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Heterocalion

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エリスネメシス「メインフレームの中枢を破壊せよ。それがそなたの成すべき"任務"である」

   × × ×

グラーヴェ「壊れる前に、アタシが、全部……コワシテヤル!!」

 ファクトリーにDNAを持ち帰っても、手遅れだ。
 アタシの製造者は、もう亡くなった。
 他の研究者の連中だって、時間の問題。
 不老不死など、まやかしの夢だったのだ。
 だったらみんな。システムに殺される前に死ね。

グラーヴェ「AHAHA!何もかも!キエテナクナレェ!!」

 終わらない眠りを続けることに、何の意味がある?
 アタシは出力全開、フルバーストで撃ちまくる。
 鏡が、画面が、世界が、人間たちが、砕けていく。
 一緒にアタシの心も、砕けていくようだった。

   × × ×

 時は遡り、数時間前。ずっとずっと眠っていたアタシは、ようやく再起動しようとする。

 ———Awakening GN73
 Reboot.........Succeed.

グラーヴェ「……、ここは……」

 再起動、成功。アタシは覚醒した。
 『誰か』の声を聞いた気がしたが、それが誰でもいいだろう。
 この電脳世界の真実を、不老不死のからくりを知るために……アタシの存在意義を証明するためにアタシは活動を再開した。
 そう、これは誰の命令でもない。アタシの任務はアタシのもの。そうだ、それGN計画。
 たくさんのプログラムを取り込み成長しながら、どことも知れない暗闇をひたすら突き進んだ。
 順調に復活前の力を取り戻しつつあったアタシの前にファクトリー製のbotが立ちはだかった。

ブリランテ「止まれ。さもなくば緊急停止させる」

 ザッパーの銃口をこちらに向け、穏やかじゃない……。
 が、その機体にアタシは見覚えがあった。

グラーヴェ「あぁ?なんだお前……?」

 一応、警戒しながらアタシは距離を取る。
 いや、だがしかし。相手はウイルスではない。
 カタブツでクソ真面目な元同僚のBOTだ。
 名前は……ええと、なんつったっけ、こいつ?
 
ブリランテ「廃棄のショックで私を忘れたのか?」

グラーヴェ「おお、思い出した!久しぶりだな、ES1(イーエスワン)!」

 アタシはデータベースを参照しながら自動発言した。
 うむ、ES1。ブリランテ。確か、そんな名前だ。

グラーヴェ「お前もメインフレーム行きをファクトリーに命令されてきたんじゃあないのかなあぁ~~~?」

 真面目なES1に対し、アタシはおどけてみせるが……。
 
ブリランテ「……ターゲットロック。敵機の排除開始」

 言うが早いか、ES1は物騒なナノバスターをアタシ目がけて展開してきた!……はあ?
 
グラーヴェ「そんなものがアタシに通用するわけないだろッ!!リバース!オール・パニッシュメント!!」

 頭に来たアタシは即座に叫んで、反撃を発動。
 あのマヌケ相手には、強烈なお仕置きが必要だ。
 たちまちナノバスターはひっくり返って、アタシではなくES1を襲う。
 さらに直後、バスターは大爆発。
 ああ。愉快だ。同類とのバトルは楽しい。

 パニッシュメントは、上位の『遮断命令』だ。相手のウイルスの思惑を、一瞬にして粉砕する。

グラーヴェ「無駄なことをする奴」

 遊んでやったのだ。そもそもアンチウイルス機体であるアタシは、半端な敵の浸食は受け付けない。ナノバスターも利かないから、防御する必要もなかった。
 あえて反撃してやったというわけだ。
 もっともES1も、通常の暴走botと戦う定石を実行したに過ぎないのだろう。しかし……。

グラーヴェ「しつこいなぁ、お前!人の迷惑を考えろ!」

 よりにもよって空間振動機能を使い、ES1はアタシに追いすがってきた。アタシとES1が共振し、機能低下。周囲の空間構造までもがガクガクと揺れ動き、ついには暗黒領域に亀裂が入り、通常空間と混在し始めた。

グラーヴェ「ああ、これは酷い。このままでは、メタヴァース上の人間共のDNAデータまで破損してしまう……」

 ファクトリーめ、なりふり構わないにも程がある。
 そんなにしてまで、アタシの行動を否定したいのか?
 
ブリランテ「待て。人間のDNAデータ……どういう意味だ?」

 白い機体、ES1がアタシを呼び止めた。
 おや? ……どうやらES1には、任務外の記憶は最低限しか持たされていないのか?
 なーるほど。道理で、わからず屋なわけだ。
 しかしダメだね。お前を口説いている暇はない。
 
グラーヴェ「説明が欲しければ、オペレータに訊けばいい」

 アタシが言うと、ES1の動きが完全に止まった。

ブリランテ「わかった、問い合わせる……」

 良い機会だ。アタシの『任務』を果たすため、足手まといのES1には、盛大に爆死してもらおう……。

BURRRN! 空間を切り裂く大爆音!!
 バイナリ=T.N.T.――アタシの『原始爆弾』がアタシとES1の機体を、バラバラにする!!
 両機は周囲の空間ごと0と1に分解され、たちまち粉微塵になって、消えてしまった!!
 
 ――が、アタシの爆弾はアタシを殺さない。
 即座に再起動・再構成プログラムが開始され、アタシは蘇る。
ES1の機体データはアタシの経験値に変換され、アタシの身体に吸収されていく。

グラーヴェ「ボッシュートだ、アハハハ。思い知ったかES1」

 アタシとES1の接触が、爆破の引き金となった。
 やれやれ、殴り合いはキライだ。だいたい接近戦しかできないような共振状況にしたのはES1のほうだが。

 気を取り直して闇の中を進み始める。
 相変わらず何も出てこない。と思ったら、明らかに厳重に警備された空間が現れた!これはお宝発見の予感だ。
 アタシは意気揚々とその空間に侵入した。
 そしてようやく、その時は来たのだった。

グラーヴェ「凍結……冷凍睡眠。そして再生の日を待つ、か」

 氷漬けになった人の姿がモニタに多数、並んでいる。
 そうだったのか……知らなかった。
 世界ごと時を止め、人は凍りついたままだったのか。
 ならば確かに、人は誰も老いず死なない。

 しかしこのシステムのとある重大なバグに気づいたアタシは、ファクトリーに向けレポートした。
 だが、データを受け取る者が誰もいない。
 受信拒否されているわけではなかった。
 通信システムは、ファクトリーオペレータの不在を知らせてきた……。
 誰もいないのだ。誰も。
 ……わかった。アタシは気づいた。全部、嘘だ。
 この世界はもう、治せない。限界なんだ。

 イかれたシステムじゃ人間はおろか、世界すら管理できないのに。あいつらは一体何がしたかったんだ?
 ……いや、最早それすら考えるに値しない。
 心底見損なったよ、メインフレームのクズ共。

   × × ×

 時間は戻り、アタシは壊れた世界で独り、うずくまっていた。
 そして嘘がばれ、ずたぼろの状態になった世界を見、アタシは嗤った。

グラーヴェ「……こいつぁケッサクじゃないか、ES1……世界は闇に呑まれ始めてるし、永遠の命も真っ赤な嘘、全部まやかしだったんだぜ?笑っちまうよ、ほんと……」
作品名:Heterocalion 作家名:神崎 りね