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第2章・4話『永久を生きし者、永遠に縛られし者 弐』

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東方星写怪異録 第2章・4話

―篝宮島沖―揚陸艦艦内―

船医「……バイタル異常なし、“左目”の摘出手術完了です」
船医はそう言いながら入口へ振り向く。
入口に誰かが立っている……が、薄暗い事もあり誰なのかは分からない。
???「そうですか、彼女は目が覚めるまでそこで?」
船医「いえ、培養器の中へ……こちらとしても色々情報を欲しているので」
船医が見る先には人が悠々と入る大きさの横たわる培養器があった。
中には薄緑色の液体が入っている。
???「……いずれ潰える旧人類の為に、ですか」
船医はその言葉に眉をひそめながらもその培養機の中へ手術衣を身に纏い左目を包帯で覆った姿のしとねを移す。
静かに培養器の蓋が閉じ、船医は培養液と左目の入った四角い筒を入口にいる誰かへ手渡す。

―深層意識内―
目が覚めるとそこは辺り一面に広がる草原と大樹がある光景だった。
しとね「……ジンと会う時と同じ感じだ、でも」
明らかに様変わりをしていたその場所をしとねは起き上がり、大樹の方へ歩き始める。
大樹に近付くにつれ、その大きさを目の当たりにする。
???「あら?こんな所にまで人が来るのはいつぶりかしらね」
地面から出ていた大樹の根を背もたれにし独特な雰囲気を放つ女性がしとねへ微笑んでいた。
しとね「え……あぁ、えっと」
女性に見とれていたしとねは言い淀む。
そんなしとねの姿を微笑みながら女性は立ち上がり。
???「……貴方は貴方が生まれる以前の全てを知る事が出来る、もちろん貴方の眼に宿っていた“あの子”の事も、そして全てを知る代償はとても大きい……貴方にとって知る事が良い結果では無いかもしれない、貴方は全てを知る覚悟があるかしら?」
変わらず微笑むその女性は手を差し出しながら言葉を紡ぐ。
しとねは何も言わず俯き……
しとね「────────────────」
そう言い、しとねは女性の差し出された手をとると体に僅かな痛みが駆け巡り、しとねの脳内に数多の映像が映し出されていく。
???「始めましょう、終わりを告げた私の運命を、今度こそ……終わらせる為に」

―篝宮島沖―揚陸艦艦内―
ゴガンッと轟音が艦内に響き渡ると同時、大きめに揺れ警報がけたたましく鳴り響く。
艦長「一体何があった!状況と被害報告」
突然の事で慌ただしい艦橋を一喝し、報告の一報を受ける。
船員「第2治療室にて、大規模な振動によるものです。治療室及びその付近の部屋が一部破損、浸水は今の所無い模様です!」
艦長「あの部屋には……捕らえた小娘が居たはずだな、監視カメラの映像を出せ!」
船員の1人がモニターを操作する、しばらくして部屋の映像が映し出される。
映像を見たその瞬間、その場に居た全員が凍りついた。
しとねは部屋に居た、だが……少し粗めの映像でも分かる程に明らかその髪色が灰色から金髪に変わっていた。
そして、その両手に持つ自らの背と同じくらいの長さの大剣が不気味さをより一層高めていた。
艦長「……っ!?対処を抑制班にあたらせろ!」
しとねがカメラに目を向けると同時、艦長は映像を睨みつけながら指示を出す。

カメラに目を向け数秒、しとねは部屋の出口に歩く。
しとね(?)「始めましょう、終わりを告げた私の運命を、今度こそ……終わらせる為に」
そう呟き部屋を出ようとするしとねの背後で、船医が呻き声を上げる。
しとねは少しだけ振り返り部屋の出入口から船医を眺める。
船医「何、故……か、かな、り……強力、な……麻酔を、打って、い……居た、はず、なの、に……」
しとねは船医の言葉に何一つ反応も示さずに両手で持っていた大剣を片方手放し、引き摺る様に近寄る。
船医「や、やめ……おねがて、死に、たぐな、あ……ああ、ぁ────」
そう懇願する船医にしとねは、その大剣を片手で振り上げ……その頭上に突き立てる様に振り下ろした。
ザグン、と音がし僅かな血が飛び散る。
しとねは振り下ろした大剣をしばらく眺め……
しとね(?)「これではまだ、使いづらいわ……もっと軽く────」
そう呟きながら大剣を手放し、しとねは部屋の出入口に手を向ける。
しとね(?)「軽く……鋭く」
しとねの手のひらが淡く光を放つ、それは徐々に広がり象り始める。
光が収まるとしとねの手に片手の剣が握られていた。
しとね(?)「……」
しとねは徐ろに大剣へ片手の剣を振り抜く、キンッと僅かに鉄同士が触れる音がし刺したままの大剣が2つに割れていた。

アント1「くそったれが、娘っ子1人にわざわざ俺らが出る幕か?」
アントリーダー「仕方あるまい、今はあの艦長の命令が最優先事項だからな」
愚痴をこぼす隊員を宥めながら抑制班は第2治療室へ向かっていた。
アント2「アント1、報酬として無力化したら好きにしていいってんだ……男だらけでむさっ苦しいこんな所で女を好きにしていいなんてそんな現場はもう来ないかも知れないぞ」
アント3「それに年頃の女だしな、顔も良いし」
アント4「島で保護した時から思ってたけど、あのスタイルは高校生でも一目置かれる程だぜ、同じ学校の男共なんて毎日あの娘でしてんだろ」
リーダー「報酬の事で浮かれるのは構わんが、仕事はこなせよお前ら」
浸水対策の防壁を解除しながらリーダーがそう言い放つ。
ゆっくりと3重防壁が開き風の通り道が出来た瞬間……
ザンッと防壁に一番近かったアントリーダーの体が真っ二つに割れ、後ろに倒れる。
隊員達がライフルを向けた開いていく防壁の先に居たのは……アントリーダーの返り血で髪や頬、体の所々を血に染めた────しとねの姿だった。
アント1「っ!こんの────!?」
我に返ったアント1達がトリガーを引くよりも速く、しとねの剣がアント1の肘を切り飛ばす。
アント1「ぐっ、あ、があああああああああああああああああああああああああああああっ!!!」
アント2「アント4!1を連れて後退しろぉ!!」
そう叫ぶアント2の首が一瞬で跳ね飛ぶ、しとねはその体を、顔を、髪を返り血で染め上げながら歩き、のたうち回るアント1へ近付いて行く。
アント3「殺らせるかぁ!」
アント3は叫びながらしとねへ銃弾を撃ち込む。
しとねは素早くアント1の首を掴み、盾替わりにしアント3へ向く。
アント3「な────」
躊躇し引き金から指を離した瞬間、しとねはアント1を3へ向けて蹴り、アントリーダーが所持していたライフルを奪い取り、アント3の頭を撃ち抜く。
アント4「あ、ありえない……あ、う、うわああああああああああああああああああああああああああああ」
他の全員が短時間で殺され、アント4はライフルも投げ捨てる様にしとねへ背を向け、逃げ出す。
ズドンッとアント4に鈍い音と衝撃が走る。
アント4「あ……えっ?」
恐る恐る自らの腹部を見ると……じわじわと赤い染みが拡がっていくのが見え、アント4はゆっくりと振り返る。
しとねの手には抑制班の護身用装備である拳銃が握られていた。
そこでアント4は前のめりに倒れ、意識を失った。

殺されたと思っていたアント4は、自分がまだ生きている事に驚いていた。
アント4「(……こ、殺されなかった────の、か?)」