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Family complex -怪我をした日-

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靴を脱いで上がらせると、ランドセルも脱がせる。その合間に「お名前は?」と問いかけると、涙声の答えが返って来た。
「…フェリシアーノ」
「フェリシアーノさんですか。私は菊です。本田菊」
「…きく、さん」
「ルートヴィッヒさんを待っている間に顔を洗いましょうか。可愛いお顔が台無しですよ」
菊がそういってやると、フェリシアーノは鼻をぐずぐずとさせながらも素直に従い、菊と共に洗面所へと向かう。
そこで顔を洗うのを手伝ってから居間へと通すと、フェリシアーノはまだ鼻をすんすんさせていたが、幾分か落ち着いた様子で、促されるままに卓の側へと腰を下ろした。
「ルートヴィッヒさんは大丈夫ですよ。ちょうどケーキがあるんです。いま持ってきますから待っていて下さいね」
そういってやると、こくんと頷く仕草が幼くて可愛らしい。菊はそれに目を細めながら、台所へと向かった。


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菊がケーキとお茶を用意して戻ると、居間ではギルベルトがルートヴィッヒの傷の手当をしているところだった。
その手つきはとても慣れていて、やはり医療関係者というのは伊達ではないのだなと菊は内心で感心した。
ルートヴィッヒは大人しくギルベルトの前に座って顔をしかめている。傷に染みる事もあるだろうに、泣き言一つ洩らさないのが意地っ張りな彼らしい。
その横では、フェリシアーノが固唾を飲んでじっとそれを見守っていた。
大袈裟なくらいに息を詰めて、傷に染みたらしいルートヴィッヒが思わず肩を揺らすと、同じようにびくっと震えてまた泣き出しそうな顔をする。これではどちらが手当されているのかわからない。
その様子がどこか滑稽であり、いじらしく可愛くもあって、失礼だと思いつつも菊は笑いを堪えて口元を隠した。
「フェリシアーノさん、ケーキはいかがですか」
目の前にケーキを置いてやると、それまでルートヴィッヒにつられて痛そうな顔をしていたフェリシアーノはぱっとそちらを向いて顔を輝かせた。
けれどやはり気まずいのか、視線がルートヴィッヒの方と菊の顔と、ケーキを行ったり来たりしている。
「ルートヴィッヒさんの分もちゃんとありますから、先に食べていても大丈夫ですよ。怪我の手当もすぐに終わるでしょうし」
「え…でも」
「俺はいいから、先に食べてろ」
二人のやりとりを聞いていたらしいルートヴィッヒが、少しだけ顔をこちらに向けてぶっきらぼうに言った。
「ルーイ、でも…」
「見られてると落ち着かないから」
そう言うと、ルートヴィッヒはぷいっと顔を戻してしまう。照れ隠しなのだろう。
「ルートヴィッヒさんもああ仰ってますから、さあどうぞ、召し上がれ」
最後に菊が一押しをしてやると、「いただきます」と、フェリシアーノは嬉しそうにそれを頬張り始めた。
先ほどまで涙と鼻水でぐしゃぐしゃになっていた顔は、今はもう晴れ晴れとしている。
それが、何か出しても中々食べようとしない遠慮がちなルートヴィッヒとは対照的で、その幸せそうな様子を眺めながら不思議なものだと菊は思う。同じくらいの歳であっても、子供とはこうも違うものなのだ。
そうしているうちに、いつの間にかルートヴィッヒの手当も終わったらしい。
打ち身に氷嚢を当てているが、その他は幸いにも絆創膏を貼る程度で済んだようだ。ルートヴィッヒは「感覚が無くなったら外せ」と言うギルベルトに頷いている。
「さあルートヴィッヒさんもこちらへどうぞ」
菊が言うと、「はい」と返事をしてからルートヴィッヒはフェリシアーノの隣りへ腰を下ろした。
そして、やはりいつものように遠慮がちにケーキにフォークを入れている。
「おい、俺の分は?」
卓の上に載っているケーキは二つだけだ。それを目にしたギルベルトの不満げな顔に、菊は苦笑した。
「貴方は昨夜食べたでしょう」
そう言うと、ギルベルトはぎくっと肩を震わせて目を反らす。
「…ゆ、ゆうべ?なんだそれ」
「おや、私が寝ていて知らないとでも?」
昨夜の時点で、冷蔵庫にケーキは3つあった筈だ。それが、今朝見たら二つしかなかった上に、流しにクリームの付いた皿とフォークまで置いてあった。
菊自身はさほどケーキが好きな訳ではないので、自分の分がないのは構わない。だが、食べておいて自分の分がないと言われても。
「…な、何の事だか、俺にはわからねえな」
ギルベルトは気まずそうに明後日の方を向いた。
「もう」
そうは言っても、これ以上責めて機嫌を損ねられてはたまらないので、仕方なくため息混じりに「あとでホットケーキ焼いてあげますから、我慢してください」と言うと、ギルベルトは口を尖らせてテレビを付けた。
「仕方ねえな、絶対だぞ」
さきほどルートヴィッヒの傷の手当をした時は珍しくも頼もしく思えたのに、やはり彼は彼だったようだ。
それが残念であり、でも安心もしている自分もいて菊は思わず苦笑いを洩らした。