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【弱ペダ】バレンタインだからってチョコレート貰えると思うなよ

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「バレンタイン……」
 荒北はそう呟くとげんなりした。
「なんだ、貰えない僻みか? 荒北」
 東堂が前髪を調節しながらそう問うて来る。
 バレンタインが迫るこの時期、三年生である彼らは受験真っ只中だ。自由登校となっても、寮生活の荒北は寮の部屋や自習室にいるよりも、学校の図書館や教室で勉強している方が落ち着くような気がして、毎朝出て来ている。
 そんな今日はたまたま東堂に会ったのだ。少し休憩をしようと自販機兼休憩所のようなベンチを置いてあるスペースで、各自飲み物を買っているところに出くわした。空調完備とは行かない箱根学園で冬場はあまりに寒くて誰も居ない。授業中だから居なくて当たり前と言うべきか。自由登校の三年生はそれこそ暖かい自宅や寮にいるだろう。
「っせ! ちげーよ!」
「なに、貰えない程度で落ち込むな。お前が男気と人情味のある、良いヤツだというのを俺や福、寿一やチャリ部の者は判っているぞ。そして、それはちゃんと伝わるものだ。だからいずれ貰える日もくるだろう。俺が言うのだから間違いないぞ」
「っせ!」
 はっはっは、と笑って東堂は去っていく。その際にポン、と缶をゴミ箱へ放り見事小さな口を通過させていったのだから、憎たらしい。
「自慢かよ!」
 そう悪態を吐くが、東堂の真意がそうでないことは荒北も良く判っていた。
 けして自慢ではないし、東堂や他の人気のある生徒なんぞと比べれば雲泥の差だが、だからと言って貰えないワケではない。それに、チョコレートに付随してくる気持ちを、今の荒北が受け取るワケには行かない。だから『貰わない』のだ。僻みと言われるのは大変に心外だ。
 むしろ荒北の悩みはそこではない。
 そうではない。
 問題は…。そう、問題は新開だ。荒北は腹立たしさにチッ、と舌打ちをした。

 昨日は久し振りに学校で新開に会った。いつも長話になったりしないように時間を決めてメッセージや通話で話しているせいか、直に会うのは数週間ぶりだ。珍しいついでに学食で一緒に昼を食べた。そこで話題になったのだ。
 何って、バレンタインのことである。
「今年こそは貰いたいなぁ」
「へー」
 新開が――縁起担ぎなのか、ただの大食いなのか判らないが――カツカレーを頬張りながら、少し上目遣いで荒北を見つめてくる。最初は何の気なしに聞き流していたのだが、意味が沁みて来て、ビックリして思わずマジマジと新開を見てしまった。
 何言ってんだ、コイツ。
 第一印象はそれである。
 チョコレートなんて毎年山のようにもらっている男が。東堂には負けるだろうが、それでもハコガクの中では多い方に入るはずだ。そんな男がなんだって? あれだけ貰っててまだ足りないと? いや、つか、誰から欲しいって?
「な、靖友」
 新開がにっこり笑う。
 は? 俺? イヤイヤ、何言ってんだ、こんなとこで。
 昼食のピークを過ぎた学食は、流石に人が少ない。箱学の学生食堂は朝から夕方まで概ね開いていて、時間を問わず何かしらが食べられるようになっている。とは言え、こうした自由登校の時期の三年生以外が授業をサボったりしていると、すぐにバレて食堂のおばちゃんから先生へご注進が入ってしまう。しかもたかが食堂のおばちゃんと侮るなかれ。相手はサボりの学生と、育ち盛りの空腹がゆえに自習時間を抜けてきて腹塞ぎをしている学生の違いを的確に見抜く、時間割と当日の事情も把握している百戦錬磨の猛者である。
 そんな鉄壁の守護者がいる学食は、昼休み以外は本当に用事のある生徒しかいない。だから、決して大人数ではないけれども、人が居ないワケでもない。そんな、言ってみれば誰の目や耳があるかも判らない場所で、なんてことを言うのか、この男は。
 二人の関係に後悔などしていない。だが、まだ万人に受け入れ難い関係であることも事実だ。一応そこそこイイ大学の受験を控えているクセに。推薦でもなく、面接があるとも聞いてないから、荒北が気にし過ぎなのだろうが、それでも軽々しく口に出来る関係でもないだろう。
 もっと言うなら、自分なら何を言われても構わない。その上での大前提として誰にも渡す気はないし、文句も言わせない。結婚して幸せな家庭を築いてなんて、普通に望まれる道は、新開には力ずくでも諦めて貰うしかないと思っている。その代わり、新開から拒否されるか、新開の足を引っ張ることになっていると思えば、誰に言われなくとも身を引く覚悟もある。
 ガキがこんな覚悟するとかァ……。
 どんだけ好きなんだ、と自身のことながら、軽く引いた気持ちになる。こっちはそのくらい考えているというのに。
 こんな場所でそんな発言をした新開を軽く睨む。
「最近、太ったんじゃねーのォ?」
 新開がその言葉に、うっ、と詰まった。
 新開や荒北たちはよく食べる。いや、成長期真っ最中でもある高校生男子はそもそも良く食べるものだ。加えて運動部に所属していれば、それに輪をかけてよく食べると言って良い。一食で軽く二人前とか、大盛りご飯を添えた食事を一日七食とか食べてしまう存在だ。だが、あくまでそれは激しい練習を毎日しているからである。引退後も受験勉強の傍ら、ロードバイクや筋トレを継続していると言っても、現役時代の比ではない。
 通常以上の代謝量がまだあるとしても、使われずに残った栄養は、そのまま肉体へ蓄積して行く。
「ヤバいな……」
 新開の呟きに、やっぱりか、と荒北も思う。実は自身も人のことを言えた義理ではないからだ。二人ともまだ見た感じは現役時代とそう変わらないが、顔つきが少しふっくらしている気がする。食べる量はこれまでよりは減らしているが、一週間は十日くらいあるのではないか、と思うようなペースで自転車に乗っていた頃に比べると、今の運動量は余りに少ない。
 引退後の急激なペースの変わりように、福富など早速風邪を引いたくらいだ。
「チョコレートとか食ってたらヤベーんじゃねーのォ?」
 荒北は牽制代わりの悪態を吐く。
 俺からチョコレートが欲しいだって? なに考えてんだ、このバァカ!
 それはこの荒北にチョコレートを買って来い、と言っているワケである。一体いつ、どこで買えというのだ。お互いに受験生ではないか。
 ッてか、まさか俺に行けって言ってんじゃねーだろーな? あのゲキ混みのチョコレート売り場にィ!
 荒北は過去の記憶を思い出してゾッとする。いつだったか百貨店に行ったところ、たまたまバレンタイン直前だったことがある。ブランド店が並ぶデパ地下は女性客が詰め掛けて身動きが取れないほどの混み具合だった。おまけにあちこちの店ではチョコレートが飛ぶように売れて、箱の山があっという間に形を崩して消えて行く様子には鬼気迫るものがあった。そんな中に入っていく勇気は当然なく、フロアの片隅でただその様子を呆然と見つめていたことを良く覚えている。
 話にしか聞いたことがないが、正月の福袋の激戦もこんな具合なのではないだろうか……?
 受験前などには絶対に行きたくない場所だ。あの場では確実に負ける気がするし、負けたことを受験まで引きずりそうだ。それでなくても、断固ご免蒙る。
「ダメか……」
「妙な期待してんじゃねーよ」