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【弱ペダ】My Valentine

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――またお手紙します。
 そう結んだ手紙を丁寧に折り封筒に入れると、箱に仕舞う。姿が見えなくなっても、まだ手紙から溢れる坂道の想いが部屋中に散らばっているような気がする。開く度に手紙から溢れて、零れて。読む度に、触れる度に今すぐに坂道本人を自分の腕の中に抱き締めたい気持ちに駆られる。一方で、触れたら最後、抱き潰しても手放せなくなるのは判りきっているので、返って傍にいなくて幸いなのかも知れないとも思う。
 大概っショ……。
 巻島は自分の思考に苦笑いする。
 貰っても返事を出さない。そもそもが無精だから、と言うのもあるが、出せないのだ。
 手嶋が寄越すメールにもほぼ返事をしないのは、同じ理由で無精だからと言うのもあるし、内容が相談などではなく、決断などが不要なお知らせであることもある。が、もっと大きな理由としては坂道が聞いたら不安になるだろうと思うからだ。
 自分でも馬鹿な理由だと思う。
 けれど、今でも我慢をしているのに。夏にインターハイを見に行って、余計にこの腕の中にいない寂しさが募る。東堂と久し振りの勝負をして興奮していたせいで、坂道を求める渇望は更に苦しいほどだった。だが、坂道に翌日もまだ勝負が残っている状態では手を出すわけにも行かない。
 坂道に寂しい思いをさせているのは百も承知だ。巻島も同じだし、なんなら飢えて飢えて、おかしくなりそうだ。そこへ手紙など書いてしまっては、どんな言葉を連ねてしまうか知れない。
 ホント、大概ッショ…。
 巻島はもう一つ、苦笑を漏らした。

 数日後、大学帰りに買い物へ出て、世間はバレンタインが近いのだと言うことを知った。
 来るべき愛を伝えるイベントに向けて、街中が赤やピンク色に染まったようだ。この様を見ていると、決して色が無いわけではないのに、普段の街並みが薄暗くくすんでいた様に思えてしまう。
 聞けば、イギリスでのバレンタインは日本で行われているものとは逆で、男性から女性へプレゼントをするのだそうだ。
 各種店舗ではプレゼント用の花束や、バレンタイン限定のパッケージや内容のお菓子、そしてそれに添えるメッセージカードが、店先にまで陳列されていて、まるで花が咲き乱れたようで、圧巻の一言だ。
 更に道行く人たちがその力に吸い寄せられるように、店へ吸い込まれては手に荷物を持って吐き出されてくる。街全体が巨大な生き物にでもなったかのようだ。
 通り過ぎるたびに、贈るでしょ? 贈るんだよね? 贈らないの? そんなワケないよね、贈ろう! いや、YOU贈っちゃいなYO! と、どこの誰だか、なんの力かさっぱり判らないのに、強力な磁石か吸引機の様な引き寄せようとする圧を感じて身を引き裂かれそうだ。
 通りを歩く内に、巻島も街中に溢れるナゾの力に段々浸食されてきて、せめてなにか一つでも贈らねばならない、とそんな気になってきた。それでも花や菓子ではなく、辛うじて文具屋へフラリと踏み入れ、一葉のカードを手に取って、気がついたらレジで金を払っていた。
 ハンパじゃないっショ…。
 まるで激しいクライム勝負をしたかのような疲労感で、スーパーに寄り必要な買い物をやっとの思いで済ませると、這々の体で寮に帰った。
 そして、カードを前にして、巻島はまた悩んでしまう。
 何を書くべきなのか。
 何か書くべきなのか。
 一言あるべきか。それとも幾らかは言葉を連ねるべきか。
 流石にやはり一言くらいはと思って意を決してペンを持ってみたものの、今度は失敗したら終わりだと言う思いと言葉のチョイスが正しいのかと不安を覚えて緊張してしまい、妙に姿勢を正したまま、動けなくなる。
 そんなことを繰り返し、散々悩んだ結果、カードに予め印刷された一文に全てを託すことにした。
 後で聞いたら、明らかに然るべき日に贈るカードを前に、ブッダの像のようにピクリとも動かない巻島の様を見て、座禅か瞑想か、いずれにしてもジャパニーズは愛の言葉を贈るのにしても、武士のような佇まいで臨むのかと学生ばかりか教授まで巻き込んで寮内で噂されていたらしい。


「坂道、手紙来てるわよ」
 部活を終えて家に帰ると、母がそう声を掛けてくる。
「うん、ありがとう」
 坂道は母に応じながら、手紙? と首を捻る。坂道宛の手紙など滅多に来ない。ダイレクトメールなどなら、母はワザワザ言ってこない。食卓の上、坂道が座る場所に置いてあるだけだ。
 坂道はズルズルと重たい荷物を引きずりながら、食卓の上を見る。と、白い封筒が目に入った。
「これ?」
 ほぼ真四角に近い、長方形の封筒だ。
 手に取ると、日本、千葉県こそローマ字だが、その後は日本語で坂道の家の住所と名前が書いてあった。更に封筒の「エアメール」の文字を読んで、海外への手紙の書き方で覚えた、左上に書いてあるはずの差出人を見たが、そこは空欄になっていた。
 が、何故か坂道はもしかして、という予感で途端に動悸が激しくなった。
「エアメールなんて珍しいわね。友達?」
 なんて聞く母に、留学した先輩! と答えて部屋に駆け上がる。本当ならここで先に洗濯物を出したり着替えをするのだが、もう気が急いてならない。緊張と焦りで思うように動かない手で、慎重に封筒を切る。
 中から、白地に繊細な色と線の花束でハートが描かれたカードが出てきた。その見た目にも驚きだが、中を開けると、一文「To My Valentine」と印刷された文字。それ以外は何も書かれていなかった。
 一瞬目が点になった。
 先ほどの「まさか巻島さんでは……」と言う予想から、「いやこれは巻島さんじゃないのでは……?」と言う疑いに変わる。
「トゥー、マイ……、バレンタイン? 私のバレンタインへ……? って、どういうことだろう?」
 ヒントになるような文字は、それ以外何も書いてない。ただ、カードの上の方に、なにかを書こうとしたと思われる点が一つあるきりだ。
 坂道はすっかり困ってしまう。
 多分、巻島さん……だよね?
 矯めつ眇めつしていても、カードは何も答えてくれない。間違いかと思って確かめた宛名は間違いなく坂道へのものだ。
 そこで坂道はパソコンを立ち上げた。封筒に貼られた切手には王冠を被った女性の石膏像が描かれている。
「イギリスの切手、と」
 希望を込めてインターネットで検索をかける。と、封筒に貼られた切手とほぼ同じ柄の切手の画像が出てきた。たしかにこれはイギリスから送られたもののようだ。
「やっぱり、イギリスなんだ」
 そこで、坂道は更に考えた。
「てことは、多分、いや間違いなく巻島さんだよね」
 イギリスから郵便を送ってくる知り合いは、他には居ない。したがって、これは巻島から送られたもので間違いないはずだ。ほっと安堵の溜め息が洩れる。全く別の人からのカードだったのに、巻島に礼を言ったりしたらおかしいだろう。それに、誰だか判らないが――巻島じゃなければ、誰で目的はなんなのかと言う別の疑問が湧いてくるが――くれた人にも失礼だ。
「さて……」
 残る問題は、カードの一文だ。一体どういう意味なのだろう?
「バレンタインは、あのバレンタインだよね」
作品名:【弱ペダ】My Valentine 作家名:せんり