エースコンバット レイム・デュ・シュバリエール
プロローグ『空色のリボンが描く軌跡』
けたたましく響く轟音、リボンのマークが空を駆る。
先の戦争でのこの映像、皆さんもこのマークには見覚えがあるだろう。
そう、あのクーデターを鎮圧させた当事者、メビウス隊の一番機。彼女のドッグファイトだ。
「あいつ? ああ、物静かなやつだよ。必要以上に」
おしゃべり好きの相方はそう言うが、とてもそうは見えない軌道を描く彼女の戦闘機。
ひらりひらりと宙を舞い、後ろを取られた敵機は次々と落とされていく。追いつかれた者は例外なく火を吹いて枯れ葉のように舞い散るのだ。
まるでお伽話に出てくる鬼神のような働き。
「あのひよっ子があそこまでになるとはねぇ。『リボンの姫騎士』だなんて可愛らしい愛称なんてもらっちゃってさ。アイツ、姫だなんてそんな柄じゃないよ」
仲間内からはそう呼ばれているようだ。同じリボン付きのパイロットの逸話から『伝説の再来』とも。
おしゃべりな彼女はリボン姫を育て上げた『リボンの匠』などと呼ばれることもあったとか。
「よしてくれよ、照れるじゃないか」
敵の側からは『リボン付きの鬼神』、『メビウス1の亡霊』などと揶揄するような異名が付けられていた彼女。
数々の異名は、このリボンを結ぶかのような美しい軌道からも納得がいく。
私は終戦から二年経った今まで、彼女の軌跡を追い続けた。
やや私的な理由ではあるが、『メビウス1』という彼女のコールサイン、それが祖父との古き会話を思い起こさた。それがきっかけだった。
百年以上も前に劇的な活躍で戦争を終わらせたという一機のマリンブルー色のリボン付きの死神、祖父から聞いたメビウス1の伝説。古の英霊としてリボンに宿ると言われ、今もなおジンクスとして忘れ去られぬ人物だ。
画面が変わって映しだされたこのF‐4戦闘機が彼の乗機。古い写真だが、垂直尾翼に描かれたリボンのマークははっきりと映っている。
そんな彼を生き写ししたかのような彼女の活躍、受け継がれた『メビウス1』。私は不謹慎ながら取材の最中、彼女に心を奪われてしまったのだ。
終戦後もそのインパクトが頭から離れることはなく、関係各所を訪れ、取材を続けた。国連軍で活躍した彼女は一体何者なのか、と。
それだけではなく、その周りの人物、同じくリボンのマークを身に着けたチームメイトやその敵方についても、興味深い情報を手にすることができた。彼ら彼女らの何人かに取材することもかなった。
そして、私は今、彼女の直ぐ側にいる。
「見てみな、とても世界を救ったヒーローのようには見えないだろう……あの優雅な飛び方、あのまま渡り鳥のようにどこかに飛んでいってしまいそうな、そんな伸びやかさを感じるよねぇ」
優雅で伸びやか。彼女を知るものは皆、彼女について、言葉は違えどその様なことを口にしていた。
この戦争で得たもの、失ったものは様々だ。この戦争の意義は何だったのか、曖昧だと騒ぐ人々も大勢いる。
彼女への取材を通して、私はそれに少し近づけたような気がした。英雄と謳われることもある彼女の人物像を追っていくと、様々なことがその周りで着いて行っている事がわかった。
ある意味では、この戦争は彼女を中心に動いていたと言っても良いのかもしれない。大げさすぎるようにも聞こえるかもしれないが、戦争の要人は皆、彼女に多少なりとも影響されている者がほとんどなのだ。
この番組を見る方々に取材した全てをお送りしようと思う。あの戦争について、答えを見つけ出すヒントとなるのなら、私も取材したかいがあったというものである。
「そう、ちょうどこのハンガーであいつとは初めて会ったんだったね。うん」
場所は一介の民間軍事企業の格納庫。彼女の物語はここから始まる。
『レイム・デュ・シュバリエール(騎士の刃)』、『メビウス1』と同じ機体、複座の『幽霊』が彼女を英雄へと旅立たせるのだ。
「あいつと最初に会った時は……」
時は遡ることおよそ3年前……おしゃべりな『匠』が一本の無口な『リボン』と出会ったところから始まる――
作品名:エースコンバット レイム・デュ・シュバリエール 作家名:ブルーファントム