顔になった梅長蘇が囁く。
「來陽?。」
「そうだ景琰、、お前の前に出られぬのだ、申し訳なくて、、。」
「來陽が居るのか?、ここに?。」
「ちょうどそこの柱の影に、、。」
梅長蘇が座る机の上には、酒器と盃があり、盃には酒が注がれている。
長蘇は、その一つを足の付いた盆にのせ、立ち上がった。
「、、小殊?。」
梅長蘇は、更に一段高い、皇帝の座から下り、來陽が居るという柱の側まで歩んで行った。
静かに屈(かが)み、盆のまま柱の隣に置いたのだ。

梅長蘇は話しかけるでもなく、静かに立ち上がると、皇帝の側まで戻って来た。
作品名:金陵奇譚 ─双の盃─ 作家名:古槍ノ標