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Family complex -怪我をした日-

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-怪我をした日-





オレンジがかった西日が窓辺から強く差し込んでいる。
そこで菊はパソコンのモニタから顔を上げた。時計を見ると、小学校の終わる時間は過ぎている。今日は習い事もないはずだし、バスには一時間弱乗ってくるから、もうすぐあの子が帰ってくるだろう。
おやつの準備をしなくてはと立ち上がったとき、唐突に玄関の戸が開いた音がした。帰ってきたのだろうか。
「ルートヴィッヒさんですか? おかえりなさい」
ここ数日と同じように、「ただいま」とランドセルを背負う姿を思い描きながら、迎えに出て、ルートヴィッヒの顔を見た菊は血相を変えた。
「た、ただいま菊さん…」
「どうしたんですか!?その怪我…!!」
ルートヴィッヒは、泥に汚れた顔で気まずそうにしながら菊を見上げている。
いつも淡い桃色をした柔らかそうな頬は、殴られたか何かしたのだろうか、青くなっていて痛々しい。腕と足も痣や擦り傷があるようだ。
「と、とにかく手当しないと…!」
「ごめんなさい!!」
菊が大慌てで救急箱を取りに踵を返そうとしたその時、小さな影が玄関に飛び込んできて、悲鳴のような高い声がもう一つ上がった。
「ルーイを怒らないで!ルーイは悪くないんです、守ってくれたの!」
それは茶色の髪の子供だった。年はルートヴィッヒと同じくらいだろうか。
その青いランドセルを背負っている子も、傷はなさそうだが顔と服が汚れている。時折しゃっくりを上げながら必死に訴えるように菊を見上げている顔は、涙でぐしゃぐしゃになっていた。
「…ええと」
「俺の友達なんだ。着いて来るって聞かなくて…」
困ったようにルートヴィッヒが泣きじゃくるその子を見る。菊も困惑しきった面持ちで、どうしたものかと二人の顔を見比べていた時だった。
「ただいまー」
場違いに間の抜けた声と共に、もう一つの人影が玄関先に現れた。
「お、ルッツ、今帰りかよ…って、なんだそりゃ!」
ギルベルトだ。彼は、振り返ったルートヴィッヒの顔を見るや、事態に気づいたらしい。一瞬目を丸くしてから彼の様子をまじまじと見て、痛そうに顔を顰めて歩み寄ってきた。
「に、兄さん…」
ルートヴィッヒは、なぜか更に困ったような、怯えたような顔でギルベルトを見上げている。
「大丈夫か? 痛そうだなー」
「べ、べつにこれくらい平気だ…」
ルートヴィッヒは誤摩化すように俯いたが語尾が弱々しい。苦笑したギルベルトはさっとルートヴィッヒの前に屈むと、ぽんぽんと頭を撫でる。
「そっか」
それから、傷や痣のある場所を一つ一つ確認しながら、「どっか動かねーとことか、痺れているとこなんかはあるか」などと尋ねている。
馴れた様子で事態に対処している様子に、菊は少し目を見張った。
「菊」
いつの間にか、惚けたようにその様子をじっと見ていたらしい。そこで名前を呼ばれて、我に返る。
「大したことなさそうだ。消毒液と傷用の薬と、あと氷とかあるか」
「あ、ええ。たぶん…」
「じゃあ居間に持ってこい。俺はこいつの傷を洗ってくる。あと、その子も怪我してないか見てやれ」
青いランドセルの子にちらりと視線をやってそういうと、ギルベルトはルートヴィッヒを促して奥へと入っていった。
おそらくは風呂場あたりに行くのだろうが、見た事のない仕事場の彼を垣間みた気がして、不謹慎だが菊は少しだけ胸の奥が熱くなるのを覚える。
普段の彼を考えると、意外なくらいの冷静さと緊張感だ。これが職業柄というものなのだろうか。
ともかく、ルートヴィッヒは彼に任せれば安心のようだ。
菊はやっとそこで一息吐いた。
途端に身体から空気でも抜くかのように力が抜けて行って、思わず苦笑いが漏れる。自分でも思った以上に緊張していたらしい。
それから、玄関先でまだ泣いているもうひとりに向き直った。
改めて見ると、背丈はルートヴィッヒと同じくらいだが、彼より少し弱々しい感じのする子だ。
茶色い髪は短く、ズボンを履いているから男の子だろうか?
いや、今時は女の子でもズボンを履くし、背負っているランドセルは青だが、この頃は色々な色のものがあるそうだから男の子とは限らないかもしれない。
昔は黒か赤だったんですけどねえなどと場違いに暢気な事を考えながら、三和土に降りると視線を同じにするように屈んだ。
未だ涙に震えている柔らかい髪をそっと撫でる。
「あなたの方は、どこか痛いところはありませんか?」
聞くと、泣きながら首を勢い良く振る。
「ルーイ、いっぱい、殴られてて…死んじゃうかと…思っ、て」
だから付いて来たのだという。
先ほどの訴えといい、こんな小さな成りで精一杯友人を案じている様子に、なんだかいじらしさを覚えて菊はそっと微笑んだ。
「ルートヴィッヒさんはもう大丈夫です。だから、あなたも中へどうぞ」